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#1 王道転入生編
過去のお話
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【注意】
虐待の描写有。
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薄暗くて、ゴミが散らかっていて異臭すら漂う部屋。そこで、俺は誰かの背中に必死に縋っていた。
見覚えのある部屋に、見覚えのある後ろ姿。夢だとわかるのに時間は要さなかった。何度も何度もフラッシュバックされてきた光景。反吐が出る。
幼い俺は、去り行く背中に向かって何度も叫んでいた。
「待って」と。
全ての言葉は喉に張り付いて、音にならない。
だから「待って」の一言を、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す。
「待って」
「待って」
「待って」
止めないと。このままじゃ、どこかにいってしまうから。止めないと。
愚かだと思っているのに、自覚しているのに、体が言うことを聞かない。みっともなく縋りつこうとしている。
もう諦めろよ、もうだめだよ。
この人は俺を置いて、見捨てて、行ってしまうんだよ。縋っても無駄だってことわかってるだろ。
「待って、待ってよ!」
わかっているのに、望んでしまう。みっともなく、一縷の望みに縋ってしまう。だって、あの頃の俺にはあの人しかいなかったから。
また、彼女が俺を昔のように愛してくれるんじゃないかって、夢を見てしまう。
ここで手を振ったら、もう会えないことは明確だった。だって、見たことがないくらいにおしゃれして、大きなキャリーケースも持ってんの。もうどっか行く気満々じゃん。そして、俺のことおいて行く気も満々じゃん。
「行かないでよ! 待ってよ!」
勝手に希望を抱いて、勝手に絶望に打ちひしがれて。何度も何度も繰り返してきた。
かわいそうに、桃野くん。この人はもう君に愛を与えてはくれないんだよ。
高校生の俺は、もう知っている。この後の展開も、全て知っている。
「待ってよ、母さん!」
彼女は───俺の生みの親は、子供の俺を置いて去っていく。俺をゴミ置き場みたいな家に置いて颯爽と去っていくその後ろ姿は、今でも鮮明だ。
虐待の描写有。
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薄暗くて、ゴミが散らかっていて異臭すら漂う部屋。そこで、俺は誰かの背中に必死に縋っていた。
見覚えのある部屋に、見覚えのある後ろ姿。夢だとわかるのに時間は要さなかった。何度も何度もフラッシュバックされてきた光景。反吐が出る。
幼い俺は、去り行く背中に向かって何度も叫んでいた。
「待って」と。
全ての言葉は喉に張り付いて、音にならない。
だから「待って」の一言を、馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す。
「待って」
「待って」
「待って」
止めないと。このままじゃ、どこかにいってしまうから。止めないと。
愚かだと思っているのに、自覚しているのに、体が言うことを聞かない。みっともなく縋りつこうとしている。
もう諦めろよ、もうだめだよ。
この人は俺を置いて、見捨てて、行ってしまうんだよ。縋っても無駄だってことわかってるだろ。
「待って、待ってよ!」
わかっているのに、望んでしまう。みっともなく、一縷の望みに縋ってしまう。だって、あの頃の俺にはあの人しかいなかったから。
また、彼女が俺を昔のように愛してくれるんじゃないかって、夢を見てしまう。
ここで手を振ったら、もう会えないことは明確だった。だって、見たことがないくらいにおしゃれして、大きなキャリーケースも持ってんの。もうどっか行く気満々じゃん。そして、俺のことおいて行く気も満々じゃん。
「行かないでよ! 待ってよ!」
勝手に希望を抱いて、勝手に絶望に打ちひしがれて。何度も何度も繰り返してきた。
かわいそうに、桃野くん。この人はもう君に愛を与えてはくれないんだよ。
高校生の俺は、もう知っている。この後の展開も、全て知っている。
「待ってよ、母さん!」
彼女は───俺の生みの親は、子供の俺を置いて去っていく。俺をゴミ置き場みたいな家に置いて颯爽と去っていくその後ろ姿は、今でも鮮明だ。
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