4 / 56
#1 王道転入生編
王道転入生
しおりを挟む
「ははーん、さては桃野信じてないだろ?」と、まるで迷宮無しの小学生探偵のように、そう言い当てた浦戸。俺は信じてないので正直に頷いた。
「転入生って言ったよな?」
「転入生って言ったよ」
「そんなことあるかよ」
「あるんだよ」
いや、普通に考えておかしい。それなのに浦戸は確信したような笑みを崩さない。
「今は五月だぞ? 転入生って、なんでこんな中途半端な時期に」
「王道転入生だからだよ!」
「王道?」
「そうそれ! ついにきたよ! この時が!」
「なにそれ」
「腐男子でよかった! 今この時に生きていることを誇りに思うよ。俺の昨日までが報われた気分だ」
「いや、なにそれ」
「本当に素晴らしいと思わない?! 思うよね、やっぱり。まさか王道転入生が実在したなんてな。今まで半信半疑だった自分が恥ずかしいぜ」
出た、浦戸の人の話を聞かないマシンガントークモード。わけがわからん。なんだ、その王道転入生ってやつは。ちゃんと同じ言語で、わかるように話してほしい。
何を隠そう、浦戸 海くんは俗に言う腐男子である。腐男子とは、男と男の恋愛を好む人種のことを指す。俺とは全く無縁な世界。
コイツは、なかなかの危険人物だ。
俺のことをノンケでノット腐男子だと知っておきながら、「お前、同室といい雰囲気だよな!」とか「桃野はタチとネコどっちに興味ある?」とか「最近、良い出会いあった?」とか訊いてくる。さらには「桃野をこの学園の巻き込まれ総受け主人公にしよう」とか言い始めた時期もあった。あの時は、俺でよからぬ妄想をし始める浦戸を止めるのが大変だったぜ……。
「俺はこの学園のことを王道学園だと思ってたんだよ! そう、あれは遠い昔……俺がまだ、この腐の界隈に入ってきたばかりの頃だった……。王道学園との出会いは、本当に強烈なものだったよ、ウン」
走り出したら止まれない猪のように、話し出したらそのまま濁流のように話し続ける浦戸。
ペラペラと饒舌に喋る彼の話を聞き流し、俺はクラスを眺めていた。
こんな話をいちいち聞いてたら、途中でノイローゼになって発狂してしまうからね。宇宙人(彼は地球人だが、こうなったらもう宇宙人同然である。意思疎通は不可能)とはもう喋れない。
そこで、心なしか同級生たちがザワザワしていることに気がついた。みんな落ち着きがない。聞き耳を立てれば「転入生」という言葉があちらこちらから聞こえる。
……えぇ? マジで来んの、転入生?
浦戸だけでなく、クラスのみんなが転入生(王道転入生とやら)について話していた。嘘だと思っていたが、これはマジか? マジなのか? 浦戸だけの情報では信頼に欠けるが、みんなが言っているなら話が違う。
もしも転入生が来るという話が真実なら、なんでみんなは知ってるんだ。果たして、みんなが情報強者なのか俺が情報弱者なのか。
「おーい、HRはじめっぞー」
あ、春暁先生きちゃったわ。
そう言って、浦戸は口を閉じる。さすがに先生が来たら、話を途中でやめられるらしい。この宇宙人、猪よりかは頭がいいんだな。先生が来たことによって、他のクラスメイトも喋るのをピタリとやめた。
「なーんだか、今日おちつきねぇな」
そう言う先生の見た目こそ、落ち着きがないものだ。2年B組担任、春暁 茨。
彼は派手すぎる見た目で、裏で生徒たちに『ホスト教師』と呼ばれていた。教師として、あるまじきあだ名ですね。
と言っても、そのあだ名は的を得ている。
容姿端麗、すらりとした体躯、黒の髪に入っている緑のメッシュ、深緑の瞳。気怠げな態度。いかにも女の子を誑かしてそうな見た目だ。そして、極め付けは、たまにぶち込まれるセクハラ発言。去年の体育祭で、俺の体を見て「桃野、お前良い体してるんだな。押し倒し心地良さそー」と、笑って言われた時には鳥肌が立った。そういうのを世間ではセクシャルハラスメントと言うんですよ、先生。
見た目やら何やら、彼は『ホスト教師』という異名に恥じることない。教師としては恥じるべきだと思うが。まあ、先生方も働き改革っていうのをやってんのだろう。少々、度が過ぎると思うけどね。
「ま、転入生来るんだししかたねーか」
そこで明かされる衝撃の事実。なんていうことだ。転入生が来るという情報は、俺以外には周知の事実だったらしい。いつの間に! 俺が情報弱者だった! 疑ってごめんな、浦戸……。
「中途半端な時期での編入だが、仲良くしてやれよ」
そう言って、春暁先生は手招きをした。転入生か……どんな感じなのかな? ワクワク。好奇心に満ち溢れた視線で、みんなが教室のドアを見つめる。水を打ったような静けさの教室に入ってきたのは───小柄な可愛らしい男の子だった。
ただし、マリモだ。
繰り返そう。ただし、マリモであった。
「転入生って言ったよな?」
「転入生って言ったよ」
「そんなことあるかよ」
「あるんだよ」
いや、普通に考えておかしい。それなのに浦戸は確信したような笑みを崩さない。
「今は五月だぞ? 転入生って、なんでこんな中途半端な時期に」
「王道転入生だからだよ!」
「王道?」
「そうそれ! ついにきたよ! この時が!」
「なにそれ」
「腐男子でよかった! 今この時に生きていることを誇りに思うよ。俺の昨日までが報われた気分だ」
「いや、なにそれ」
「本当に素晴らしいと思わない?! 思うよね、やっぱり。まさか王道転入生が実在したなんてな。今まで半信半疑だった自分が恥ずかしいぜ」
出た、浦戸の人の話を聞かないマシンガントークモード。わけがわからん。なんだ、その王道転入生ってやつは。ちゃんと同じ言語で、わかるように話してほしい。
何を隠そう、浦戸 海くんは俗に言う腐男子である。腐男子とは、男と男の恋愛を好む人種のことを指す。俺とは全く無縁な世界。
コイツは、なかなかの危険人物だ。
俺のことをノンケでノット腐男子だと知っておきながら、「お前、同室といい雰囲気だよな!」とか「桃野はタチとネコどっちに興味ある?」とか「最近、良い出会いあった?」とか訊いてくる。さらには「桃野をこの学園の巻き込まれ総受け主人公にしよう」とか言い始めた時期もあった。あの時は、俺でよからぬ妄想をし始める浦戸を止めるのが大変だったぜ……。
「俺はこの学園のことを王道学園だと思ってたんだよ! そう、あれは遠い昔……俺がまだ、この腐の界隈に入ってきたばかりの頃だった……。王道学園との出会いは、本当に強烈なものだったよ、ウン」
走り出したら止まれない猪のように、話し出したらそのまま濁流のように話し続ける浦戸。
ペラペラと饒舌に喋る彼の話を聞き流し、俺はクラスを眺めていた。
こんな話をいちいち聞いてたら、途中でノイローゼになって発狂してしまうからね。宇宙人(彼は地球人だが、こうなったらもう宇宙人同然である。意思疎通は不可能)とはもう喋れない。
そこで、心なしか同級生たちがザワザワしていることに気がついた。みんな落ち着きがない。聞き耳を立てれば「転入生」という言葉があちらこちらから聞こえる。
……えぇ? マジで来んの、転入生?
