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#1 王道転入生編
生徒会の登場
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「いやー、王道転入生だと思う。本当に生きててよかった。つか、お前隣の席じゃん! お前はあれだな、爽やかイケメンのポジションだよ。前々から思ってたけど、顔立ちが綺麗だもんなぁ。爽やかな性格してるもん。いつになったら惚れちゃうんだい? もうもしかしたら、ときめいちゃってる?」
おう。なんだかよくわからねぇけど、顔面を褒められている。あらやだ、桃野くん照れちゃうじゃん。はずっかしぃ。
四限が終わるなり、俺は浦戸の話に付き合わされていた。ちなみに、話の十二割ほど理解ができていない。一言一句、理解不能。宇宙人さん、一方的に話すのをやめてほしい。
相互理解。お互いに歩み寄ることは対人において、とても大切なことだと思うんだよね。
「ねぇ、どうなの? やっぱりときめいてるの? ときめいてないの?」
「何の話かよくわからん」
「だから王道転入生にときめいてるかの話だって!」
「そう言われてもよくわからん」
よくわからん話に、よくわからん質問。なんと答えていいかわからない。宇宙人の謎言語の読解に苦しんでいるところで、神の一声が降ってきた。
「あの、桃野くん」
「ん、どうした?」
パッと其方に視線を向けると、困った様子の鈴芽が「食堂の場所、どこかな?」と遠慮気味に尋ねてきた。
「あ、食堂の場所?」
「うん」
鈴芽は「ごめんね、友達とおしゃべりしてるのに」と申し訳なさそうだ。いや、本来申し訳なさそうにするべきなのはこちらである。
確かにこの校舎は、鈴芽にとっては初めての校舎で、そりゃわからなくて当然だ。そこは隣の席である俺が助けてあげないと。
会って初日の俺に訊くのは何かと遠慮があって気まずいだろう。俺から色々気を回さないとな。
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「ありがとう」
浦戸も一緒に飯食いに行こう、と言いかけたところで先程まで後ろの席にいた浦戸がいないことに気がついた。え? いづこへ。
「どうしたの、桃野くん」
「あぁ、なんか浦戸───後ろの席のやつがいなくなっちゃった」
「大丈夫?」
「全然大丈夫、アイツ宇宙人みたいなやつだから」
「そ、そうなんだ」
にしても、あの人自分の話だけして去っていったよ。いったいどこに行っちゃったのやら。自由な宇宙人なこと。
そもそも、宇宙人を地球人の常識で縛ろうとしてるところがだめなのだろうか。宇宙人には宇宙人なりのルールがあるのかな。
なにも俺がいちいち気にしなくとも、あの宇宙人ならどこ行っても元気にやってけるだろう。さらば、浦戸。おまえのことは忘れないからな。
「ここは金持ち私立だから、食堂のメニュー全部が美味しいんだよね。鈴芽は何が好き?」
食堂に行くまでの間、他愛のない会話。鈴芽はニコニコと笑みを絶やさず「んー」と首を傾げた。
「特に好きなものはないかな。でも、甘いものは苦手だなぁ。……手作りのお菓子とかは特に。桃野くんは?」
「俺は団子が好きかな。ハンバーグも好き。果物だったら桃! だけど、まあ食べられるものだったらなんでもいけるかなぁ」
「……そうなんだね」
ハンバーグが好きって、ちょっと子供っぽく思われたかな?
