桃野くんは色恋なんて興味ない!

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#3生徒会編

桃野くんのぽんぽ

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「先生、タロちゃんにちょっかいかけてるんですか」
「そうそう、コイツは絡み甲斐があるぞ」
「迷惑そうな顔されてるじゃないですか」
「コイツいつもこんな顔だぞ」

 おい今、俺馬鹿にされたよな。人を外見で判断するとか許すまじ。教師じゃなくてもやべぇ発言だぜ。

「タロちゃんめっちゃ不服そうな顔でウケる」
「勝手にウケないでください」

 白雪さんは流れるように俺の隣に座った。ぼふんっとフワフワのソファが音を立てて沈む。やっぱり、このソファ高いやつだわ。
 ソファに沈んだ白雪さんは「あーもう、やだやだ」と何かを愚痴りながら俺の方へ凭れかかってきた。距離感バグ。

「ねぇ聞いてよタロちゃーん、風紀の委員長わかる?」
「志野さんのことですか?」
「そうそう、志野ちゃん。アイツ、ちょーっと風紀のシステムをハッキングしたくらいでめっちゃ怒ってきやがった」
「はあ」

 ハッキングとは? つか、それは怒られて当然じゃね? そう思ったが色々とややこしくなりそうだったので飲み込む。白雪さんは眉間に皺を寄せ、可愛いお顔を怒りに歪めていた。

「それ白雪が悪くね?」

 言うのかよ。
 頼んでもないのに、春暁先生が俺の言いたかったことをサラリと代弁してくれた。白雪さんはそう言われても、眉間に皺を寄せて怒っている。
 言論ヒートアップの予感。

「いやまぁ確かに? 僕にも非があると思いますがあんなブチ切れます? 器が小さすぎだってば」
「ハッキングって何したんですか」
「新歓の時に生徒の居場所を把握するために、ちょーっと情報を見せてもらっただけだよ。無許可で」

 あれハッキングだったんか。

「タロちゃん、あの物分りの悪いお堅い風紀委員長になんか言ってよー!」
「嫌です、絶対に」
「お願いー!」
「命が惜しいんで」
「じゃあ春暁先生言ってやってください!」
「俺はそんなに暇じゃねぇ」
「じゃあシュイちゃん!」

 白雪さんはそう言って、仕事熱心の赤髪の後輩の方を向いた。赤野 朱色だからシュイちゃんなんだろう。ちゃん付けで言うと一気に距離感が近くなるな。シュイちゃんは、こちらなどノールックで

「変なことに巻き込まないでください」

 と言った。クールだぜ。

「冷たい人の集まりだ……」

 そう言って、しょんぼり白雪さん。

「そんな他力本願になるんじゃなくて、自分で言いに行けよ。自業自得なんだから」
「ひっでー、それでも教師ですか?」
「教師だが」

 白雪さんはムーッと、拗ねたように頬を膨らましていた。可愛い。可愛いんだけど───。

「これ、俺がいる意味あります?」
「あっ! そうそう、ごめんね!」

 突然放たれた卑屈のようにも受け取れるその言葉に、白雪さんは「いる意味あるよ」と笑う。

「タロちゃんさ、連絡先ちゃんと追加してくれた?」
「あ」
「追加してないよね。忘れちゃったのかなって思って……連絡できないと何かと不便じゃん?」
「えっ、だから呼び出したんですか?」

 「うん」と頷く彼は、まったく悪びれた風じゃなくて完全な善意であることは見て取れた。オッケーオッケー、これは俺にも非があるかもしれない。あの気がついた時に登録すればよかったよ、こんなことになるなら。なんとなく思ってたけど、白雪さんって行動力の鬼か。

「フルフルしとく?」
「それもう機能停止しましたよ」
「そういえばそうだった」
「フルフルとか何時代だよ」
「先生は黙っといてくださいね」

 俺たちはスマホを振ったりせずに、大人しくQRコードで交換した。

「なにこのアイコン」
「可愛いですよね」
「うんめっちゃ可愛い」

 鬼原先輩のアイコンはどこに行っても好評だ。やはり世界に通用するな、この猫もどきの可愛さは。今度先輩に伝えとこ。
 白雪さんのアイコンは可愛らしいワンワンの写真だった。白雪さんの家の飼い犬だろうか。犬については詳しくないのだが、この子はコーギーだと思われる。犬可愛いよね。俺も犬派だから仲良くなれそう。仲良くなりたいかは別として。

「えっともう連絡先交換したんで、帰っていいですか?」
「めっちゃ帰りたがるね」
「飯食ってないんで」
「なるほど、食欲には抗えないね。一緒に食べる?」
「冗談がお上手で」
「あら、ありがとう」

 白雪さんは俺のツレない反応に不貞腐れるわけでもなく、ただ軽快に笑っていた。
 この人、見た目は麗しスウィートって感じなのに、中身まで甘いわけじゃない。甘ったるくくっついてくるんじゃなくて、去るもの追わず来るもの拒まずのタイプなのかもしれない。浦戸によく似てる。
 とかそんなことを思っていたところで、キュウ~とお腹が音を立てて鳴った。すぐさま生徒会室を支配する沈黙。おっとおっと、恥ずかしいんですけど?! 桃野くんのぽんぽ、空気読めなすぎでは?
 よぉし、ここはいっちょ春暁先生に押し付けてしまおう! そうだ、そうしてしまおう。
 あたかも先生がお腹を鳴らしたかのように「え~先生もお腹減ってるんスか」と言う。言おうと思った。阻止された。世は無情。

「タロちゃん、本当にお腹減ってるんだ」
「…………ッ」

 問題は、その時の白雪さんの顔ですよね。そんなにニコニコしちゃって……ご機嫌そうでなにより。俺は死にたいですよ。

「えっ……そんなに真っ赤になるほど恥ずかしい?」
「もうお嫁さんに行けない……」
「可愛いじゃねぇか」
「軽率に殺意が湧いてきます……」
「こわ」

 俺のみっともない姿を見たやつは全員殺してやる……。とんでもない思想が脳内をよぎる。もう嫌だ、溶けてしまいたい。こんな生徒会とかさ、全然縁もない奴らと絡むからこんなことになっちまうんだよ。絶対に一日デートが終わったら縁切ってやる。いや、切る縁もないかもしれない。

「林檎みたいで可愛いね」
「白雪さんにも殺意……」
「あら怖い」
「全員殺してやる……」
「ちょっと待って落ち着いて」
「教え子が殺人犯になるとかすげぇ嫌なんだけど」
「もういい、お里に帰らせていただきます!」

 そう言って勢いよく立ち上がった。すると此方を鋭い目で見つめている赤野さんと目が合ってしまう。え? MK5? マジで殺される五秒前だったりする?
 しょうもない人間だし生きてる価値はないかもしれないけど、まだ死にたくない。さっきまで死にたいとかほざいてた癖に、死を目の前にすると生が名残惜しいもんだ。
 赤野さんの凄みを前にしてみっともなく泣きそうになりつつも、五秒後に殺されるんだったらその前に逃げりゃよくね? とポジティブシンキング発動する。

「ありがとうございました! もう二度とここには来ません! 失礼します!」

 敵前逃亡、三十六計逃げるに如かず。どうしても命が惜しいもので。桃野、逃げ足だけには自信があるんですわな。
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