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#2 新入生歓迎会編
生徒会書記
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それから、だいぶ経った。
誰かが、森に入ってくる気配はあったが、俺のとこには近づかず、みんな去っていた。やばい、ここ安置すぎる。
「素晴らしいなぁ」
と、呑気に、この場所とこの場所を見つけた俺に、心の中で拍手を送っていた。平和が一番。終わりまでこのまま、この調子だといいなぁ、だとか考えていた。しかし、近くから咳き込む音が聞こえることで、そんな考えも中止せざるを得なくなる。
「ゴホッ、ゴホン、ゴホン」
辛そうな咳の音が、静かな森の中に響き渡る。音的に近そうだが、いろいろと大丈夫か、これ。俺の安否もそうだし、咳き込んでいる人の容態も心配だ。
だがしかし、この咳き込んでいる彼は、ただ風邪気味なだけかもしれない。相手がどんな状態なのかわからないまま飛び出してしまった場合、もし相手がケイサツ側だったら、ゲームの性質上、俺は捕まってしまう。たとえ、相手が捕まえる意思がなくてもである。
そういえば、このゲームの仕組みについて、まだ皆様にご紹介していなかったな。
ゲームが始まる前に、全員に漏れなく、最新鋭の技術を使っているであろうリストバンドが配られた。何やら、そのデータは風紀が管理しているらしく、ドロボウの人がケイサツに近づいた場合、このリストバンドの水晶画面が赤から青に変化して、捕まったことになってしまう。
触れてなくても、ある一定の距離近づいただけでそうなってしまうらしい───詳しいことはボーッとしてて聞いていないが、たぶん大方こんな感じ。デマを流してたら、すいませんね。
「ゴホッ……ッン……」
「…………」
んー、いくら捕まってしまう危険性を孕んでいれど、こんなにも辛そうに咳き込んでいる相手を、さすがに無視はできない。相手がケイサツだってもう別いい。辛いであろう人を放っとくべきではないのは俺でもわかる。
ヒョコ、と咳の聞こえる方に視線を配れば、地面にしゃがみ込んでいる美形がいた。想像の五百倍辛そうだ。そして、朗報。彼はビブスを身につけていなかった。つまりドロボウ! 味方! 捕まることを気にしないで済む。こうなれば、善は急げ!
「大丈夫ですか」
そう言って近づけば、美形とバチリと視線が交差した。肩ぐらいまであるミルクティーの髪に、ビー玉のようにまんまるで綺麗な翡翠の瞳。お人形さんみたいな美形である。
ふと、浦戸の言う男の娘っていうのは、こういう人のことなのかと、場違いなことを考えた。
近づいて、視線が交差して数秒後───リストバンドが『ピロン』と電子音を立てて、赤から青へ変化する。……いや、なんで?
「心配、ありがとう」
お嬢様のような美形は、にこり、と気品のある笑みを浮かべて、俺を見つめた。その顔色は普通で、咳だってもう止まっている。あれ、思った五百倍辛そうじゃない。
ていうか、なんか、この顔見たことある。そう思ったのだが、麗しの美形は、俺に考える暇など与えないで、俺の手をグッと掴んで立ち上がった。意外と馬鹿力。情報がキャパオーバーしそう。そんな細い小枝みたいな腕から、よくそんな力が出るもんだ。
「桃野くん、だよね?」
「アッ、ハイ、そうです」
「だよね、やっぱり」
そう言って笑うお嬢は、やっぱり、何も辛そうじゃない。
「咳、大丈夫なんですか」
「うん、大丈夫も何も、元々辛くなかったよ」
「え?」
「すべては、君のことを誘き寄せるためだから」
翡翠の瞳に捕らわれて、視線が離せなくなる。彼は優雅な所作で、ジャージのポケットからスマホを取り出し、その画面を俺に見せつけてきた。
目に飛び込んでくるのは、白だけの単調な画面。そこには、ただ二つ、青い丸が表示されていた。そして、その横に小さく“桃野 太郎”と“白雪 姫花”という文字が表示されている。
「これ、なんですか」
「風紀が管理してる全生徒の位置情報」
「えっ」
「そのリストバンドが、風紀に場所を伝えてるの」
それはなんとなくわかる。だけど、なんで、その情報を一般生徒が持っているんだよ。いや、この人は一般生徒じゃないのか。
「ふふっ、君に捕まえてもらえて嬉しいよ」