そう思って、鈴芽の方を見ると、鈴芽はなぜかこちらを凝視していた。
「え」
「あ、ごめんね。ちょっと、あの、その───桃野くん綺麗な顔してるなって思って」
「見惚れたってこと?」
「あ~うん、そういう感じ」
鈴芽は慌て気味にそう弁解した。見惚れられちゃうだなんて、俺そんなにイケメンかしら。あらやだ、鈴芽ったら褒め上手だわねぇ。
なーんちゃって。
普通に考えるなら、ただ単純にぼーっとしてただけだろう。俺の話、つまらなかったかな。
「えっと……鈴芽は勉強好き?」
「勉強? まあまあかな」
「だよなー、俺も」
まずい。なんか変に意識しちゃったからか、話がうまく盛りがらない。挙動不審になりながら、何度も浅い話題を次から次へと振る。
朝は苦手か得意かとか、好きな色とか好きな教科とか、犬派か猫派かとか、一問一答のどれも無益の話題である。
だが、それで時間は潰せる。食堂に着いた頃に俺が得ている鈴芽の情報は、甘いものが苦手で朝方で、紫色と数学と犬が好きだと言うことだけだった。まあ、こういう些細な情報の交わし合いが信頼関係の構築に繋がるんだよな……。
俺はハンバーグ、鈴芽はオムライスを頼み、一緒の机に横並びで並んで、手を合わせる。
「いただきます」
また、他愛もない無益な話をしながらハンバーグを頬張る。さすが、なんかよく知らないけど有名なシェフが厨房で腕を奮ってくれてるだけある。美味しい。
鈴芽は時折、周りをキョロキョロと見渡していた。初めての食堂、いろいろ不安なのだろう。俺は転入とか転校とかしたことがないからわからないけど、やっぱりこういうのってワクワクするもんなのかな。それとも、不安が勝っちゃうのかな。
「なあ、鈴芽はさ───」
そう言いかけたところで、食堂がフロア並みに盛りが上がった。「キャー」という甲高い声、俗に言う黄色い声援ってやつ。到底男から出るとは思えないこのハイボイスだが、ここは秘境の男子校。男が出さずに誰が出す。
これは『チワワ』と呼ばれる小柄な男の子の声であった。この学園には、そういう可愛らしい男の子がいるのだ──中身が外面と同じように可愛いかはさておき。
にしても、なーんで、こんな盛りあがっちゃってんのだろうな。
原因を探るべく食堂の入り口に目を向けてみる。チワワが一斉に騒ぎ出すような現象の原因なんて薄々わかるけど───やはり、俺の予想は的中した。
「ねぇ、桃野くん。これってどうしたの」
オムライスを食べる手を止めて、不安げに此方を見る鈴芽。俺はハンバーグを、モグモグごっくん、飲み込んで答えた。
「生徒会が来たんだよ」
おう。なんだかよくわからねぇけど、顔面を褒められている。あらやだ、桃野くん照れちゃうじゃん。はずっかしぃ。
四限が終わるなり、俺は浦戸の話に付き合わされていた。ちなみに、話の十二割ほど理解ができていない。一言一句、理解不能。宇宙人さん、一方的に話すのをやめてほしい。
相互理解。お互いに歩み寄ることは対人において、とても大切なことだと思うんだよね。
「ねぇ、どうなの? やっぱりときめいてるの? ときめいてないの?」
「何の話かよくわからん」
「だから王道転入生にときめいてるかの話だって!」
「そう言われてもよくわからん」
よくわからん話に、よくわからん質問。なんと答えていいかわからない。宇宙人の謎言語の読解に苦しんでいるところで、神の一声が降ってきた。
「あの、桃野くん」
「ん、どうした?」
パッと其方に視線を向けると、困った様子の鈴芽が「食堂の場所、どこかな?」と遠慮気味に尋ねてきた。
「あ、食堂の場所?」
「うん」
鈴芽は「ごめんね、友達とおしゃべりしてるのに」と申し訳なさそうだ。いや、本来申し訳なさそうにするべきなのはこちらである。
確かにこの校舎は、鈴芽にとっては初めての校舎で、そりゃわからなくて当然だ。そこは隣の席である俺が助けてあげないと。
会って初日の俺に訊くのは何かと遠慮があって気まずいだろう。俺から色々気を回さないとな。
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「ありがとう」
浦戸も一緒に飯食いに行こう、と言いかけたところで先程まで後ろの席にいた浦戸がいないことに気がついた。え? いづこへ。
「どうしたの、桃野くん」
「あぁ、なんか浦戸───後ろの席のやつがいなくなっちゃった」
「大丈夫?」
「全然大丈夫、アイツ宇宙人みたいなやつだから」
「そ、そうなんだ」
にしても、あの人自分の話だけして去っていったよ。いったいどこに行っちゃったのやら。自由な宇宙人なこと。
そもそも、宇宙人を地球人の常識で縛ろうとしてるところがだめなのだろうか。宇宙人には宇宙人なりのルールがあるのかな。
なにも俺がいちいち気にしなくとも、あの宇宙人ならどこ行っても元気にやってけるだろう。さらば、浦戸。おまえのことは忘れないからな。
「ここは金持ち私立だから、食堂のメニュー全部が美味しいんだよね。鈴芽は何が好き?」
食堂に行くまでの間、他愛のない会話。鈴芽はニコニコと笑みを絶やさず「んー」と首を傾げた。
「特に好きなものはないかな。でも、甘いものは苦手だなぁ。……手作りのお菓子とかは特に。桃野くんは?」
「俺は団子が好きかな。ハンバーグも好き。果物だったら桃! だけど、まあ食べられるものだったらなんでもいけるかなぁ」
「……そうなんだね」
ハンバーグが好きって、ちょっと子供っぽく思われたかな?
