桃野くんは色恋なんて興味ない!

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#1 王道転入生編

お姫様な後輩

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 イケメンにイケメンだなんて言われちゃったよ。照れ照れ。桃野くん赤面しちゃう。

 まあそれは、副委員長の気の利いたお世辞として───それより、あの忠告はなんだったのだろうか。

 食堂に向かっている途中、副委員長に言われた言葉を何度も反芻してみたが、いまいち要領を得ない。
 俺って、そんな危うい雰囲気纏ってるかぁ?
 それって、つまり、おっちょこちょいに見えるってこと? あら、桃野くんったらドジっ子ね、みたいなこと?

 俺はそんなドジっ子のような柄じゃないし、言われるほど優しくもないし。あのフラグもどきの理解には苦しむが、あれはたぶん風紀の言葉で『気をつけてね』ということなのだろう。ずいぶん、余計な言葉を引っ付けて遠回ってるけど。

 まあこんな(色々とやばい)学園だ。これから新歓もあるし、きっとそういう関係の事件が増える。風紀なりに気を遣ってくれたのだろう。有難い。
 気を取り直して、もう食堂まで目と鼻の先! という時、俺は、食堂の入り口へ進んでいく見慣れた後ろ姿を見つけた。
 間違いない、あれは同じ委員会───図書委員の後輩くんである。
 彼の後ろ姿めがけて、気が付かれないように突っ込んでいく。

「あーわせ!」
「う、ぇっ?! 桃野先輩?!」

 空色の瞳がゆらりと揺れて、俺を捉える。
 突っ込んどいてなんだが、やはり後輩の泡瀬 椎だった。

 ゆるりとカーブを描く長めの白髪に、映える空色の瞳が特徴的な別嬪さん。中身は少し気弱な後輩。そんなところも可愛らしいヤツである。色素の薄い美人系でお姫様みたいな容姿をしている。

「泡瀬は今から飯?」
「あっ、はい、そうです。桃野先輩も?」
「そう。色々あって」

 別に風紀からあの事件について言外するなとは一言も言われてないが、進んで言うことではないのも事実だ。取り調べされていたことは伏せて、笑顔を見せた。

「そうなんですね」
「お腹ぺこぺこだよ。はやくハンバーグを食べてお腹を幸せにしたい」
「ふふっ、俺もです」

 泡瀬は儚げな雰囲気を纏って笑った。俺より彼の方が、危なげな雰囲気を纏ってるが───風紀が助言すべきは俺じゃなくて泡瀬だったのでは……?

 とかいうそんなことは、食堂に一歩踏み入れるなり、頭からすっ飛んでしまった。

「キャーーーーーーーー!!!!!!」

 飛び込んでくるのはチワワたちの甲高い声。なんだこの既視感。まるで、昨日のような。

「な、なんですかね、これ」

 泡瀬は状況がわからずキョドっていた。俺も最初はこの異常な雰囲気に、最初は気圧されてしまっていた───しかし、すぐに気がついてしまった。

 食堂の、ちょうどド真ん中に、俺の隣の席の転校生が突っ立っている。

 その状況は別になんら不思議ではない。肝心なのは何をやっているかだ。“誰と”、“何をやっているか”。

「……泡瀬、ちょっと後ろ向いて」
「え?」
「いいから……ね?」

 泡瀬は何が何だか分からない様子のまま、俺の言葉に素直に従った。よろしい。こんなの、純粋な後輩くんには、いささか刺激が強すぎるからな。

 この学園の異質さは重々承知していたつもりだが、まさかここまで狂っちゃってるとは。

 なんと、食堂の真ん中では、鈴芽がかの生徒会長とキスをしていた。
 それも、深いやつである。ディープだよ、ディープ。舌がチラチラと垣間見える。俺の自慢の視力の良さが裏目に出たな。ディープか軽いキスかを見分けるためにこの視力を使いたくなかったです。誠に遺憾。

 いやはや、これはなんなのだろうか。夢か? 朝の悪夢がまだ続いているのか? 続いてるのだとしたら、朝のあれとは違った意味で、これは悪夢すぎる。

 来た瞬間にこれだったからなんとも言えんが、会長は鈴芽に惚れちゃったんだ? だから強引にこんな大衆の前で、唇奪っちゃってんだ? 新手の牽制ってやつ? あらあら、大胆ね。
 強引な男は嫌われると、俺は思うんだけどなぁ。
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