Ωの女王

あぷろ

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雅也

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 雅也は4人兄弟の三番目だった。上に姉、兄がいて下には弟。
 父は忙しい人でほとんど家にいなかったように思う。
 だから必然的に母が家事や育児を一人でやっていた。いわゆるワンオペ。
 そのため母の口癖が「忙しいんだからあまり手間をかけさせないで」だった。
 そうなると当然、爪を切るとか髪を切るとか雅也がまだ一人で出来ないことも一人でするように強要された。ようするにほったらかし。
 雅也が成長してある程度のことは一人で出来るようになると顕著で、少しでも母の手を煩わせるようなことがあると「どうしたの!? 雅也は何でも出来る子じゃない! 手間をかけさせないでよ! ただでさえ大変なんだから!」と放置されることが前より増えた。
 雅也は母の「子供が4人もいて大変なんだから!」という口癖があまり好きではなかった。
 だからその口癖を聞かないようにするために出来るだけ何でも一人で出来るように頑張った。
 一人で出来ることが増えるにつれ雅也の存在は家の中で希薄になっていった。
 存在しているのに存在していないみたいに。
 見えるのに見えないみたいに。
 TVで何度も放映されている子供が一人忘れられて家に取り残される映画では気づいた親が慌てて迎えに戻って行ったけど、きっと自分は気づかれないままなんだろうな・・・・・・と思った時、雅也はあまり家にいたいと思わなくなった。
 自然と夜、家を抜け出して街をうろつくようになった。
 それでも学校には行くようにした。何故ならサボると学校から親に連絡がいって、母のあの言葉をきかされるハメになるからだ。
 そうしていると似たような境遇の連中が寄ってくるもので、絡まれたり誘われたりもした。
 集団でいるよりも一人でいる方が気楽な雅也は当然断っているけれど、それが気に入らないと喧嘩を売られたりもした。
 最初は一方的にボコボコにされるだけだったのが回数をこなしていくうちにそれなりに上手く立ち回れるようになった。
 それでも大勢でこられるとさすがにしんどくて地に倒れることもあるけれども。
 その日は久しぶりに集団を相手にしてそれなりに応戦したとはいえ、多勢に無勢でボロボロになって道に座り込んでいた時だった。
 昇りかけている朝日を遮るように男が雅也の前に立った。
 男は道に座り込んでいる雅也をジロジロ眺めると
 「ふーん、よし、拾うか」
 と一言。
 えっと思う間もなく男は雅也の首根っこを掴むと近くのマンションにまで引っ張って行った。
 そこは雅也が住んでいる所とは違って綺麗で広かった。
 「まあ、適当に座ってよ。手当ては・・・・・・といっても消毒液くらいしかないけど」
 「あ・・・・・・自分で・・・・・・」
 自分で出来ることは自分で、一人ではなかなか出来ないことも自分一人で何とかする、が雅也が家で学んできたことだ。
 「そうかい・・・・・・お、あった」
 渡された消毒液を受け取って、どうしようか・・・・・・とちょっと考えてから結局使わせてもらうことにした。
 というのも雅也には手当をするという習慣がなかったからだ。いつも怪我をしてもほったらかしだった。
 どうせ誰も気にしないし、物は直さないと壊れたままだが人間は放っておいても自然に治るから。
 消毒液を塗りながら雅也はちらと男を盗み見た。
 男は綺麗な顔をしていた。
 小さい頃からベビーシッター代わりにTVを見させられてきた雅也でもTVの中の人たちより顔が良いのがかわる。オーラがあるのも。
 「・・・・・・ありが、とう・・・・・・ございます・・・・・・」
 一通り塗り終わって男の方に消毒液を置くと雅也はペコッと頭を下げた。



 それからお礼をしなきゃを云い訳にして雅也は男の許へ通った。
 そうして何度か通って行くうちに綺麗だと思っていた部屋が実は案外ごちゃっとしているとか放っておいたら食生活がめちゃくちゃだとか気づいてしまって、あ、この人、放っといたらダメな人だ・・・・・・と思った。
 そう思ってから雅也は部屋の片付けをしたり食事を作ったりするようになった。
 掃除は兄と弟が散らかした部屋を片付けていたから慣れていたし、料理も失敗しながらでも上達していった。
 おけげでもともと器用な性質もあいまって高校を卒業するまでには何でも出来るようになっていた。

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