12 / 15
プレミアムなフライデーな新世界
異世界は少年少女とともに
しおりを挟む
ラフロイグ(字を読み上げる係)の立ち会いのもと、契約書にサインして、円卓の間の入り口に行くと赤髪も鮮やかなエーテルに迎えられた。
間違いない。絶対この娘、髪の毛の色変わってる。茹で前と茹で後のエビみたい。エビ娘。水族館のマスコットキャラみてーだな。
「(よっし!!) さあ山田さん、いっちょ、世界獲っていきましょう!」
「話変わってるよ!」
飛び跳ねんばかりの勢いで、赤髪娘が距離を詰めてくる。
最初からそうだけど、やたらとスケールのデカイ話は、俺のどこを見たら出てくるんだろう。金色の瞳が眩しい。光学的にも精神的にも眩しい。
「似たようなもんですよ。では、エーテルさんともども、よろしくお願いします」
横で俺のカバンを持った灰色のモフモフが俺を見上げる。
どっちかっていうと、彼の表情、無愛想ってか無感情って方が近いな。
雰囲気は犬っぽいのに、表情の乏しさは近所のノラネコに匹敵するレベルだ。猫はふてぶてしい。そのわり俺が近づくと、威厳も貫禄も捨てて電光石火の速さで逃げる。
ラフロイグ。君は、俺のことどう思ってるのかな?
陛下と宰相に一礼して、円卓の間を出る。
灯光に照らされた仄明るい石の回廊を、この後のことをわいわい話し合う少年少女と歩く。
そうして改めて、同じことを考える。
空は飛べない。階段十段飛びもヒザがブレイク。暗黒微笑は底に秘めたモノがダンチ過ぎて敵う気がしないし、筋肉宰相の前に立てばモヤシ。
この連中の間では一点の曇り無き一般人だと言い張れる。
そんな俺が、世界救うとか獲りにいくってはしゃいでる少女(+少年)の“お守り”をする。
うーん。まあ。
見切り発車で引き受けたけど、とりあえず、彼らに異論はなさそうだ。
少なくとも一人は喜んでくれてるから、いっか。俺は何をすりゃ良いのか、おいおい見えてくるだろ。
廊下の窓から夜空が見える。快晴、無数の星がビーズ撒いたみたく散らばってる。
……窓つったけど、これ窓じゃねえな。カベを四角くぶち抜いた、紛う事なき大穴だ。
3人くらいは余裕で通れそうな大きさに、風通しよし、見晴らしよし、ありえないけど人の出入りにもよし。
出入りがあったとしても虫かトリくらいだろうと、俺は思う。
「(そうだ!) 山田さん、屋根登りましょう! お手を拝借しますね!」
「へっ?」
赤髪娘が急に振り返って、お手と言いながらやっぱり俺の手首をつかむ。
「ラフロイグも!」
「わっ! ちょ、エーテルさん!?」
と同時に、素早くラフロイグを小脇に抱える。おお、珍しく彼がうろたえてる。
なんてのんびりしてられたのもほんの束の間だった。スルーしてはならない。彼女は屋根に登ると言っていた。
「行っきますよー!」
「うぇ? そっちって……」
「外! 外ですよ!」
抱えられたままのラフロイグが、悲痛な声で行き先を訴える。
ガラスなし、カベを四角く切り取っただけの窓(大穴)をぽっぴんジャンプで飛び出して、夜のトバリへダイナミック外出。ありえないって言ったそばから人が出ちゃったよ!
おまけにただの外出じゃねえ。ここまで延々階段登り続けて来て、それを踏まえて城の外に出るんだから、当然、空中。思った通りかなり高い。
「ぎゃああ(涙目)!!」
「(ふふ) ラフロイグは、高いとこ苦手? 山田さんはどうですか?」
「……(足震え)」
「おお、流石の貫禄です!」
夜風がヒューヒュー吹く。足下は何もない。動かしてもスカッてなる。
手に冷や汗が。ヒエッ。
貫禄? 俺が? 喋らないのは奥歯噛み締めてっからだし、ガニ股でWi○フィットやってるような体勢で硬直してんのに!?
おい、空中タコ踊りとか思ったやつ、いっぺん同じ目に遭ってみろ!
下は暗くて良く見えないけど、風に吹かれて明暗が波打ってるあたり草っ原だろうか。
高さは……考えたくねえ。ウチのオフィスの10階から眺めた景色に近い。
下が見えようがこの際ガラスでもかまわん。支えを、足場をくれえ。
エーテルがとん、と空気を蹴って、一足飛びに円錐形の屋根にふわっと乗る。
今度は足が着くには着くんだけど、傾斜がキツすぎて足場にならない。手首離されたらスキーみたく滑落する。
もちろん俺のWi○フィットポーズは当面続く。ラフロイグは小脇に抱えられたまま動きがない。
このたそがれた感じ、俺は知ってる。予防注射打った後のワンコだな。
「楽しいですか? 世界って、こんなにでっかいんですよ!」
「お、おお」
ゆっくりと顔を上げると、満天の星空に照らされた、黒と濃紺の織り成す世界が広がる。
わりかし小振りな、石造りの城の一部分と、右手に、その陰から伸びる小さな川。
左手にはずーっと向こうまで続く道と、視界の端に、遠くの方にちょっと影の濃い起伏が見える。山脈かな。
あとはだだっ広い草原と、はるか先の道沿いにポツポツ黒胡麻みたいな家っぽいの。
遠くを見るとすこし気分も落ち着いて、吹き渡る風が気持ちいい。立ってる場所がよけりゃ詩の一つでも作れそうだ。
「綺麗だ」
頭ん中空っぽにしてそんなこと言ったのって、いつぶりだっけか。
握られてる手の方を見れば、ニコニコ楽しそうな赤髪娘と、その脇で涙目のまま時が止まってる灰色モフモフ少年。
ああ。
こんな感動を、君たちと共にできるなら。
悩んだ甲斐が、あったかもしれない。
俺はそう、思った。
*****
どれだけ瑣末なことであれ、悩んだことに意義はある。
お前が思考を巡らせた分だけ、世界もまた、違った答えを返すだろう。
黒い影は静かに、宵闇へと溶けていった。
間違いない。絶対この娘、髪の毛の色変わってる。茹で前と茹で後のエビみたい。エビ娘。水族館のマスコットキャラみてーだな。
「(よっし!!) さあ山田さん、いっちょ、世界獲っていきましょう!」
「話変わってるよ!」
飛び跳ねんばかりの勢いで、赤髪娘が距離を詰めてくる。
最初からそうだけど、やたらとスケールのデカイ話は、俺のどこを見たら出てくるんだろう。金色の瞳が眩しい。光学的にも精神的にも眩しい。
「似たようなもんですよ。では、エーテルさんともども、よろしくお願いします」
横で俺のカバンを持った灰色のモフモフが俺を見上げる。
どっちかっていうと、彼の表情、無愛想ってか無感情って方が近いな。
雰囲気は犬っぽいのに、表情の乏しさは近所のノラネコに匹敵するレベルだ。猫はふてぶてしい。そのわり俺が近づくと、威厳も貫禄も捨てて電光石火の速さで逃げる。
ラフロイグ。君は、俺のことどう思ってるのかな?
陛下と宰相に一礼して、円卓の間を出る。
灯光に照らされた仄明るい石の回廊を、この後のことをわいわい話し合う少年少女と歩く。
そうして改めて、同じことを考える。
空は飛べない。階段十段飛びもヒザがブレイク。暗黒微笑は底に秘めたモノがダンチ過ぎて敵う気がしないし、筋肉宰相の前に立てばモヤシ。
この連中の間では一点の曇り無き一般人だと言い張れる。
そんな俺が、世界救うとか獲りにいくってはしゃいでる少女(+少年)の“お守り”をする。
うーん。まあ。
見切り発車で引き受けたけど、とりあえず、彼らに異論はなさそうだ。
少なくとも一人は喜んでくれてるから、いっか。俺は何をすりゃ良いのか、おいおい見えてくるだろ。
廊下の窓から夜空が見える。快晴、無数の星がビーズ撒いたみたく散らばってる。
……窓つったけど、これ窓じゃねえな。カベを四角くぶち抜いた、紛う事なき大穴だ。
3人くらいは余裕で通れそうな大きさに、風通しよし、見晴らしよし、ありえないけど人の出入りにもよし。
出入りがあったとしても虫かトリくらいだろうと、俺は思う。
「(そうだ!) 山田さん、屋根登りましょう! お手を拝借しますね!」
「へっ?」
赤髪娘が急に振り返って、お手と言いながらやっぱり俺の手首をつかむ。
「ラフロイグも!」
「わっ! ちょ、エーテルさん!?」
と同時に、素早くラフロイグを小脇に抱える。おお、珍しく彼がうろたえてる。
なんてのんびりしてられたのもほんの束の間だった。スルーしてはならない。彼女は屋根に登ると言っていた。
「行っきますよー!」
「うぇ? そっちって……」
「外! 外ですよ!」
抱えられたままのラフロイグが、悲痛な声で行き先を訴える。
ガラスなし、カベを四角く切り取っただけの窓(大穴)をぽっぴんジャンプで飛び出して、夜のトバリへダイナミック外出。ありえないって言ったそばから人が出ちゃったよ!
