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#1 王道転入生編

クールな自己紹介

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 おはよーございます!
 嬉しいことに、今日は不吉な夢を見ませんでした! 大優勝!

「加賀美、おはよう! 飯食いに行こうぜ!」
「おはよー、桃ちゃん。朝から元気だね」

 加賀美は、寝起きのふんわりとした笑みを浮かべた。真剣な顔も、へにゃっとした顔も、絵になるなんて勝てる気がしない。そもそも勝負は始まってすらいない。結果は目に見えてるのに、比べること自体愚かすぎた。
 イケメンのそれらの多彩な表情を、すべて独り占めできちゃうなんて、同室って最高。優越感に浸ってしまうぜ。

 やっぱり昨日のあのシリアスは、夢だったんだな! それか、俺がシリアルにして食べたんだよな。

「ふは、桃ちゃん寝癖ついてる」
「え? マジで?」

 急いで鏡を見て確認すれば、確かにぴょこんと寝癖がついていた。あらやだ恥ずかしいわ。
 水でペッペと揃えれば、すぐに寝癖は無くなった。

「いいね、桃ちゃんストレートで。あんまり癖ないでしょ?」
「そういう加賀美もストレートだろ」
「うん、まあそうなんだけど、寝癖めっちゃつくし、それが意外と頑固なんだよね」

 確かに、毎朝加賀美は寝癖と悪戦苦闘している。俺は五秒あれば寝癖は直ってしまうのだが……大変だな、色々。

「でも、寝癖がつくのは、髪がしっかりしてるかららしいよ」
「そうなんだ」
「俺は、加賀美の銀髪好きだよ」

 加賀美の銀髪に手を伸ばして、さらりと梳いてみる。すると、指は何にもつっかえずにスッと通った。

「……綺麗だな」
「んんっ! 桃ちゃん、ちょっと」

 「そういうのは控えた方が、いいかも」そう言う加賀美は、なぜか真っ赤な顔をしている。

「あっ、なんか気に障った?」
「全然そんなことないよ! なんでもない」
「あ、ほんと? よかった」
「そんなことより、一緒に朝食食べに行こう!」

 加賀美は髪の毛を手櫛で整えながら、そう言った。



「鈴芽!」

 朝食を食べようと、加賀美と食堂に行ったら、あの鳥の巣みたいな髪の毛の鈴芽を見つけてしまった。その髪型、唯一無二でわかりやすくて大変助かる。彼のこれは癖っ毛なのだろうか。

「昨日、大丈夫だった?」
「大丈夫だったよ。心配かけたよね、ごめん」
「いや、そんな謝るべきはあのか───」

 そこで言葉を止めて、周りをキョロキョロと見渡す。それから、声を顰めた。

「あの会長だから!」

 これ以上、失態を繰り返すわけにはいかないもので。これ以上やらかしたら、いよいよ俺の素晴らしき平凡ライフが危うくなる。

「はは、そうだね」
「うん、そうなの」

 こうやって、現在進行形で楽しく談笑しているのだが……この二人はなんなのだ。
 昨日から鈴芽の両脇をナイトよろしく固めている、爽やかくんと一匹狼くん。君たち、昨日のことを俺は忘れてねぇからな。俺こう見えて恨み深いかな。新手の嫌がらせしやがって。君たち、なんなんだよ。SPか。
 俺が鈴芽の専属SP(違う)を見ているのに気がついたのか、鈴芽は「あ、そういえば」と両脇の二人に視線を向けた。

「桃野くんはこの二人と初対面なんだよね」
「あーうん、昨日あったけど一応初対面。初めまして。俺、桃野って言います」

 そういって模範的な自己紹介するのだが、一匹狼くんの方は俺の方を見てそれからすぐに鈴芽に目線を映しやがった。オッケー、俺には興味ないとね。奇遇じゃん! 俺もあんたに興味ないよ!!

「桃野くん、初めまして。俺は志多見くんの同室の永神って言います」

 爽やかくんの方はちゃんと挨拶してくれた。平和。でも俺はあの恨みを忘れていない。
 この人たちはなんなのだろうか、と思っていたがやはり同室らしい。鈴芽が信頼しているならきっといい人達だろう。でも俺は(以下略)

「よろしく、永神さん」
「こちらこそ。……ていうか、白狼も挨拶したらどう?」

 永神さんにそう促された、白狼さんはチッと舌打ち一回打ってから「白狼 牙」と自分の名前だけ言った。

「そっか。白狼さん、よろしくね」

 キラリと光る桃野くんスマイルを、にっこりかまして「んじゃ、鈴芽またな!」とそそくさと加賀美の方に逃げ込む。
 ふぅ、危ねぇ危ねぇ。このままじゃ「ボクは自分のお名前しか言えないの?」と煽り性能高すぎる言葉をかけてしまうところだった。

 いやでも、あの一匹狼くんはなんなのだ。

 あの、めんどくさそうな雰囲気。面倒臭いのはこちらですけど。中学生で情緒の成長止まってんじゃね? いや、中学生でもまだマシよ? なに、赤ちゃん情緒? 初対面にあの自己紹介でいいんですか。第一印象が一番大事だと、お母さんあれほど言ったでしょ!

「あの子が転入生?」
「そうそう、隣の席なの」
「そっか」

 加賀美の方は、安定なにっこり笑顔で、俺の心を安らげてくれた。この学園の唯一のオアシス。笑顔が素敵。ランキング上位も納得の結果すぎた。
 俺は優しさという貴重なものを噛み締めつつ、加賀美と隣り合わせで席につく。
 嫌なことは引き摺らない。それが、桃野スタイル。ヤな奴のことなんか、すぐ忘れちゃうもんね。

「もうそろそろ、新歓だね」
「そうだなぁ」

 加賀美の言う通り、もうそろそろ新歓だけど、大丈夫だろうか。不安の種が尽きなすぎる。

 去年の新歓は浦戸が鬼サイドになっていたので、浦戸に捕まえてもらうことで、あの倫理観ガン無視の“言うこと一つ聞いてもらう”のルールは流せたのだが───今年はどうなることやら。でも、まだ新歓まで時間あるしなぁ。まあそん時考えりゃいいよな。


 とか、この時はまだこんな呑気なことを考えていた。
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