4 / 52
#1 王道転入生編
王道転入生
しおりを挟む
「ははーん、さては桃野信じてないだろ?」と、まるで迷宮無しの小学生探偵のように、そう言い当てた浦戸。俺は信じてないので正直に頷いた。
「転入生って言ったよな?」
「転入生って言ったよ」
「そんなことあるかよ」
「あるんだよ」
いや、普通に考えておかしい。それなのに浦戸は確信したような笑みを崩さない。
「今は五月だぞ? 転入生って、なんでこんな中途半端な時期に」
「王道転入生だからだよ!」
「王道?」
「そうそれ! ついにきたよ! この時が!」
「なにそれ」
「腐男子でよかった! 今この時に生きていることを誇りに思うよ。俺の昨日までが報われた気分だ」
「いや、なにそれ」
「本当に素晴らしいと思わない?! 思うよね、やっぱり。まさか王道転入生が実在したなんてな。今まで半信半疑だった自分が恥ずかしいぜ」
出た、浦戸の人の話を聞かないマシンガントークモード。わけがわからん。なんだ、その王道転入生ってやつは。ちゃんと同じ言語で、わかるように話してほしい。
何を隠そう、浦戸 海くんは俗に言う腐男子である。腐男子とは、男と男の恋愛を好む人種のことを指す。俺とは全く無縁な世界。
コイツは、なかなかの危険人物だ。
俺のことをノンケでノット腐男子だと知っておきながら、「お前、同室といい雰囲気だよな!」とか「桃野はタチとネコどっちに興味ある?」とか「最近、良い出会いあった?」とか訊いてくる。さらには「桃野をこの学園の巻き込まれ総受け主人公にしよう」とか言い始めた時期もあった。あの時は、俺でよからぬ妄想をし始める浦戸を止めるのが大変だったぜ……。
「俺はこの学園のことを王道学園だと思ってたんだよ! そう、あれは遠い昔……俺がまだ、この腐の界隈に入ってきたばかりの頃だった……。王道学園との出会いは、本当に強烈なものだったよ、ウン」
走り出したら止まれない猪のように、話し出したらそのまま濁流のように話し続ける浦戸。
ペラペラと饒舌に喋る彼の話を聞き流し、俺はクラスを眺めていた。
こんな話をいちいち聞いてたら、途中でノイローゼになって発狂してしまうからね。宇宙人(彼は地球人だが、こうなったらもう宇宙人同然である。意思疎通は不可能)とはもう喋れない。
そこで、心なしか同級生たちがザワザワしていることに気がついた。みんな落ち着きがない。聞き耳を立てれば「転入生」という言葉があちらこちらから聞こえる。
……えぇ? マジで来んの、転入生?
浦戸だけでなく、クラスのみんなが転入生(王道転入生とやら)について話していた。嘘だと思っていたが、これはマジか? マジなのか? 浦戸だけの情報では信頼に欠けるが、みんなが言っているなら話が違う。
もしも転入生が来るという話が真実なら、なんでみんなは知ってるんだ。果たして、みんなが情報強者なのか俺が情報弱者なのか。
「おーい、HRはじめっぞー」
あ、春暁先生きちゃったわ。
そう言って、浦戸は口を閉じる。さすがに先生が来たら、話を途中でやめられるらしい。この宇宙人、猪よりかは頭がいいんだな。先生が来たことによって、他のクラスメイトも喋るのをピタリとやめた。
「なーんだか、今日おちつきねぇな」
そう言う先生の見た目こそ、落ち着きがないものだ。2年B組担任、春暁 茨。
彼は派手すぎる見た目で、裏で生徒たちに『ホスト教師』と呼ばれていた。教師として、あるまじきあだ名ですね。
と言っても、そのあだ名は的を得ている。
容姿端麗、すらりとした体躯、黒の髪に入っている緑のメッシュ、深緑の瞳。気怠げな態度。いかにも女の子を誑かしてそうな見た目だ。そして、極め付けは、たまにぶち込まれるセクハラ発言。去年の体育祭で、俺の体を見て「桃野、お前良い体してるんだな。押し倒し心地良さそー」と、笑って言われた時には鳥肌が立った。そういうのを世間ではセクシャルハラスメントと言うんですよ、先生。
見た目やら何やら、彼は『ホスト教師』という異名に恥じることない。教師としては恥じるべきだと思うが。まあ、先生方も働き改革っていうのをやってんのだろう。少々、度が過ぎると思うけどね。
「ま、転入生来るんだししかたねーか」
そこで明かされる衝撃の事実。なんていうことだ。転入生が来るという情報は、俺以外には周知の事実だったらしい。いつの間に! 俺が情報弱者だった! 疑ってごめんな、浦戸……。
「中途半端な時期での編入だが、仲良くしてやれよ」
そう言って、春暁先生は手招きをした。転入生か……どんな感じなのかな? ワクワク。好奇心に満ち溢れた視線で、みんなが教室のドアを見つめる。水を打ったような静けさの教室に入ってきたのは───小柄な可愛らしい男の子だった。
ただし、マリモだ。
繰り返そう。ただし、マリモであった。
「転入生って言ったよな?」
「転入生って言ったよ」
「そんなことあるかよ」
「あるんだよ」
いや、普通に考えておかしい。それなのに浦戸は確信したような笑みを崩さない。
「今は五月だぞ? 転入生って、なんでこんな中途半端な時期に」
「王道転入生だからだよ!」
「王道?」
「そうそれ! ついにきたよ! この時が!」
「なにそれ」
「腐男子でよかった! 今この時に生きていることを誇りに思うよ。俺の昨日までが報われた気分だ」
「いや、なにそれ」
「本当に素晴らしいと思わない?! 思うよね、やっぱり。まさか王道転入生が実在したなんてな。今まで半信半疑だった自分が恥ずかしいぜ」
出た、浦戸の人の話を聞かないマシンガントークモード。わけがわからん。なんだ、その王道転入生ってやつは。ちゃんと同じ言語で、わかるように話してほしい。
何を隠そう、浦戸 海くんは俗に言う腐男子である。腐男子とは、男と男の恋愛を好む人種のことを指す。俺とは全く無縁な世界。
コイツは、なかなかの危険人物だ。
俺のことをノンケでノット腐男子だと知っておきながら、「お前、同室といい雰囲気だよな!」とか「桃野はタチとネコどっちに興味ある?」とか「最近、良い出会いあった?」とか訊いてくる。さらには「桃野をこの学園の巻き込まれ総受け主人公にしよう」とか言い始めた時期もあった。あの時は、俺でよからぬ妄想をし始める浦戸を止めるのが大変だったぜ……。
「俺はこの学園のことを王道学園だと思ってたんだよ! そう、あれは遠い昔……俺がまだ、この腐の界隈に入ってきたばかりの頃だった……。王道学園との出会いは、本当に強烈なものだったよ、ウン」
走り出したら止まれない猪のように、話し出したらそのまま濁流のように話し続ける浦戸。
ペラペラと饒舌に喋る彼の話を聞き流し、俺はクラスを眺めていた。
こんな話をいちいち聞いてたら、途中でノイローゼになって発狂してしまうからね。宇宙人(彼は地球人だが、こうなったらもう宇宙人同然である。意思疎通は不可能)とはもう喋れない。
そこで、心なしか同級生たちがザワザワしていることに気がついた。みんな落ち着きがない。聞き耳を立てれば「転入生」という言葉があちらこちらから聞こえる。
……えぇ? マジで来んの、転入生?
浦戸だけでなく、クラスのみんなが転入生(王道転入生とやら)について話していた。嘘だと思っていたが、これはマジか? マジなのか? 浦戸だけの情報では信頼に欠けるが、みんなが言っているなら話が違う。
もしも転入生が来るという話が真実なら、なんでみんなは知ってるんだ。果たして、みんなが情報強者なのか俺が情報弱者なのか。
「おーい、HRはじめっぞー」
あ、春暁先生きちゃったわ。
そう言って、浦戸は口を閉じる。さすがに先生が来たら、話を途中でやめられるらしい。この宇宙人、猪よりかは頭がいいんだな。先生が来たことによって、他のクラスメイトも喋るのをピタリとやめた。
「なーんだか、今日おちつきねぇな」
そう言う先生の見た目こそ、落ち着きがないものだ。2年B組担任、春暁 茨。
彼は派手すぎる見た目で、裏で生徒たちに『ホスト教師』と呼ばれていた。教師として、あるまじきあだ名ですね。
と言っても、そのあだ名は的を得ている。
容姿端麗、すらりとした体躯、黒の髪に入っている緑のメッシュ、深緑の瞳。気怠げな態度。いかにも女の子を誑かしてそうな見た目だ。そして、極め付けは、たまにぶち込まれるセクハラ発言。去年の体育祭で、俺の体を見て「桃野、お前良い体してるんだな。押し倒し心地良さそー」と、笑って言われた時には鳥肌が立った。そういうのを世間ではセクシャルハラスメントと言うんですよ、先生。
見た目やら何やら、彼は『ホスト教師』という異名に恥じることない。教師としては恥じるべきだと思うが。まあ、先生方も働き改革っていうのをやってんのだろう。少々、度が過ぎると思うけどね。
「ま、転入生来るんだししかたねーか」
そこで明かされる衝撃の事実。なんていうことだ。転入生が来るという情報は、俺以外には周知の事実だったらしい。いつの間に! 俺が情報弱者だった! 疑ってごめんな、浦戸……。
「中途半端な時期での編入だが、仲良くしてやれよ」
そう言って、春暁先生は手招きをした。転入生か……どんな感じなのかな? ワクワク。好奇心に満ち溢れた視線で、みんなが教室のドアを見つめる。水を打ったような静けさの教室に入ってきたのは───小柄な可愛らしい男の子だった。
ただし、マリモだ。
繰り返そう。ただし、マリモであった。
51
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
眠り姫
虹月
BL
そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。
ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる