落ちこぼれ仮聖女ですが、王国随一の魔道士に溺愛されました

六花心碧

文字の大きさ
48 / 63
続編

5、予兆

しおりを挟む
「つ、疲れた……」

 私は思わず独り言を呟く。

 ここ最近は、アーサー殿下が公式訪問していることもあって王宮中が慌ただしく、その影響でエメラルド塔も毎日多くの魔道士が駆り出されている。

 ナジェはもちろんのこと、レニとハニカ様は貴族という立場もありいつもの倍以上、忙しく動き回っている。


 おかげで研究室に残った魔道士たちは、日々増える要請道具の作成に追われているため、毎日のノルマがかなりきつい。

 いつものように、ついつい他の魔法研究に夢中になっていたら、今日のノルマを達成するのに時間がかかってしまい、気づけば研究室にいるのは私一人だった。


 机に突っ伏してぼーっとしていると、研究室の扉が開いた音がした。

 あまりの疲れに起き上がれずにいたが、こちらへ近づいてくる足音に私は安心感を覚える。

 この音はナジェの足音だ。


 ここで魔法の研究をするようになってから、自然と五感が研ぎ澄まされたのか、最近の私は物凄く耳が良くなっていた。

 遠くで鳴っている音を聞き分けたり、集中すれば特定の音だけを拾う、なんていう芸当もできるようになりつつある。


 そんな私だから、ナジェの足音だけはしっかりと聞き分けられるようになったのだ。

 これは愛の力かな♡


 なんて考えていると、突っ伏している私の視野に入るようにナジェが顔を覗き込んできた。

「大丈夫か?」

「うん、疲れた~」

 甘えたことを言う私にナジェは思わず顔を綻ばせて、私の頭をぽんぽんと撫でる。
 私はすぐさま安心感に包まれる。


「少しデートしないか?」

 えっ?デート?
 一緒にいられるの?

「するする!」

 私は嬉しくなってバッと顔を上げて起き上がる。
 ここのところ忙しいナジェとは、一緒にいられる時間がろくに取れていなかったのだ。


「では行こう」
 ナジェは私の手を取って優しくエスコートしてくれた。


 どこに行くんだろう。

 ナジェは私の手を引いたまま廊下をしばらく歩き、ある扉に入った。
 中は薄暗くひんやりとしていて、何もない。

 見上げると薄暗い空間が続いているだけで、なんだかぽっかりと穴が空いているようだ。


 私が不思議に思っていると、ナジェは私の手を引いて少し歩いてから、ここが定位置だという風に制止した。

 よくよくみると、そこは大きな丸い円盤のような石の中心だ。


 あ、なんか魔法陣みたいな模様が描いてある。

 そう思った瞬間、ナジェから魔力が発動したのが分かった。
 すると、その石の円盤は私たちを乗せてスーッと上へ動き出した。

 あっそうか、これはエレベーターのようなものなのね!
 上の階に向かっているんだ。


 そういえばエメラルド塔の上層の階にはあまり行ったことがなかった。


 私が普段自分の部屋として使っている客間は、数少ない女性魔道士の寮部屋が並ぶ3階にある。

 研究室や魔法のレッスン室、食堂や娯楽室その他諸々、日常を過ごす大抵の場所は1階と2階に集中しているから、それ以外のフロアには立ち寄ったことがない。

 とはいえ、1階から3階だけでも相当な広さがあるため、まだ行っていない場所もあるくらいだ。



 最上部らしき場所について少し歩くと、現れた扉にナジェは手をかざし解錠の魔法を使っているようだった。

 魔法で鍵も掛けられるんだ、なんだか便利だな~。


 扉を開けると、冷たい風がぴゅうっと吹いてきた。

 外なんだ!ここはエメラルド塔の屋上なのね。


 初めて登ったエメラルド塔の屋上は、とても空に近くてそれは絶景だった。

 視線を下ろせば王都の街が広がり、街の明かりが煌々としている。
 上を見上げれば、もうすっかり暗くなった夜空に満天の星が輝く。


 わ~~!綺麗な星空!

「すごい綺麗!!」


 ナジェは感動している私を見て優しく笑いながら言う。
「考え事をしたいときはいつもここに来る」

「そうなんだ。素敵な場所だね」
 私はもうすでに、お気に入りの場所となっている。


 絶景だけど、夜風が少し冷たいな。
 私は無意識に手を擦り合わせていた。


 そんな様子を見ていたのか、ナジェは私を後ろから抱きしめるように引き寄せて、羽織っていたローブの中に私をすっぽりと包み込んだ。

 ああ、こんなに穏やかで幸せな時間は久しぶりかもしれない。
 私はナジェの温かい体を背中に感じながら、幸福感に包まれた。


 そうしてのんびり星空を眺めていると、ふと思い出した。

 そういえば聖女がやって来るときは、ここで予兆を受け取るってこの世界へ来た時に聞いた気がする。

 私はなぜか気になって、何気なくナジェに問いかけた。
「ねえ、聖女が来る予兆ってどんなの?」



 いつまで経っても返事がないことを不思議に思い振り返ると、ナジェは固い表情をしていた。

 彼は空の一点を見つめたまま動かない。


 どうしたんだろう??




「…………あれだ」

 ???

 あれって?


 言っている意味が分からず彼の視線を辿ると、その先にはひときわ大きく輝いている星があった。


 すごい綺麗!
 しかも、よくよく見てみればその星は煌めく度に色を微かに変えていて、七色に輝いている。

 珍しい星だ。元いた世界でもあんな星見たことない。
 この国特有の星なのかな?


 そう思いながらナジェに聞こうと顔を見上げると、彼は今にも倒れそうなくらいに蒼白な表情をしている。

 やだ、大丈夫かな。



「あれが、予兆だ」

 ?!?!

「いや、実際に目にするのは初めてだが……。話に聞いていたものとほぼ違いない」
 ナジェは冷や汗の感じさせる表情でそう言った。


 え?!あの星が予兆なの??
 そっか、すごい綺麗なんだね~!

 って………あれ?!?!

 じゃあ、また新しい聖女がやって来るってこと……?!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...