30 / 52
#2 新入生歓迎会編
生徒会書記
しおりを挟む
それから、だいぶ経った。
誰かが、森に入ってくる気配はあったが、俺のとこには近づかず、みんな去っていた。やばい、ここ安置すぎる。
「素晴らしいなぁ」
と、呑気に、この場所とこの場所を見つけた俺に、心の中で拍手を送っていた。平和が一番。終わりまでこのまま、この調子だといいなぁ、だとか考えていた。しかし、近くから咳き込む音が聞こえることで、そんな考えも中止せざるを得なくなる。
「ゴホッ、ゴホン、ゴホン」
辛そうな咳の音が、静かな森の中に響き渡る。音的に近そうだが、いろいろと大丈夫か、これ。俺の安否もそうだし、咳き込んでいる人の容態も心配だ。
だがしかし、この咳き込んでいる彼は、ただ風邪気味なだけかもしれない。相手がどんな状態なのかわからないまま飛び出してしまった場合、もし相手がケイサツ側だったら、ゲームの性質上、俺は捕まってしまう。たとえ、相手が捕まえる意思がなくてもである。
そういえば、このゲームの仕組みについて、まだ皆様にご紹介していなかったな。
ゲームが始まる前に、全員に漏れなく、最新鋭の技術を使っているであろうリストバンドが配られた。何やら、そのデータは風紀が管理しているらしく、ドロボウの人がケイサツに近づいた場合、このリストバンドの水晶画面が赤から青に変化して、捕まったことになってしまう。
触れてなくても、ある一定の距離近づいただけでそうなってしまうらしい───詳しいことはボーッとしてて聞いていないが、たぶん大方こんな感じ。デマを流してたら、すいませんね。
「ゴホッ……ッン……」
「…………」
んー、いくら捕まってしまう危険性を孕んでいれど、こんなにも辛そうに咳き込んでいる相手を、さすがに無視はできない。相手がケイサツだってもう別いい。辛いであろう人を放っとくべきではないのは俺でもわかる。
ヒョコ、と咳の聞こえる方に視線を配れば、地面にしゃがみ込んでいる美形がいた。想像の五百倍辛そうだ。そして、朗報。彼はビブスを身につけていなかった。つまりドロボウ! 味方! 捕まることを気にしないで済む。こうなれば、善は急げ!
「大丈夫ですか」
そう言って近づけば、美形とバチリと視線が交差した。肩ぐらいまであるミルクティーの髪に、ビー玉のようにまんまるで綺麗な翡翠の瞳。お人形さんみたいな美形である。
ふと、浦戸の言う男の娘っていうのは、こういう人のことなのかと、場違いなことを考えた。
近づいて、視線が交差して数秒後───リストバンドが『ピロン』と電子音を立てて、赤から青へ変化する。……いや、なんで?
「心配、ありがとう」
お嬢様のような美形は、にこり、と気品のある笑みを浮かべて、俺を見つめた。その顔色は普通で、咳だってもう止まっている。あれ、思った五百倍辛そうじゃない。
ていうか、なんか、この顔見たことある。そう思ったのだが、麗しの美形は、俺に考える暇など与えないで、俺の手をグッと掴んで立ち上がった。意外と馬鹿力。情報がキャパオーバーしそう。そんな細い小枝みたいな腕から、よくそんな力が出るもんだ。
「桃野くん、だよね?」
「アッ、ハイ、そうです」
「だよね、やっぱり」
そう言って笑うお嬢は、やっぱり、何も辛そうじゃない。
「咳、大丈夫なんですか」
「うん、大丈夫も何も、元々辛くなかったよ」
「え?」
「すべては、君のことを誘き寄せるためだから」
翡翠の瞳に捕らわれて、視線が離せなくなる。彼は優雅な所作で、ジャージのポケットからスマホを取り出し、その画面を俺に見せつけてきた。
目に飛び込んでくるのは、白だけの単調な画面。そこには、ただ二つ、青い丸が表示されていた。そして、その横に小さく“桃野 太郎”と“白雪 姫花”という文字が表示されている。
「これ、なんですか」
「風紀が管理してる全生徒の位置情報」
「えっ」
「そのリストバンドが、風紀に場所を伝えてるの」
それはなんとなくわかる。だけど、なんで、その情報を一般生徒が持っているんだよ。いや、この人は一般生徒じゃないのか。
「ふふっ、君に捕まえてもらえて嬉しいよ」
「生徒会書記の白雪って言います。よろしくね───タロちゃん」そう言って、美しい翡翠の瞳が三日月を描き、端正な顔は奥深い笑みを浮かべた。
誰かが、森に入ってくる気配はあったが、俺のとこには近づかず、みんな去っていた。やばい、ここ安置すぎる。
「素晴らしいなぁ」