浦戸だけでなく、クラスのみんなが転入生(王道転入生とやら)について話していた。嘘だと思っていたが、これはマジか? マジなのか? 浦戸だけの情報では信頼に欠けるが、みんなが言っているなら話が違う。
もしも転入生が来るという話が真実なら、なんでみんなは知ってるんだ。果たして、みんなが情報強者なのか俺が情報弱者なのか。
「おーい、HRはじめっぞー」
あ、春暁先生きちゃったわ。
そう言って、浦戸は口を閉じる。さすがに先生が来たら、話を途中でやめられるらしい。この宇宙人、猪よりかは頭がいいんだな。先生が来たことによって、他のクラスメイトも喋るのをピタリとやめた。
「なーんだか、今日おちつきねぇな」
そう言う先生の見た目こそ、落ち着きがないものだ。2年B組担任、春暁 茨。
彼は派手すぎる見た目で、裏で生徒たちに『ホスト教師』と呼ばれていた。教師として、あるまじきあだ名ですね。
と言っても、そのあだ名は的を得ている。
容姿端麗、すらりとした体躯、黒の髪に入っている緑のメッシュ、深緑の瞳。気怠げな態度。いかにも女の子を誑かしてそうな見た目だ。そして、極め付けは、たまにぶち込まれるセクハラ発言。去年の体育祭で、俺の体を見て「桃野、お前良い体してるんだな。押し倒し心地良さそー」と、笑って言われた時には鳥肌が立った。そういうのを世間ではセクシャルハラスメントと言うんですよ、先生。
見た目やら何やら、彼は『ホスト教師』という異名に恥じることない。教師としては恥じるべきだと思うが。まあ、先生方も働き改革っていうのをやってんのだろう。少々、度が過ぎると思うけどね。
「ま、転入生来るんだししかたねーか」
そこで明かされる衝撃の事実。なんていうことだ。転入生が来るという情報は、俺以外には周知の事実だったらしい。いつの間に! 俺が情報弱者だった! 疑ってごめんな、浦戸……。
「中途半端な時期での編入だが、仲良くしてやれよ」
そう言って、春暁先生は手招きをした。転入生か……どんな感じなのかな? ワクワク。好奇心に満ち溢れた視線で、みんなが教室のドアを見つめる。水を打ったような静けさの教室に入ってきたのは───小柄な可愛らしい男の子だった。
ただし、マリモだ。
繰り返そう。ただし、マリモであった。
61
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
異世界転生したけどBLだった。
覚える
BL
「行ってきまーす!」
そう言い、玄関の扉を開け足を踏み出した瞬間、
「うわぁぁ〜!?」
玄関の扉の先にはそこの見えない穴があいてあった。俺は穴の中に落ちていきながら気を失った。
気がついた時には知らない屋敷にいた―――
⚠注意⚠️
※投稿頻度が遅い。
※誤字脱字がある。
※設定ガバガバ
などなど……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
無自覚お師匠様は弟子達に愛される
雪柳れの
BL
10年前。サレア皇国の武力の柱である四龍帝が忽然と姿を消した。四龍帝は国内外から強い支持を集め、彼が居なくなったことは瞬く間に広まって、近隣国を巻き込む大騒動に発展してしまう。そんなこと露も知らない四龍帝こと寿永は実は行方不明となった10年間、山奥の村で身分を隠して暮らしていた!?理由は四龍帝の名前の由来である直属の部下、四天王にあったらしい。四天王は師匠でもある四龍帝を異常なまでに愛し、終いには結婚の申し出をするまでに……。こんなに弟子らが自分に執着するのは自分との距離が近いせいで色恋をまともにしてこなかったせいだ!と言う考えに至った寿永は10年間俗世との関わりを断ち、ひとりの従者と一緒にそれはそれは悠々自適な暮らしを送っていた……が、風の噂で皇国の帝都が大変なことになっている、と言うのを聞き、10年振りに戻ってみると、そこに居たのはもっとずっと栄えた帝都で……。大変なことになっているとは?と首を傾げた寿永の前に現れたのは、以前よりも増した愛と執着を抱えた弟子らで……!?
それに寿永を好いていたのはその四天王だけでは無い……!?
無自覚鈍感師匠は周りの愛情に翻弄されまくる!!
(※R指定のかかるような場面には“R”と記載させて頂きます)
中華風BLストーリー、ここに開幕!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お前ら、、頼むから正気に戻れや!!
彩ノ華
BL
母の再婚で俺に弟が出来た。義理の弟だ。
小さい頃の俺はとにかく弟をイジメまくった。
高校生になり奴とも同じ学校に通うことになった
(わざわざ偏差値の低い学校にしたのに…)
優秀で真面目な子と周りは思っているようだが…上辺だけのアイツの笑顔が俺は気に食わなかった。
俺よりも葵を大事にする母に腹を立て…家出をする途中、トラックに惹かれてしまい命を落とす。
しかし目を覚ますと小さい頃の俺に戻っていた。
これは義弟と仲良くやり直せるチャンスなのでは、、!?
ツンデレな兄が義弟に優しく接するにつれて義弟にはもちろん愛され、周りの人達からも愛されるお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!
彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど…
…平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!!
登場人物×恋には無自覚な主人公
※溺愛
❀気ままに投稿
❀ゆるゆる更新
❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる