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#1 王道転入生編
チャラ男会計
しおりを挟む生徒会とかいう爆イケ集団、現る。
「灰姫様! もっと見下して! ドキドキしちゃう! あぁんっ!!」
「白雪ちゃん、今日も可愛い。最高。尊い。存在が神、そこにいるだけで空気が清浄されていく」
「冬雪様、美しい! 美しすぎる! 冬雪様のためなら死ねる!」
「八獣くん、今日もお顔つよすぎてえぐい!! 抱いて!!」
「朱色くんかっこいい、むりぃ……しんどいしんどいしんどいしんどい」
声援がえぐい。それに紛れてちょっと危ういのが混ざってる。普通に怖いよ。犯罪者レベルだよ。
どうやら、この盛り上がり方からして、生徒会が集団でやってきたのだろう。生徒会は滅多に食堂に現れないので珍しい。
「…………」
鈴芽は、隣で目を細めて食堂の入口を睨んでいた。俺の位置からはハッキリと見えないのだが(人混みがやばいゆえに)、鈴芽の位置では生徒会が見れているのだろうか。
あの生徒会を見たらさぞかし驚くことだろう。あの顔面偏差値の高さ! あれで金持ちの家育ちで勉強もできるだなんて、羨ましい限りである。俺にもなんか分けてほしい。顔面でも肩書きでも学力でも何でもいい。きっと、彼らは家の中で蝶よ花よと愛されていたのだろう。素晴らしいことだ。色んな人から愛してもらって、さぞ幸せだろう。
しかしまあ……。
一体全体、なんで生徒会は皆様お揃いで食堂に来たんだろうか。
「あーなるほど、君が噂の転入生くんかぁ!」
生徒会に関しては、特に興味も何もないのでパクパクとハンバーグを再度頬張っていたところ、隣から能天気な声が聞こえてきた。げふんげふん。あやうく、誤嚥するところだったぜ
この声聞いたことあるなぁ。というか聞き覚えがありすぎるなぁ。
「こんにちはぁ、鈴芽 志多見くんだよねぇ? 俺は生徒会の美玲 八獣」
どこから見てもわかるようなドキツイ金髪に、新茶のような澄んだ黄緑色の瞳、少ないとは言えないピアスの数、美しい顔立ち。チャラ男会計というあだ名がぴったりの、我らが学園の生徒会会計が鈴芽の前に立っていた。
え?
謎の状況が形成されてしまった。俺の目の前に鈴芽、彼の隣に生徒会会計。会計はいつの間に、こんなに傍にまで来てたのか。気配の消し方がプロ級じゃないか。とか、そんなことは別に今はどうでもいい。
えっ、何、どういうことぉ?
会計が鈴芽に突っかかってくるなんて───これは、何かの間違いだろうか。間違い、手違い、人違い。いやでも、彼は確かに「噂の転入生くんか」と言っていた。
転入生ってことは、誰かを鈴芽と間違えているわけではないのだろう。短期間でそんなポンポン転入生が来たらたまったもんじゃない。
人違いは無いとして、なぜ生徒会の会計が、ただの転入生に突っかかってくるのだろうか。
それに関しては、鈴芽が初日から生徒会に目を付けられるような要注意人物だったと考える方が自然である。
だが、そんなことが有り得るのか。有り得るかもしれない。可能性はゼロじゃない。
会計のその一声を堺に、静まり返った食堂。先程の異常な熱狂っぷりも恐ろしかったが、この静けさ違う意味で怖い。
小心者の俺が静けさに怯えていたところ、鈴芽の気だるげな「あーはい、そうですよ」という声が響いた。
あーらあら、なんか反抗期みたいな受け答えの仕方じゃないっすか。
お母さん、驚いちゃったわよ。ちょっともう少し、優しい言い方しなさい。この方は生徒会の会計様ですから。
「だよねぇ。改めて、初めまして志多見くん」
わざわざ、周りを見渡さなくてもわかる───食堂中の視線が此方に集まっている。いや違う、正確には鈴芽のところに集まっている。ワオワオ、鈴芽ったら人気者だねぇ! 一日にしてこんなに人気者になるなんて、色んな意味で将来有望! お母さんは心配だ!
「……冬雪センパイが言ってた通り」
会計は神妙な顔で、我らが学園の副会長の名を出した。会計は妖しい雰囲気のまま、鈴芽の髪に手を伸ばす。自分の指先と鈴芽の髪を、絡ました。
そして、腰を曲げて、鈴芽の耳の位置に顔を寄せる。その光景に、食堂のどこかからちらほらと声が上がった。これは悲鳴なのだろうか、もしくは歓声か。
「この髪、───なんでしょ」
持ち前の甘いテノールで、鈴芽の耳元に囁かれる一言。小声で囁かれたそれは、隣の俺にも一部しか聞こえない。いったい、髪がなんなのだろうか。「寝癖でしょ」とか? そんなわけがない。
囁かれた鈴芽の方は、赤面するわけでもなく、驚くわけでもなく、心なしか嫌そうな顔をしていた。会計はその顔を見て、ケラケラと笑う。
「冬雪センパイが言ってたよ。恨むなら冬雪センパイを恨んでよねぇ。俺は単純な興味だからぁ」
「……そぉですか」
「ちなみにさぁ、それって髪だけじゃなくて、その眼鏡とかも───」
「そうです。お察しの通りです。そのことについて、あまり他言しないでもらいたいんですけど」
「わかったわかった。なんか理由あるんだもんねぇ」
何の話をしているのか、別に今の会話は小声で行われているわけじゃないので、この静けさの食堂内では聞こえてそうだが、周りは理解できていないだろう。
会計と鈴芽だけの秘密の話題。
何が何だかよくわからないけど、桃野くんは色々と心配ですよ……ハラハラドキドキですよ……。鈴芽ってそんな生徒会に一目置かれるような存在だったんだ。この学園において、こんな転入生おそらく初めてだよ。
「うん、わかったぁ。そのことについては、黙っといてあげるよ。……でぇ?」
「“で?”とは?」
謎の催促に、怪訝な顔をする鈴芽。会計は声をひそめて、影のある微笑を湛えた。どんな表情でもイケメンはイケメンなんだな。
「等価交換でしょ。何もないの?」
「はぁ、等価交換……」
会計のその言葉を、まじまじと繰り返す鈴芽。等価交換……。俺も心の中で反芻した。これは、少し、危うい雰囲気。
「何もないなら、カラダで支払ってもらうしか───」
会計はその言葉を言い切らずに、途中で口を噤む。鈴芽と会計の間に生まれる不自然な沈黙。
否、俺と会計の間だろうか。
会計は俺の目をじっと見据えて、にこりと柔らかく微笑んだ。とても柔らかくて溶けてしまいそうな雰囲気を纏っているのに、有無は言わせない圧を感じる。生徒会の貫禄か。
「正義感が強いんだねぇ」
疎むわけでもなく、褒め称えるわけでもなく、なんの感情も持たずにただ淡々と放ったような言葉だった。
鈴芽が驚いたように、こちらに振り向く。
会計の言葉を聞いて、俺はほぼ反射的に鈴芽の腕を掴んでしまった。身体を売れだなんてのは冗談でも許されないという、突発的な強い意志とともに。
鈴芽の腕を握る力は、今は冷静になってもはや添える程度だ。
動いた俺の方が、動いてしまった俺の方が、きっと鈴芽より驚いている。
食堂の不自然な沈黙が痛く肌に刺さった。
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