と、呑気に、この場所とこの場所を見つけた俺に、心の中で拍手を送っていた。平和が一番。終わりまでこのまま、この調子だといいなぁ、だとか考えていた。しかし、近くから咳き込む音が聞こえることで、そんな考えも中止せざるを得なくなる。
「ゴホッ、ゴホン、ゴホン」
辛そうな咳の音が、静かな森の中に響き渡る。音的に近そうだが、いろいろと大丈夫か、これ。俺の安否もそうだし、咳き込んでいる人の容態も心配だ。
だがしかし、この咳き込んでいる彼は、ただ風邪気味なだけかもしれない。相手がどんな状態なのかわからないまま飛び出してしまった場合、もし相手がケイサツ側だったら、ゲームの性質上、俺は捕まってしまう。たとえ、相手が捕まえる意思がなくてもである。
そういえば、このゲームの仕組みについて、まだ皆様にご紹介していなかったな。
ゲームが始まる前に、全員に漏れなく、最新鋭の技術を使っているであろうリストバンドが配られた。何やら、そのデータは風紀が管理しているらしく、ドロボウの人がケイサツに近づいた場合、このリストバンドの水晶画面が赤から青に変化して、捕まったことになってしまう。
触れてなくても、ある一定の距離近づいただけでそうなってしまうらしい───詳しいことはボーッとしてて聞いていないが、たぶん大方こんな感じ。デマを流してたら、すいませんね。
「ゴホッ……ッン……」
「…………」
んー、いくら捕まってしまう危険性を孕んでいれど、こんなにも辛そうに咳き込んでいる相手を、さすがに無視はできない。相手がケイサツだってもう別いい。辛いであろう人を放っとくべきではないのは俺でもわかる。
ヒョコ、と咳の聞こえる方に視線を配れば、地面にしゃがみ込んでいる美形がいた。想像の五百倍辛そうだ。そして、朗報。彼はビブスを身につけていなかった。つまりドロボウ! 味方! 捕まることを気にしないで済む。こうなれば、善は急げ!
「大丈夫ですか」
そう言って近づけば、美形とバチリと視線が交差した。肩ぐらいまであるミルクティーの髪に、ビー玉のようにまんまるで綺麗な翡翠の瞳。お人形さんみたいな美形である。
ふと、浦戸の言う男の娘っていうのは、こういう人のことなのかと、場違いなことを考えた。
近づいて、視線が交差して数秒後───リストバンドが『ピロン』と電子音を立てて、赤から青へ変化する。……いや、なんで?
「心配、ありがとう」
お嬢様のような美形は、にこり、と気品のある笑みを浮かべて、俺を見つめた。その顔色は普通で、咳だってもう止まっている。あれ、思った五百倍辛そうじゃない。
ていうか、なんか、この顔見たことある。そう思ったのだが、麗しの美形は、俺に考える暇など与えないで、俺の手をグッと掴んで立ち上がった。意外と馬鹿力。情報がキャパオーバーしそう。そんな細い小枝みたいな腕から、よくそんな力が出るもんだ。
「桃野くん、だよね?」
「アッ、ハイ、そうです」
「だよね、やっぱり」
そう言って笑うお嬢は、やっぱり、何も辛そうじゃない。
「咳、大丈夫なんですか」
「うん、大丈夫も何も、元々辛くなかったよ」
「え?」
「すべては、君のことを誘き寄せるためだから」
翡翠の瞳に捕らわれて、視線が離せなくなる。彼は優雅な所作で、ジャージのポケットからスマホを取り出し、その画面を俺に見せつけてきた。
目に飛び込んでくるのは、白だけの単調な画面。そこには、ただ二つ、青い丸が表示されていた。そして、その横に小さく“桃野 太郎”と“白雪 姫花”という文字が表示されている。
「これ、なんですか」
「風紀が管理してる全生徒の位置情報」
「えっ」
「そのリストバンドが、風紀に場所を伝えてるの」
それはなんとなくわかる。だけど、なんで、その情報を一般生徒が持っているんだよ。いや、この人は一般生徒じゃないのか。
「ふふっ、君に捕まえてもらえて嬉しいよ」
「生徒会書記の白雪って言います。よろしくね───タロちゃん」そう言って、美しい翡翠の瞳が三日月を描き、端正な顔は奥深い笑みを浮かべた。
32
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
眠り姫
虹月
BL
そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。
ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる