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第五章 従者と主
Ⅰ
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サディアスとロウエルが丸2日間部屋から出てこなかった次の日、カガリがサディアスに小言を並べていた。
「あなたは彼らに甘すぎます」
しばらく我慢して聞いていた聖女は口を開いた。
「わたしが出来ないことは知ってるでしょ」
ロウエルへの罰はカガリがこの機会に全員を戒めるために進言したものだった。カガリは白宮の全員を律する。その全員にはサディアスも含まれる。
「カガリは私に厳しい」サディアスは拗ねたように「昔から」と付け加える。
「でも本当はわたしに甘い」カガリの隣に立ち顔と顔が触れられるほど近づけ笑う。「昔から」
カガリはサディアスを見もせず、ため息をついた。
「他の子は2日も会えなかったのに、今日も禁止にするなんて可哀想」
彼女が長椅子に倒れ込んだ。
「可哀想だと思うなら何日も部屋に籠もったりしないでください。とにかく今日は大人しく休みなさい」
「有り余る恩恵のお陰ですぐ回復するんだからいいじゃない」
聖女は思いついたように起き上がる。
「それとも2日も会えなくて寂しかった?今日は一緒に寝ようか?」
軽口をたたくと従者はまた、ため息をついた。
サディアスは間違いなく慈悲深く思いやりに溢れ、奉仕の精神がある聖人であった。が、どうにも誰にでも気安く、人たらしな面があった。
奇跡の力をもち、神に仕えていなければ無意識に多くの男の人生を狂わせていたのではないかと思う。今でさえ彼女と関わった人は男女問わず彼女に心酔してしまう。幸いなのは聖女の周りにはごく少数の人物しかいないこと。不幸なのはその人物たちは特殊な関係ゆえに異常なまでの執着と愛情を彼女に抱いてしまうこと。
彼女の神聖力の性質がわかったときからこうなる事は予測していたが‥。
カガリは大聖人になる現実に怯え泣いていた少女時代のサディアスを思い出せずにはいられなかった。
神聖力の性質は種類がある。大神殿は長い歴史の中で積み上げられたその知識を事細かに書物で残し、厳重に隠し護っていた。
神聖力を持つものは信仰心や忠義に厚いものが多く、ほとんどが神殿や国に仕える道を選ぶ。特に珍しく、強力な特定の性質を持つ者が見つかれば、ほとんど強制的に神殿宮の主となる。
サディアスの癒しの力に周囲が気づいたのは彼女が10歳になるかどうかの頃だった。その話はすぐに大神殿に伝えられ、数人の上位神官がサディアスの生家に派遣された。
彼女の生家は裕福な商家だった。娘の力が並々ならないもので、これから親元を離れ神に嫁がねばならないことを知ると彼女の両親はまだ幼い娘に縋って泣いた。
カガリは、すぐにサディアスが大神殿に向かうこととなったと知らせを受けた。当時16歳だった。
サディアスの母がカガリの叔母にあたりサディアスとは従兄弟同士だ。屋敷が同じ街だったこともあり交流が多く、2人は兄妹のように育った。
一族待望の女の子として皆の愛情を一身に受け育ったサディアスは優しく快活だが、一方で孤独を嫌っていることをカガリはよく知っていた。
カガリはすぐにサディアスの家に向かうと、そこにいた彼女の家族と自分の両親にサディアスに付いていくと告げた。その場にいた全員が躊躇する中、カガリの決心は固かった。
カガリの父は小貴族の家柄で、貴族の家の男児は成人までの間に王城か神殿で奉公しながら学ぶという風習があった。どうせ兄が城での奉公から戻ればどちらかに行く予定だったから、と両親を説き伏せる。両親が渋々承諾しするとサディアスの両親からは心からの感謝を告げられた。
決まったことを伝えようとサディアスの部屋に行くと彼女は1人で静かに泣いていた。
「私も行くよ」
カガリは彼女の前に膝まづき、小さな両手を包み込むように握った。
「ずっと一緒にいるよ」
サディアスは涙を浮かべた碧色の瞳で彼を見上げる。
「ありがとう。兄さま」
そう言って小さな体でカガリに抱きつく。サディアスの体のあたたかさと震えを感じて、一人で行かせないで良かったと安堵した。
それから10年以上、サディアスとカガリは大聖人と従者として共に過ごしてきた。あの時に身分も関係も変化してしまったが、サディアスが子どものように甘えたことをいうのはカガリにだけだった。
