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想い、喪失
しおりを挟むアデルは自室で届いたばかりの手紙の中身を読み終わると椅子の背にもたれかかり、ため息を付いた。
アデルはずっと北方の魔術師やルーザの出自について調べており手紙の中身は、それらの調査報告書だった。
北部には魔術師がいるが数はほんの僅かで、その中でもルーザがしている類の強力な魔術を使える者は現代では、ほとんどいないらしい。
ルーザの領地は国の最北端、国境の山脈に接する辺境だ。その為に中央政治にも、社交界にもほとんど関わりがない。
彼女の家族は当主である父と跡継ぎの長男アルベール、長女ソフィアとルーザの3人兄妹。母親はルーザが生まれる前に他界している。一応、ルーザは傍系から養子縁組で迎えられたことになっていたが、実際はその一家に同じ年頃の子が生まれた記録は無かった。その為、婚外子または血縁の無い養子の可能性が高い。
どちらにせよ、彼女は引き取られてから貴族として徹底的な教育をさせられた後、その美貌と魔術の才を利用し家門のために尽くすことを強いられてきたのだろう。
重圧に押しつぶされそうになっていたアデルを諭した声。あの憂いを帯びた顔。あれは自らも逃げられない重圧や責任を押し付けられていたからだろう。
アデルはルーザが解放される為に何が出来るか考えていた。アデルの家門の方が身分は高い。何か方法はあるはずだ。
*
ルーザがアデルの屋敷を訪れた日、目を覚ますと腕の中に彼女の姿は無かった。使用人に聞くと帰宅したと告げられ、それから当たり前に会えていない。
数日経ったある日の夕刻。アデルは思い切ってルーザの屋敷を訪ねた。一度馬車で送り届けたので場所はわかっていた。こじんまりとしているが、手入れが行き届いた品のある建物だった。
調べた情報では、都に顔を出さないルーザの一族が都に屋敷を持っているはずは無く、彼女の学園編入に合わせて、わざわざ購入したものらしかった。ルーザの都での活動に必要なのだろうと推測する。
屋敷に着くと、とりあえず馬車を帰らせる。門の前に立ち、中を伺うが誰も出てこない。どうしようかと悩んでいると背後から足音が近づいてくる。
「なんで君がここにいるの?」
振り向くと怪訝なルーザが立っている。外套であまり見えないがその服は所々傷つき、血で紅く染まっている。
「どうしたんだ。怪我をしているのか?」
駆け寄り、無事を確かめようと肩を掴んだが振り払われた。
「大丈夫だから僕に構わないで」
ルーザは気が立っているようだった。アデルに構わず門に入る。アデルは、それにショックを受けつつも後を追った。
「大丈夫な訳ないだろ。何があったんだ?」
「もう治したから」
ルーザは屋敷の扉を自ら開け、入っていく。彼女が手を振り払うと、薄暗い室内に灯りが灯った。
「治したっていっても、傷つけられたのは変わらないだろ?誰にやられたんだ」
足早に大階段を上るルーザについていく。2階の一室に入ると、彼女はようやくアデルの方を向いた。
「悪いけど僕は疲れて、……丁度よかった。暇なら湯浴みを手伝ってくれる?」
ルーザは険しかった表情を緩めた。そういえば、屋敷の主人が戻ったというのに使用人が、まったく出迎えにこない。まさか、ルーザは1人でこの屋敷に暮しているのだろうか。
さらにルーザについていくと浴室についた。大きめのバスタブと長椅子があり、バスタブにはたっぷりのお湯が湯気を立ち上らせていた。
ルーザは汚れた衣服を脱ぎ捨てると湯船に身を沈める。その体に傷が無いことが確認でき、アデルは少し安堵した。
湯浴みの手伝いとは何をすればいいのだろうか。迷っていると、ルーザが髪を解いた。
「一緒に入りなよ」
彼女が何気なく言う。アデルは戸惑いながらも、それに従い衣服を脱ぐとルーザの足の間、向かい合うように湯船に浸かった。お湯は温かく自分の手足が冷えていたことを気づかせた。
「で、何をしに来たの?また、躰が切なくなっちゃった?」
「違う。ルーザと話を……」
言い終わる前にルーザが手を振り払う。アデルの全身に違和感が走った。お湯が躰にまとわりつく。全身が撫でられ、特に乳首や陰茎など敏感な部分が何かに締め付けられ、搾り取られるように蠢く。まるで見えない何かに全身を包まれ、愛撫されているようだった。
「気に入った?」
混乱しながら悶えるアデルを見てルーザは微笑んでいる。尻の穴にも温かなお湯が浸入しては出ていく。
「やめろ、入って……」
侵入するお湯の量が増え、体内を水流で押し広げ、擦られる。
「ほら、感じてる顔見せて」
