桃野くんは色恋なんて興味ない!

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#1 王道転入生編

王道転入生

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 「ははーん、さては桃野信じてないだろ?」と、まるで迷宮無しの小学生探偵のように、そう言い当てた浦戸。俺は信じてないので正直に頷いた。

「転入生って言ったよな?」
「転入生って言ったよ」
「そんなことあるかよ」
「あるんだよ」

 いや、普通に考えておかしい。それなのに浦戸は確信したような笑みを崩さない。

「今は五月だぞ? 転入生って、なんでこんな中途半端な時期に」

「王道転入生だからだよ!」

「王道?」

「そうそれ! ついにきたよ! この時が!」

「なにそれ」

「腐男子でよかった! 今この時に生きていることを誇りに思うよ。俺の昨日までが報われた気分だ」

「いや、なにそれ」

「本当に素晴らしいと思わない?! 思うよね、やっぱり。まさか王道転入生が実在したなんてな。今まで半信半疑だった自分が恥ずかしいぜ」

 出た、浦戸の人の話を聞かないマシンガントークモード。わけがわからん。なんだ、その王道転入生ってやつは。ちゃんと同じ言語で、わかるように話してほしい。

 何を隠そう、浦戸 海くんは俗に言う腐男子である。腐男子とは、男と男の恋愛を好む人種のことを指す。俺とは全く無縁な世界。
 コイツは、なかなかの危険人物だ。
 俺のことをノンケでノット腐男子だと知っておきながら、「お前、同室といい雰囲気だよな!」とか「桃野はタチとネコどっちに興味ある?」とか「最近、良い出会いあった?」とか訊いてくる。さらには「桃野をこの学園の巻き込まれ総受け主人公にしよう」とか言い始めた時期もあった。あの時は、俺でよからぬ妄想をし始める浦戸を止めるのが大変だったぜ……。

「俺はこの学園のことを王道学園だと思ってたんだよ! そう、あれは遠い昔……俺がまだ、この腐の界隈に入ってきたばかりの頃だった……。王道学園との出会いは、本当に強烈なものだったよ、ウン」


 走り出したら止まれない猪のように、話し出したらそのまま濁流のように話し続ける浦戸。
 ペラペラと饒舌に喋る彼の話を聞き流し、俺はクラスを眺めていた。
 こんな話をいちいち聞いてたら、途中でノイローゼになって発狂してしまうからね。宇宙人(彼は地球人だが、こうなったらもう宇宙人同然である。意思疎通は不可能)とはもう喋れない。

 そこで、心なしか同級生たちがザワザワしていることに気がついた。みんな落ち着きがない。聞き耳を立てれば「転入生」という言葉があちらこちらから聞こえる。

 ……えぇ? マジで来んの、転入生?

 浦戸だけでなく、クラスのみんなが転入生(王道転入生とやら)について話していた。嘘だと思っていたが、これはマジか? マジなのか? 浦戸だけの情報では信頼に欠けるが、みんなが言っているなら話が違う。
 もしも転入生が来るという話が真実なら、なんでみんなは知ってるんだ。果たして、みんなが情報強者なのか俺が情報弱者なのか。

「おーい、HRはじめっぞー」

 あ、春暁先生きちゃったわ。
 そう言って、浦戸は口を閉じる。さすがに先生が来たら、話を途中でやめられるらしい。この宇宙人、猪よりかは頭がいいんだな。先生が来たことによって、他のクラスメイトも喋るのをピタリとやめた。

「なーんだか、今日おちつきねぇな」

 そう言う先生の見た目こそ、落ち着きがないものだ。2年B組担任、春暁 茨。

 彼は派手すぎる見た目で、裏で生徒たちに『ホスト教師』と呼ばれていた。教師として、あるまじきあだ名ですね。

 と言っても、そのあだ名は的を得ている。

 容姿端麗、すらりとした体躯、黒の髪に入っている緑のメッシュ、深緑の瞳。気怠げな態度。いかにも女の子を誑かしてそうな見た目だ。そして、極め付けは、たまにぶち込まれるセクハラ発言。去年の体育祭で、俺の体を見て「桃野、お前良い体してるんだな。押し倒し心地良さそー」と、笑って言われた時には鳥肌が立った。そういうのを世間ではセクシャルハラスメントと言うんですよ、先生。

 見た目やら何やら、彼は『ホスト教師』という異名に恥じることない。教師としては恥じるべきだと思うが。まあ、先生方も働き改革っていうのをやってんのだろう。少々、度が過ぎると思うけどね。

「ま、転入生来るんだししかたねーか」

 そこで明かされる衝撃の事実。なんていうことだ。転入生が来るという情報は、俺以外には周知の事実だったらしい。いつの間に! 俺が情報弱者だった! 疑ってごめんな、浦戸……。

「中途半端な時期での編入だが、仲良くしてやれよ」

 そう言って、春暁先生は手招きをした。転入生か……どんな感じなのかな? ワクワク。好奇心に満ち溢れた視線で、みんなが教室のドアを見つめる。水を打ったような静けさの教室に入ってきたのは───小柄な可愛らしい男の子だった。

 ただし、マリモだ。

 繰り返そう。ただし、マリモであった。
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