翔べない翼

古代 こしろ

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 神は人々に手をさし伸ばすことを許した。翼をあたえ生きることを許した。人が住むためだけの世界に分けた。

人は自然から引き離された。自然とかわり信仰をよこした。それが御使いという。

 御使いの1人ラズリルは神とつながる場に舞い戻る。翼を持つ少年がそうさせる。

  御使いは皆のためのモノ、それは何も持たないということなのか。

  誰かのモノになれないと言うのだ。


「あの少年に会えたのか」

 知り合いの御使いから尋ねられ、肯定する。

「御使いは、誰かのモノになってはいけない。皆のためにあるのだから。分かっているだろう」

「そうだろう。だが私は思う。何ももっていないということではないかと」

「あなたが御使いでいられるのが不思議だよ」

 1人残された。

 翼をもつ子に「おまえは翔べない」と言い続けてきた。そうでないと

あのこは翔んで『向こう』へ行ってしまう。戻ってこなくなることを恐れていた。

 ラズリルが翼を持つ子を引き取った親であった。神と御使いにとめられ、直に会うことも名乗ることも許されないでいる。

衣食住を与えているだけとなっている。

 
 親を失くした子供たちから、あの子をみつけた。他にも翼を持つ子がいなかったわけではない。御使い候補として子供たち

の希望となるため訪ねたにすぎなかった。

 あの子をみつけ自分の元にいさせたいと思ったのだ。ほかの子でもなく。御使いになる子でもなく。


 すぐに引き取ることにしたが、戻った時には反対もされ、疑問も抱かれたが貫いた。ただし親を知られてはならないと。


 ラズリルがあの子に会えるのは祈りの時だけ。同じ表情しか見られない。傷つけられていても声をかけられない。

 それも定められていた。呼び止められていても、振り向いてもいけなかったのに、はじめて聞く声で去るのを忘れた。

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