「生徒会書記の白雪って言います。よろしくね───タロちゃん」そう言って、美しい翡翠の瞳が三日月を描き、端正な顔は奥深い笑みを浮かべた。
誰かが、森に入ってくる気配はあったが、俺のとこには近づかず、みんな去っていた。やばい、ここ安置すぎる。
「素晴らしいなぁ」
と、呑気に、この場所とこの場所を見つけた俺に、心の中で拍手を送っていた。平和が一番。終わりまでこのまま、この調子だといいなぁ、だとか考えていた。しかし、近くから咳き込む音が聞こえることで、そんな考えも中止せざるを得なくなる。
「ゴホッ、ゴホン、ゴホン」
辛そうな咳の音が、静かな森の中に響き渡る。音的に近そうだが、いろいろと大丈夫か、これ。俺の安否もそうだし、咳き込んでいる人の容態も心配だ。
だがしかし、この咳き込んでいる彼は、ただ風邪気味なだけかもしれない。相手がどんな状態なのかわからないまま飛び出してしまった場合、もし相手がケイサツ側だったら、ゲームの性質上、俺は捕まってしまう。たとえ、相手が捕まえる意思がなくてもである。
そういえば、このゲームの仕組みについて、まだ皆様にご紹介していなかったな。
ゲームが始まる前に、全員に漏れなく、最新鋭の技術を使っているであろうリストバンドが配られた。何やら、そのデータは風紀が管理しているらしく、ドロボウの人がケイサツに近づいた場合、このリストバンドの水晶画面が赤から青に変化して、捕まったことになってしまう。
触れてなくても、ある一定の距離近づいただけでそうなってしまうらしい───詳しいことはボーッとしてて聞いていないが、たぶん大方こんな感じ。デマを流してたら、すいませんね。
「ゴホッ……ッン……」
「…………」
んー、いくら捕まってしまう危険性を孕んでいれど、こんなにも辛そうに咳き込んでいる相手を、さすがに無視はできない。相手がケイサツだってもう別いい。辛いであろう人を放っとくべきではないのは俺でもわかる。
ヒョコ、と咳の聞こえる方に視線を配れば、地面にしゃがみ込んでいる美形がいた。想像の五百倍辛そうだ。そして、朗報。彼はビブスを身につけていなかった。つまりドロボウ! 味方! 捕まることを気にしないで済む。こうなれば、善は急げ!
「大丈夫ですか」
そう言って近づけば、美形とバチリと視線が交差した。肩ぐらいまであるミルクティーの髪に、ビー玉のようにまんまるで綺麗な翡翠の瞳。お人形さんみたいな美形である。
ふと、浦戸の言う男の娘っていうのは、こういう人のことなのかと、場違いなことを考えた。
近づいて、視線が交差して数秒後───リストバンドが『ピロン』と電子音を立てて、赤から青へ変化する。……いや、なんで?
「心配、ありがとう」
お嬢様のような美形は、にこり、と気品のある笑みを浮かべて、俺を見つめた。その顔色は普通で、咳だってもう止まっている。あれ、思った五百倍辛そうじゃない。
ていうか、なんか、この顔見たことある。そう思ったのだが、麗しの美形は、俺に考える暇など与えないで、俺の手をグッと掴んで立ち上がった。意外と馬鹿力。情報がキャパオーバーしそう。そんな細い小枝みたいな腕から、よくそんな力が出るもんだ。
「桃野くん、だよね?」
「アッ、ハイ、そうです」
「だよね、やっぱり」
そう言って笑うお嬢は、やっぱり、何も辛そうじゃない。
「咳、大丈夫なんですか」
「うん、大丈夫も何も、元々辛くなかったよ」
「え?」
「すべては、君のことを誘き寄せるためだから」
翡翠の瞳に捕らわれて、視線が離せなくなる。彼は優雅な所作で、ジャージのポケットからスマホを取り出し、その画面を俺に見せつけてきた。
目に飛び込んでくるのは、白だけの単調な画面。そこには、ただ二つ、青い丸が表示されていた。そして、その横に小さく“桃野 太郎”と“白雪 姫花”という文字が表示されている。
「これ、なんですか」
「風紀が管理してる全生徒の位置情報」
「えっ」
「そのリストバンドが、風紀に場所を伝えてるの」
それはなんとなくわかる。だけど、なんで、その情報を一般生徒が持っているんだよ。いや、この人は一般生徒じゃないのか。
「ふふっ、君に捕まえてもらえて嬉しいよ」
「生徒会書記の白雪って言います。よろしくね───タロちゃん」そう言って、美しい翡翠の瞳が三日月を描き、端正な顔は奥深い笑みを浮かべた。
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