公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

文字の大きさ
13 / 36
本編

12、夜会の罠

しおりを挟む
 あれから、冷静に夜会のことを考え直してみた。

 元々の小説の展開では、殿下はお妃になる令嬢をエスコートし、メアリー様は王女という高い地位から公爵であるエリック様のエスコートを受けるべきだという周囲の助言により、二人は夜会にパートナーとして参加することになった。

 護衛騎士という立場があるロジャーはそれを見守るしかなくて、ヒロインを巡りエリック様との間にはさらに亀裂が入っていくのだけれど。

 エリック様が席を外してメアリー様がひとりテラスで休んでいる場所にロジャーが出くわし、酔った貴族に襲われそうになっているところを助けて絆が深まるのよね、確か。


 でも実際には、何故かロジャーは私を好いてくれているわけで。

 私がロジャーのパートナーになれば、何の問題もなくエリック様はメアリー様にエスコートを申し込めるはず。

 それにテラスには私がこっそり助けにいけばいい。
 うん!それで丸く収まる!

 そう思いついて、私はロジャーにエスコートを受けたい旨を伝えたのだ。
 彼はとても喜んで引き受けてくれた。



 いよいよ今日は夜会の日だ。
 ミラは準備の間ずっと「なんで公爵様じゃないんですか~」と肩を落としていた。

 これでいいの。準備を終えて鏡の前で気合を入れると、ノックの音が鳴り響く。
 そこにいたのは迎えに来てくれたロジャーだった。

 私のドレスアップ姿を見て、ロジャーは顔を綻ばせる。

「レイラ嬢、美しいです」
 彼は私の手を取りキスをした。

「ありがとうございます。騎士団長様もとても素敵です」

 騎士の正装をしたロジャーは本当に美しかった。
 さすが小説の男主人公。

「では行きましょう」

 ロジャーのエスコートで私は宮殿の会場へと入った。
 今日も会場は煌びやかだ。

 エリック様と最後に話したあの日から、いまいち気持ちが晴れやかではなかったけれど、この華やかな雰囲気にほんの少し気持ちが上がる。

 なんだか少し緊張するなあ。
 どうか無事にバッドエンドに向かうことを回避できますように。

 そう祈っていると、入り口の方が騒がしくなりふと目を向けた。
 見ると、なんとそこにはヘレナをエスコートしているエリック様が立っていたのだ。

 ええ?!
 なんでヒロインのメアリー様と一緒じゃないの?!
 初っ端から想定外の出来事が……!

 エリック様とヘレナは沢山の貴族に囲まれ、周囲の者たちはこのビッグカップルを称えているかのようだ。
 私は複雑な思いで彼らを見つめた。

 夜会用の正装をしたエリック様はいつもに増して精悍で美しい。隣に並ぶヘレナもまたそれに負けず劣らず華やかで美しい。

 ヘレナが彼にくっついているのを見ると、なんでこんなにも気持ちが落ち込んでしまうのだろう。

 思ったよりも悪女だったから?
 隣にいたのがメアリー様ではないから?

 私はこの心のトゲトゲとした痛みが何なのかよく分からない。

 二人から目を離せないでいると、私の視線に気づいたのかエリック様はこちらを見て一瞬動きを止めた。
 その表情には何も浮かんでいない。


 次の瞬間、ひときわ大きな歓声と拍手が鳴り響いてきた。
 見てみるとエドワード殿下とメアリー様が一緒に入場してくるところだった。

 えええ?!なんでまた殿下とメアリー様は一緒なの?!
 驚いている私に気づいたメアリー様と殿下がこちらに近づいてきた。

 私の隣にいるロジャーの顔を見て、メアリー様は一瞬意外そうな顔をしてから笑顔で言う。

「レイラは騎士団長様とご一緒だったのね」
「はい」
 私は笑顔で答えながら、殿下とメアリー様に挨拶をした。

 ちょうどそのタイミングで王宮のメイドさんが私たちの前に飲み物を持ってやって来た。


 私は思わず、あっ!と叫びそうになる。

 シャンデリアの件を後悔していた私は、夜会で赤ワインの毒にだけは気をつけなくてはと頭に叩き込んでいたのだ。

 ロジャーからは先日、思わぬ告白を受けてしまったが、エリザはそんなことを知らずにメアリー様を狙っているはず。

 メイドさんが持って来たトレイには、白ワインのグラスが三つと赤ワインのグラスが一つだけ乗っている。

 こ、これだ…………!!!
 きっとこれが毒の入った赤ワインなんだ……!

 飲み物を選ぶメアリー様に私は慌てて言った。
「メアリー様、今日振舞われている白ワインとっても美味しいですよ」
「あら、そうなの? じゃあそれを頂こうかしら」

 そうして少しの間、四人で歓談をしてから、殿下とメアリー様はダンスのためにホールの中心へと進んで行った。


 ふう、これでなんとか、メアリー様を毒から守れたよね…………。

 一人安堵していると、ロジャーが上品な笑顔を向けて私に言った。
「すみません、少し呼ばれてしまったのでここで待っていていただけますか?」

 いつの間にか、傍には騎士団の人が来ていた。
 きっとお仕事の話なのだろう。

「はい! もちろんです。お気になさらず」
 私が笑顔でそう言うと、ロジャーは安心したような顔をして「なるべく早く戻ります」と言い残し去って行った。


 一人になると、ドッと疲れが襲ってくる。
 私は心を落ち着かせようと飲み物を探した。

 そんな私に気づいたのか、近くにいた王宮のメイドさんが赤ワインを差し出してくれる。

「ありがとう」
 笑顔で言って受け取り、グラスに口をつけようとしたその瞬間、どこからともなくエリック様が現れた。

「前に言っていた好きな奴とはあいつのことなのか?」

 え?好きな人……?
 あ、ああ!あの『お慕いしてる人がいます』っていう発言のことね。

 いや、それは推したい人とかけているんだけど、なんて説明しても伝わるわけないよね。
 その推してる人はエリック様だし、そのまま言ってもあらぬ誤解を生みそうだし。

 うーん、なんて言えばいいものか。


 そう思考を巡らせていると、エリック様は苛立ったように溜め息をついた。
「そんなに隠すことでもないだろう」

 その投げやりな物言いを聞いて、私にもその苛立ちが伝染してしまう。
 何でそんな言い方をされなきゃいけないんだろう。

 私は先ほどの彼とヘレナが寄り添っていた姿を思い出して、思わずむっとしながら答えた。

「隠してることなんてありません」
「じゃあ何なんだ」
「……っ別に何もないです。エリック様こそジェニエス侯爵令嬢と親しい間柄なのでしょう?」

 思った以上に、言葉がきつく響いてしまう。

「……さあな」
 エリック様は低い声で呟いた。

 私は小さく震えたが、言ってしまった言葉はもう消せない。


 無言が続くこの最悪な空気の中、ヘレナがやってきた。
 エリック様に寄り添い、彼の腕に自分の腕を絡めて彼を向こうへと促すと、二人はそのまま背を向けて行ってしまった。


 もう!なんであんな言い方……!

 私はもどかしくなって、手に持っていた赤ワインをぐいっと飲み干した。
 ちらりと視線を向けると、彼の逞しい背中が離れていくのが見える。


 あっ……!!
 そうだ!

 エリック様がヘレナと行ってしまうその後ろ姿を見て、小説の内容をハッと思い出した。

 彼女と一夜を共にしてしまうのは、ヒロインと揉め事があった後に夜会で出会ったことがきっかけだったはず。

 小説の中でヒロインは、こんな風に彼の背中を見送っていたように記憶している。
 そうはっきりと思い出した私は、身体がぶるぶると震えた。

 色々と内容が違っているところもあるけど、まさか今日がそのきっかけの夜会なの……?!
 ということは、このまま彼らは小説の通り、一夜を過ごしてしまうということ……?

 そんなのって……嫌だ…………!!


『待って、行かないで』

 私はそう声をかけたいのに、なぜか掠れてしまい声が出なかった。

 徐々にぼやけていく視界の中でエリック様の後ろ姿が滲み、そして何も見えなくなった。
 グラスの割れる音が響き、身体中から力が抜けていく。

 キャーと叫ぶ女性たちの悲鳴が聞こえたすぐ後、温かい何かが触れたところで私の記憶は途切れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました

Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。 そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。 「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」 そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。 荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。 「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」 行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に ※他サイトにも投稿しています よろしくお願いします

嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアメリナは、幼馴染の侯爵令息、ルドルフが大好き。ルドルフと少しでも一緒にいたくて、日々奮闘中だ。ただ、以前から自分に冷たいルドルフの態度を気にしていた。 そんなある日、友人たちと話しているルドルフを見つけ、近づこうとしたアメリナだったが “俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!” いつもクールなルドルフが、珍しく声を荒げていた。 うるさい女って、私の事よね。以前から私に冷たかったのは、ずっと嫌われていたからなの? いつもルドルフに付きまとっていたアメリナは、完全に自分が嫌われていると勘違いし、彼を諦める事を決意する。 一方ルドルフは、今までいつも自分の傍にいたアメリナが急に冷たくなったことで、完全に動揺していた。実はルドルフは、誰よりもアメリナを愛していたのだ。アメリナに冷たく当たっていたのも、アメリナのある言葉を信じたため。 お互い思い合っているのにすれ違う2人。 さらなる勘違いから、焦りと不安を募らせていくルドルフは、次第に心が病んでいき… ※すれ違いからのハッピーエンドを目指していたのですが、なぜかヒーローが病んでしまいました汗 こんな感じの作品ですが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...