そう思って、鈴芽の方を見ると、鈴芽はなぜかこちらを凝視していた。
「え」
「あ、ごめんね。ちょっと、あの、その───桃野くん綺麗な顔してるなって思って」
「見惚れたってこと?」
「あ~うん、そういう感じ」
鈴芽は慌て気味にそう弁解した。見惚れられちゃうだなんて、俺そんなにイケメンかしら。あらやだ、鈴芽ったら褒め上手だわねぇ。
なーんちゃって。
普通に考えるなら、ただ単純にぼーっとしてただけだろう。俺の話、つまらなかったかな。
「えっと……鈴芽は勉強好き?」
「勉強? まあまあかな」
「だよなー、俺も」
まずい。なんか変に意識しちゃったからか、話がうまく盛りがらない。挙動不審になりながら、何度も浅い話題を次から次へと振る。
朝は苦手か得意かとか、好きな色とか好きな教科とか、犬派か猫派かとか、一問一答のどれも無益の話題である。
だが、それで時間は潰せる。食堂に着いた頃に俺が得ている鈴芽の情報は、甘いものが苦手で朝方で、紫色と数学と犬が好きだと言うことだけだった。まあ、こういう些細な情報の交わし合いが信頼関係の構築に繋がるんだよな……。
俺はハンバーグ、鈴芽はオムライスを頼み、一緒の机に横並びで並んで、手を合わせる。
「いただきます」
また、他愛もない無益な話をしながらハンバーグを頬張る。さすが、なんかよく知らないけど有名なシェフが厨房で腕を奮ってくれてるだけある。美味しい。
鈴芽は時折、周りをキョロキョロと見渡していた。初めての食堂、いろいろ不安なのだろう。俺は転入とか転校とかしたことがないからわからないけど、やっぱりこういうのってワクワクするもんなのかな。それとも、不安が勝っちゃうのかな。
「なあ、鈴芽はさ───」
そう言いかけたところで、食堂がフロア並みに盛りが上がった。「キャー」という甲高い声、俗に言う黄色い声援ってやつ。到底男から出るとは思えないこのハイボイスだが、ここは秘境の男子校。男が出さずに誰が出す。
これは『チワワ』と呼ばれる小柄な男の子の声であった。この学園には、そういう可愛らしい男の子がいるのだ──中身が外面と同じように可愛いかはさておき。
にしても、なーんで、こんな盛りあがっちゃってんのだろうな。
原因を探るべく食堂の入り口に目を向けてみる。チワワが一斉に騒ぎ出すような現象の原因なんて薄々わかるけど───やはり、俺の予想は的中した。
「ねぇ、桃野くん。これってどうしたの」
オムライスを食べる手を止めて、不安げに此方を見る鈴芽。俺はハンバーグを、モグモグごっくん、飲み込んで答えた。
「生徒会が来たんだよ」
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