「カガリも力が必要みたいよね」
抱きつこうとするサディアスの腕をすり抜けカガリは部屋を出て行った。
「あなたは彼らに甘すぎます」
しばらく我慢して聞いていた聖女は口を開いた。
「わたしが出来ないことは知ってるでしょ」
ロウエルへの罰はカガリがこの機会に全員を戒めるために進言したものだった。カガリは白宮の全員を律する。その全員にはサディアスも含まれる。
「カガリは私に厳しい」サディアスは拗ねたように「昔から」と付け加える。
「でも本当はわたしに甘い」カガリの隣に立ち顔と顔が触れられるほど近づけ笑う。「昔から」
カガリはサディアスを見もせず、ため息をついた。
「他の子は2日も会えなかったのに、今日も禁止にするなんて可哀想」
彼女が長椅子に倒れ込んだ。
「可哀想だと思うなら何日も部屋に籠もったりしないでください。とにかく今日は大人しく休みなさい」
「有り余る恩恵のお陰ですぐ回復するんだからいいじゃない」
聖女は思いついたように起き上がる。
「それとも2日も会えなくて寂しかった?今日は一緒に寝ようか?」
軽口をたたくと従者はまた、ため息をついた。
サディアスは間違いなく慈悲深く思いやりに溢れ、奉仕の精神がある聖人であった。が、どうにも誰にでも気安く、人たらしな面があった。
奇跡の力をもち、神に仕えていなければ無意識に多くの男の人生を狂わせていたのではないかと思う。今でさえ彼女と関わった人は男女問わず彼女に心酔してしまう。幸いなのは聖女の周りにはごく少数の人物しかいないこと。不幸なのはその人物たちは特殊な関係ゆえに異常なまでの執着と愛情を彼女に抱いてしまうこと。
彼女の神聖力の性質がわかったときからこうなる事は予測していたが‥。
カガリは大聖人になる現実に怯え泣いていた少女時代のサディアスを思い出せずにはいられなかった。
神聖力の性質は種類がある。大神殿は長い歴史の中で積み上げられたその知識を事細かに書物で残し、厳重に隠し護っていた。
神聖力を持つものは信仰心や忠義に厚いものが多く、ほとんどが神殿や国に仕える道を選ぶ。特に珍しく、強力な特定の性質を持つ者が見つかれば、ほとんど強制的に神殿宮の主となる。
サディアスの癒しの力に周囲が気づいたのは彼女が10歳になるかどうかの頃だった。その話はすぐに大神殿に伝えられ、数人の上位神官がサディアスの生家に派遣された。
彼女の生家は裕福な商家だった。娘の力が並々ならないもので、これから親元を離れ神に嫁がねばならないことを知ると彼女の両親はまだ幼い娘に縋って泣いた。
カガリは、すぐにサディアスが大神殿に向かうこととなったと知らせを受けた。当時16歳だった。
サディアスの母がカガリの叔母にあたりサディアスとは従兄弟同士だ。屋敷が同じ街だったこともあり交流が多く、2人は兄妹のように育った。
一族待望の女の子として皆の愛情を一身に受け育ったサディアスは優しく快活だが、一方で孤独を嫌っていることをカガリはよく知っていた。
カガリはすぐにサディアスの家に向かうと、そこにいた彼女の家族と自分の両親にサディアスに付いていくと告げた。その場にいた全員が躊躇する中、カガリの決心は固かった。
カガリの父は小貴族の家柄で、貴族の家の男児は成人までの間に王城か神殿で奉公しながら学ぶという風習があった。どうせ兄が城での奉公から戻ればどちらかに行く予定だったから、と両親を説き伏せる。両親が渋々承諾しするとサディアスの両親からは心からの感謝を告げられた。
決まったことを伝えようとサディアスの部屋に行くと彼女は1人で静かに泣いていた。
「私も行くよ」
カガリは彼女の前に膝まづき、小さな両手を包み込むように握った。
「ずっと一緒にいるよ」
サディアスは涙を浮かべた碧色の瞳で彼を見上げる。
「ありがとう。兄さま」
そう言って小さな体でカガリに抱きつく。サディアスの体のあたたかさと震えを感じて、一人で行かせないで良かったと安堵した。
それから10年以上、サディアスとカガリは大聖人と従者として共に過ごしてきた。あの時に身分も関係も変化してしまったが、サディアスが子どものように甘えたことをいうのはカガリにだけだった。
「カガリも力が必要みたいよね」
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