ルーザがアデルを引き寄せ、顎を上げさせる。感じたことのない種類の快感に真っ赤な顔で耐えるアデルを眺める。
「可愛いね。気持ちいいね」
ルーザの優しい声にアデルは背筋が震えた。全身を同時に舐め上げられ、肉棒を締め付けながら、しごかれているような刺激に耐えきれず吐精する。
アデルは悶絶する。まだ硬さが残る内に尿道にまでお湯が入り込み、肉棒を中側からと外側から刺激し始めた。
「こういうの好き?溜まってたでしょ?好きなだけ浸かってていいよ」
残酷なことにルーザはお湯から上がり、バスローブを羽織るとアデルを置いて浴室を出ていった。
アデルは執拗に快楽を与えてくるお湯から逃れようとバスタブを這い出る。抜け出すまでにまた絶頂してしまったが、浴槽から出てしまえば、お湯は無害なものに戻った。アデルは体を拭くための布を適当に体に巻く。
部屋に戻るとルーザは肘掛け椅子に深く腰掛けている。アデルはその足元に膝をつくと、その体を抱きしめる。
「もうよかったの?」
彼女の口角が少し上がっているのが憎たらしい。
「……あんなの望んでない」
アデルは不貞腐れたような返事をして、ルーザの腹のあたりに自分の頭を押し付ける。
「甘えん坊だね」
少し馬鹿にした口調だったが、彼女の手はアデルの頭を優しく撫でた。ルーザもこうしているのが好きだということは、もうわかっていた。
*
冬期休暇が明け、学園に戻ったアデルは自分が学生だということに不思議な感覚になった。
休暇中は屋敷で父や兄の業務を手伝ったり、社交界活動が忙しく、もう成人を迎えたような生活だった。
もともと見かけることが少なかったルーザだが、さらに見かけなくなった。部屋を訪ねても留守で会えないまま、月が変わった。
昼過ぎ、アデルは次の授業に向かうため渡り廊下を歩いていた。ふと窓の外を見るとルーザの姿が目に入る。久しぶりに見る姿に内心、ホッとする。
動向を見守っているとルーザは1人、林へ向かう小道を歩いていく。あんな、誰も立ち入らないような場所に何をしに行くのだろうか。アデルの胸はざわついた。
はやる気持ちを抑えて授業を受けた後、ルーザの部屋を訪ねたが留守だった。出直そうと踵を返すとルーザと同じクラスの生徒を見つけた。
「ルーザを知らないか?」
「さぁ、午後の授業には出ていなかったです。最近は忙しいみたいで週末は、ほとんど学園にいませんよ」
その後、図書館や鍛錬所などを見て回ったがルーザは見つけられない。
アデルは不安な気持ちで林に向かった。あれから、かなり時間が経っているので、もうこんな所に居るはずは無い、と思いながら小道を進む。
林の中は薄く霧がかっている。しばらく歩くと小さな東屋が見えた。こんなところに東屋があったなんて、知らなかった。
近づくと東屋のベンチに横たわるルーザを見つけることが出来た。相当疲れているのだろう。アデルが近づいても起きる様子は無かった。
静かに彼女の頭の方に座り、ルーザの寝顔を眺める。陶器のように滑らかで白い肌。形の良い桃色の唇。長いまつ毛に縁取られた瞼。安らかに眠るルーザは天使の様に清らかに見えた。
ルーザの唇が微かに動き、聞き取れないほどの小さな呟きをこぼす。
「――――」
何度か同じ言葉を繰り返し、ようやく聞き取れたのは男の名前だった。そいつの夢を見ているのだろうか。
たまらなくなって頬に手を伸ばすと、ルーザは瞼を閉じたまま、アデルの腕を掴んだ。
彼女がゆっくりと瞼を開くと、色水晶のような瞳が現れて、アデルを捉える。
「あぁ、君か」
「誰だと思ったんだ?」
「さぁ、忘れたよ。ここは僕の秘密の場所だったのに、知られてしまったね」
ルーザは起き上がると自分の額に手を当てる。
「疲れているのか。ここ最近、忙しいんだろ?」
アデルの問いにルーザは答えなかった。
「何か俺に出来ることはあるか?」
「……じゃあ、その躰で癒してもらおうかな」
ルーザは冗談ぽい声で答えた。アデルはわずかに間を置いてから服を脱ぎ始めた。ルーザは目を丸くする。
「どうした?お前が言ったんだぞ」
アデルは上裸になるとルーザの顎を引き寄せた。
「お前は脱ぐなよ。誰か来たら大変だ」
「誰か来たら、君が脱いでる時点で問題になると思うけど」
ルーザはクスクスと笑う。そんな事はどうでもいい。ルーザの躰を間違っても、誰にも見せたくない。そして、彼女の中から夢で見たのであろう男を追い出したかった。
ルーザに唇を重ねる。お互いに薄めを開け、見つめ合いながら唇を喰む。ルーザの瞳がアデルの瞳を超えて誰かを見ている気がした。夢の男と自分を重ねているのか。だから、俺を下僕にしたのか?
「……俺の名前を呼んでくれ」
「……アデル」
ルーザはアデルの耳元で囁く。アデルはルーザのズボンのボタンを外し、中に手を滑り込ませる。
「もっと呼んでくれ……」
アデルの願いをルーザは叶えた。耳に舌を這わせながら合間に吐息まじりに名前を呼ぶ。アデルの指がルーザの中に入り込み、尖りの裏側を擦る。ルーザの声が所々途切れ、うわずる。
ルーザの気持ちよさそうな様子を見て、アデルの下半身が疼く。物欲しそうなアデルを見て、ルーザは笑みを浮かべて手を振り払う動作をした。
「これで、邪魔は入らないよ」
ルーザが自らズボンを脱ぎ、アデルもズボンをずり下げ、昂る下半身を露出させた。ルーザはベンチの上で股を開き、アデルは彼女にのしかかる。そして、ゆっくりと挿入した。ルーザが身震いする。
彼女は疲れからか、躰が敏感になっているようだった。腰を動かしながら首筋に舌を這わせ、名前を呼ぶよう催促すると、ルーザは途切れ途切れにアデルを呼ぶ。
アデルはルーザを持ち上げ、テーブルに座らせ下から突く。何度も強く押し込む内にルーザは乱れて、かなり消耗していっているようだった。
熱に浮かされたような顔や吐息まじりに、アデルの名前を呼ばれると鳥肌が立つ。
2人は更に激しくお互いの局部を擦り合りあわせ、収縮させ、同時に果てた。
アデルは上裸のままでベンチに横たわり、ルーザが身なりを整えているのを眺めていた。彼女がいつもの姿に戻ると、アデルは起き上がり、口を開いた。
「慰めでいい。俺のことは好きに使え。俺は……ルーザがいればいい。だから、一緒に……」
ルーザはアデルを黙らせるように口づけをする。
「君は本当に、憐れで、可愛くて……。ぐずぐずに甘やかしてあげたくなるね」
ルーザは再度、アデルに優しく口づける。口づけが深まり、彼女はアデルを抱きしめると背中に強く爪をたてた。アデルが痛みに小さく呻く。
「でも同時に滅茶苦茶にしてやりたくもなるから、困ったね」
背の傷跡から血が滲む。それでも、アデルはルーザの細い体をしっかりと抱きしめていた。
アデルはルーザの存在に救われた。ただ同じようにルーザを救いたかった。その為なら何でも出来る。
「“私”はただ生きたいだけなのに、なんで皆放って置いてくれないのかな。なんで、“私”が手に入れたものは、いつも奪われるんだろうね」
その言葉は世間に向けられたものなのか、かつてのアデルに向けられたものなのか、知らない誰かに向けられたものなのか、分からない。
「君を救うなんて言っておいて、救われたかったのは自分だったのかもしれない」
ルーザはアデルの胸を押し、立ち上がった。急に辺りの霧が濃くなる。ルーザは東屋を出てアデルに向き直る。憂いを帯びた顔でアデルを見ていた。
「“僕”の存在は、きっと君の将来の妨げになるだろうから、ここまでにしておこうか」
ルーザが後ずさると、姿が霧の中にぼやけていく。アデルは追いすがろうとするが足が萎えており、地面に倒れ込んだ。呼び止めようと叫んだが、口から声が出ない。
ルーザの姿が完全に霧に隠れ、影だけがかろうじて見えている。
「じゃあね。可愛い“僕”のアデル」
風が吹き、霧が流され、晴れていった。が、そこにいるはずの彼女の姿は跡形も無く消えていた。その場には足跡すら残っておらず、本当にルーザがいたのかも怪しかった。
ルーザは何かの魔術をかけていったのだろう。時間が経つ度に彼女の記憶が曖昧になっていった。
それに気付いたアデルが必死にルーザの記憶をなぞり、そのすべてを反芻しているのに、声を忘れ、名前を忘れ、あんなに美しいと感じた顔も躰も、その姿があやふやになる。どの様に出会ったのかも、どの様に一緒に過ごしたのかも、もう思い出せない。
そしてルーザは記憶さえも残さず去り、アデルの心は彼女から完全に解放された。
アデルの中には覚えの無い喪失感と哀しみだけが残った。
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