理想とは違うけど魔法の収納庫は稼げるから良しとします

水野忍舞

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こだわり

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「これは良いですね」
「だろ?」

収納庫に入っている池水槽で殺せない大型魔獣の討伐訓練もひと段落した頃、王都邸の庭も完成した。
黒い岩を積み上げて作った山から流れる水流が白い線を描き川に合流後に池に溜まるのがなかなか良い感じだ。
ん、でも、なんか見覚えがえるな?

「何か見たことがあるような」
「わかるか。色彩鯉の居た湖を小さく作ってみたんだ」 
「あ、たしかに!」

へえ、こう言うの面白いな。

「でしたらあの湖から岩や石を集めてきましょうか? 色合いとかも違うでしょうし」
「そいつは良いな、頼めるか!」
「はい、ちょっと相談してきます」

竜騎士さんが居るうちじゃないと一ヶ月以上掛かるからなぁ。



最初は渋ってた竜騎士さんだけど、義理両親がその気になったので行くことになった。
竜騎士さんは一緒に王都へ来たお嬢様やその家族と話してるらしいんだけど、どんな展開になってるかは知らない。
まぁ、義理両親が楽しそうなので変なことにはなっていないと思う。

「お前は早く自分の騎獣を持てよ。俺は何時迄も居ないんだからな」

今は王都を離れたくないのか、そんなことを不機嫌そうに言われた。
わかっては居るんだけれど、つい甘えてしまうんだよね。

収納庫の中に空を飛ぶ魔物はそれなりに入っているのだけれど、乗って言うこと聞いてくれるとも思えないからなぁ。
騎乗訓練をした魔物を売っている店が有るらしいのだが、王宮で認められた人にしか売らないらしいし。
竜騎士さんが言うには王様に認められた俺なら問題無いだろと言うのだけれど、今のところ何もしてないから頼みづらい。何もしてないのに要求するのは周囲からあまり良い目で見られないだろうし、貴族めんどくさそうだし。

「魔物を簡単に乗りこなすスキルなんてないんでしょうか?」
「有るぞ」
「有るんだ!」

それは調教と言うらしい。
魔物や動物に信頼されやすくなるスキルらしく、騎獣屋?で売られているのはその調教スキルを持った人が騎乗訓練をしたのだとか。
機会があったら調教スキル持ちを収納したい。

あと、竜騎士さんの飛竜は代々家に伝わる物なので違うそうだ。



湖の上を飛んでいる。

「色彩鯉が少なくなり黒いのばかりですね」
「売れると知った連中が乱獲したんじゃないのか?」
「それは有りそうですね」
「残りの収納しとくか?」
「この湖から色彩鯉が居なくなるのは寂しくないですか?」
「どうせ他の奴が取ってくさ」

それもそうかと思って収納した、後で王都邸に出しておこう。

自然に生まれてくる色彩鯉は居なくなるかも知れないな。
こうなる前にこの周囲の街や村で管理してもらえば良かったのか? 
そもそも観賞用の魚を育てるって伝わるのだろうか?

「なんか難しいこと考えてるだろ」
「そう言うわけではないですが…」
「考えてるだけ無駄だぞ、答えが出ても過去に戻れないんだからな」
「それもそうですね。気にするだけにしておきます」

岸に降りて目につく物や湖の中に有る岩や砂利、水草などを収納して帰ることにし…。

「なんだこれ?」
「どうした?」
「水の精霊を収納しました」
「戻せ」
「はい」

見なかったことにしよう。

「ひ…」
「どうした」
「右足首を何かに掴まれた気がします…」
「気に入られたか…」
「そんな気は全くしません、怖いだけです」
「貴方のせいよ」 
「俺はまだ死にたくないです、助けてください」

水の精霊だと知らなければずぶ濡れになった少女にしか思えない彼女は話し始める。
俺が色彩鯉と名付けた明るい色の鯉は彼女がこの湖で増やしていたそうだ。
たまたま見つけた色付きの個体だけを集めて交配させて池に住む鯉の4割くらいまで増やしたところを俺が持っていき、その後やってきた別な連中がごっそりと獲っていったのだとか。そいつらはろくな輸送手段もなく、近くの村で死んだ色彩鯉を捨てていったそうだ。

水の精霊には自分が住処にしている場所で汲まれた水の有るところを見る力が有るそうで、死んだ色彩鯉と一緒に捨てられるまで見ていたらしい。

「貴方が持ち出さなければあの男たちも獲りに来なかったと私は思うのよ」
「それは、おそらくそうですね」
「貴方が持ち出した鯉はまだ生きてるの?」
「はい。戻しましょうか?」
「また捨てられるだけだと思うわ」
「そうですね」

その後、良い考えがあるわと笑う水の精霊を収納して王都邸へ戻った。
途中海に寄り道して漁師さん達にクラーケンのお裾分けをした。
水の精霊が出たがったので出し、港町見学をした。収納庫の中から声がしたのは初めてだ、さすが精霊。



2泊3日の旅行?から帰宅。
両親に挨拶し、庭師さんに明日持ってきた物を出すと伝えて離れにこもる。今日は疲れてるので身体を洗って湯舟で疲れを癒した後寝るつもりだ。

「……」
「お風呂で寝ると風邪ひくわよ」
「……」
「仕方がないわね」



目が覚めたら水の精霊が部屋に居た。

「なんで出てるの?」
「精霊だからよ」

答えになってない気もするけど、精霊は出れると覚えた。

「流石に入れないよね?」
「入れるわよ?」

精霊は出入り自由らしい。



水の精霊は庭師さん達に細かく指示をしながら池を作る手伝いをしている。時々庭師さんや出入りの業者と口論してるが、それはそれで楽しいらしい。
俺も池の形を整えるのに使われたが、彼ら彼女らが納得出来るものが完成するなら良いかなと思う。
この池の特等席は離れの部屋なのだから。



完成した池に水の精霊が水を注ぐ。

「あれは何してるの?」
「この池を水の精霊の住処にするってよ」
「へえ~…え? なにそれ?」

良い考えってそれ?
どうなんだろう、ここ俺のうちじゃないし…。

義理両親に確認したら精霊が家に住むのは大歓迎だそうな。
あと、勘違いした貴族がなんかしてくる前に王様に連絡してくれるらしい。
精霊は人の王より上の存在なのだが、人間の貴族以外を認めない困った連中も王都には住んでいるので先手を打って貰うのだとか。

聞かされてないけど、この家と王家ってなんか近しいよね?
王様と領主様の仲が良いってだけではない?
その辺りを先生が説明し忘れてるとも思えないし、知っていて当然なので説明するまでもないのことなのかたんに俺が忘れてるだけなのか。
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