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#0 プロローグ

謎の夢

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『ちょっと顔が良いからって、灰姫様に近づきすぎなんだよ!』

『調子に乗りすぎるな。灰姫様の庇護は、哀れなおまえへの慈悲なんだ』

『あの方がおまえみたいなドブネズミ相手にするわけないだろう! 身の程を弁えろ!』

 背丈のある男が五、六人。
 俺を囲んで、思い思いの罵詈雑言を吐いている。今にでも手が出そうな緊迫した空気に、なぜか俺はいた。
 恐ろしいことに、ここまでの経緯に何も身に覚えがない。なんで、俺、ここにいんの? え、こわ、まじむりすぎる。

『馬鹿みたい』

 何が何だかよくわからないが、いやに凛とした声が空に放たれ、空気感が一気にピリつく。
 ちょっと待て、声の発信源が激近。明らかに俺の体から放たれただろ、今の。
 一人称目線なのに口から出たのは俺の声ではない誰かのもの。謎すぎる。これ、あれだな。夢か。

『黙って聞いてれば灰姫様灰姫様とか、愛されてるとか愛されてないとか言ってるけど、一番勘違いしてるのは君たちだよ』
『どういうことだ』
『いや、一目瞭然だよ。俺が灰姫様───あんな男から好かれるわけがない』

 『こっちから願い下げ』と、夢の中の俺は軽快に笑う。夢の中の俺、喧嘩腰すぎる。
 このスーパー平和主義の小心者日本代表と言っても過言ではない俺にしては、なかなかに火力高めの発言である。
 まじなに、この夢。

『むしろ、この際だから言っちゃうけど君たちが崇拝して高尚だと思ってる男どもは、誰一人俺のことなんて好いちゃいないよ』
『は……?』
『実の話、もれなく全員が一人の一般生徒にメロメロだったりしちゃって?』
『……何言ってるんだよ。そんなことあり得るわけがねぇ!』
『それがあり得るんだよね。誰も俺のことなんて好きじゃない』
『はぁ? じゃあ、その好かれてんのは誰なんだよ!』
『教えるわけないじゃん』
『どういうことだよ!』
『教えないって言ってんの。教えないし、それが誰かとか探し出そうとするのも許さない』 

 『その子のこと、俺も好きだから』そう言った瞬間、声色が楽しそうなものから真剣なものに変貌する。まるで目の前の男子たちに牽制するかのように。

『君たちみたいな低俗なひとたちが触れたら……どうなるかはわかるよね? 俺も黙ってないし、きっとあの厄介な男どもも黙っちゃいない』


 『わかったなら、はやくこの陰気な場所から俺を解放してよね』と。

 その一言を境に、一気に視界が歪んだ。
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