おまけにただの外出じゃねえ。ここまで延々階段登り続けて来て、それを踏まえて城の外に出るんだから、当然、空中。思った通りかなり高い。
「ぎゃああ(涙目)!!」
「(ふふ) ラフロイグは、高いとこ苦手? 山田さんはどうですか?」
「……(足震え)」
「おお、流石の貫禄です!」
夜風がヒューヒュー吹く。足下は何もない。動かしてもスカッてなる。
手に冷や汗が。ヒエッ。
貫禄? 俺が? 喋らないのは奥歯噛み締めてっからだし、ガニ股でWi○フィットやってるような体勢で硬直してんのに!?
おい、空中タコ踊りとか思ったやつ、いっぺん同じ目に遭ってみろ!
下は暗くて良く見えないけど、風に吹かれて明暗が波打ってるあたり草っ原だろうか。
高さは……考えたくねえ。ウチのオフィスの10階から眺めた景色に近い。
下が見えようがこの際ガラスでもかまわん。支えを、足場をくれえ。
エーテルがとん、と空気を蹴って、一足飛びに円錐形の屋根にふわっと乗る。
今度は足が着くには着くんだけど、傾斜がキツすぎて足場にならない。手首離されたらスキーみたく滑落する。
もちろん俺のWi○フィットポーズは当面続く。ラフロイグは小脇に抱えられたまま動きがない。
このたそがれた感じ、俺は知ってる。予防注射打った後のワンコだな。
「楽しいですか? 世界って、こんなにでっかいんですよ!」
「お、おお」
ゆっくりと顔を上げると、満天の星空に照らされた、黒と濃紺の織り成す世界が広がる。
わりかし小振りな、石造りの城の一部分と、右手に、その陰から伸びる小さな川。
左手にはずーっと向こうまで続く道と、視界の端に、遠くの方にちょっと影の濃い起伏が見える。山脈かな。
あとはだだっ広い草原と、はるか先の道沿いにポツポツ黒胡麻みたいな家っぽいの。
遠くを見るとすこし気分も落ち着いて、吹き渡る風が気持ちいい。立ってる場所がよけりゃ詩の一つでも作れそうだ。
「綺麗だ」
頭ん中空っぽにしてそんなこと言ったのって、いつぶりだっけか。
握られてる手の方を見れば、ニコニコ楽しそうな赤髪娘と、その脇で涙目のまま時が止まってる灰色モフモフ少年。
ああ。
こんな感動を、君たちと共にできるなら。
悩んだ甲斐が、あったかもしれない。
俺はそう、思った。
*****
どれだけ瑣末なことであれ、悩んだことに意義はある。
お前が思考を巡らせた分だけ、世界もまた、違った答えを返すだろう。
黒い影は静かに、宵闇へと溶けていった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
おっさんは 勇者なんかにゃならねえよ‼
とめきち
ファンタジー
農業法人に出向していたカズマ(名前だけはカッコいい。)は、しょぼくれた定年間際のおっさんだった。
ある日、トラクターに乗っていると、橋から落ちてしまう。
気がつけば、変な森の中。
カズマの冒険が始まる。
「なろう」で、二年に渡って書いて来ましたが、ちょっとはしょりすぎな気がしましたので、さらに加筆修正してリメイクいたしました。
あらすじではない話にしたかったです。
もっと心の動きとか、書き込みたいと思っています。
気がついたら、なろうの小説が削除されてしまいました。
ただいま、さらなるリメイクを始めました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる