落ちこぼれ仮聖女ですが、王国随一の魔道士に溺愛されました

六花心碧

文字の大きさ
35 / 63
本編

34.王宮の噂話

しおりを挟む
 翌日、仕事を終えた私は再び意気揚々と王宮の図書館へやってきた。


 やっと読める……!


 私は紫の扉について書かれたその3巻を手に取って読書スペースの席に着き、ドキドキしながら本を開いた。

 すると、すぐ隣にある棚の向こう側で、ヒソヒソと話している人たちの声が耳に入ってきた。

「参ったよ。此処の所、ヴェルナー侯爵が無理難題ばかり言うから」
「娘の機嫌が悪いらしいな」
「ああ、魔法研究所の所長に相手にされなくて自棄になってるとか」

 ナジェのことだ……!私は思わず聞き耳を立てる。

「ヴェルナー侯爵令嬢のご機嫌はきちんと取らなきゃなあ」
「そうだよなあ、結局あの所長だっていくらウォード家の後ろ盾があると言っても元は平民なんだから、ヴェルナー侯爵令嬢と結婚してやっと地位が確立するってもんだろ」
「あ、でも少し前に異国から聖女がやってきたって話じゃなかったっけ? それなら聖女との結婚が1番エメラルド塔も安泰なんじゃないか?」

 突然、私の話が出てドキッとする。

「いや、それが全然魔力も無いらしくて、聖女とはいえないみたいだぞ?」

 その言葉を聞いて、心臓を掴まれたような気がした。聖女とはいえない……。その通りだ。

「じゃあもうヴェルナー侯爵令嬢しかないな」
「でも所長本人は嫌がってるらしい」
「えーあんな美女ならいいのにな」

 噂話は私にさらに追い討ちをかける。

「それならあとはノイラート侯爵令嬢くらいしかいないよな。研究所の優秀な所員だって評判だし」

 ノイラート侯爵令嬢って……レニのこと……?!

 私は目の前が真っ暗になった。
 なんというか、こう、奈落の底に突き落とされたような気持ちだ。

 その後も彼らは仕事の愚痴や人の噂話をしていたけれど、それ以上は何も耳に入らなかった。

 私が呆然としていると、噂話をしていたらしき人物たちが出て行くのが見えた。あの制服は王宮で勤めている文官だ。それだけの地位がある人たちの話ならあながち間違いではないのだろう。

 あの夜会の日以来、ナジェは優しくしてくれるし、ティナ様とは正式な婚約じゃないって聞いて浮かれてしまっていた。その後のナジェの言動にも、何かを期待してしまっている自分がいたけれど……。


 私は何を舞い上がっていたのだろう。

 彼らの言う通りだ。こういった世界ではナジェのような地位を持った人は結婚できる相手だって限られる。

 前回召喚された聖女様は、その当時の王太子殿下と恋に落ちて結ばれたと知ったけれど、その聖女様は物凄い魔力の持ち主で大活躍をなさり、この国に貢献した。だからこそ、その献身と魅力に王太子殿下も惹かれたのだろう。

 私は聖女ですらない……できることも、何もない……。

 私は頭を振って湧いてくる雑念を振り払った。
 いたたまれない気持ちを振り切るように本の続きに目を落とす。

『聖女様が元の世界に戻るための方法とは、移動魔法の魔法陣に行きたい場所の国名、年代、詳細の住所を記したものを扉に描き、魔道士たちの魔力を満たすことで可能となる。ただ、紫の扉は一度使うと100年の間、使えない。そのために扉を使った浄化は取りやめになったのだ』


 紫の扉を使えば、元の世界に戻れる……!!


『しかし、王太子殿下と愛し合う聖女様にはその必要もなかった。お二人が結ばれたのは金色とブルーに輝く星が重なり合う日だった。それ以来、二つの星が重なり合う日は、“愛が生まれる奇跡の日”だと言い伝えられている。お二人は見ていて微笑ましい程に仲睦まじく、私も若い頃を思い出す』

 ゲルマーさんがこうして文書に残すほどお二人は愛し合っていたのね。ロマンチックだ、とはしゃいでいたレニの可愛い笑顔を思い出し思わず顔が綻ぶ。


 それにしても……
 私はハッと思い直し、居住まいを正して思考を整理した。

 ゲルマーさんの研究によれば、紫の扉を使うことで、私は元の世界に戻れるということだ。
 でも、私がそれを使ったらラガの街の穢れの亀裂を浄化することは100年の間できない……!


 ……だけど、このままこの世界にいたら、私はナジェが誰かと恋仲になり結婚していく姿を見なくてはいけないということだ。

 それはものすごく苦しい選択となるだろう。失恋の傷を抱えたまま、目の前でナジェが誰かと愛し合い家庭を作って暮らしていく姿を見なくてはいけないなんて……!

 でも恋に破れて悲しいから帰りたい、という理由で私が扉を使ってしまうと、スピンとスピンのお父さんも、ラガの街に住む人々みんなの苦しみが続いてしまう……。

 このまま放っておけば、ラガの街だけでなく王都の街全体に病が広がってしまうこともありえる。


 そんなのダメだ……!失恋の痛みなんかより、みんなの健康と命を守ることの方が大切に決まってる!!


 明らかに分かりきったことなのに、私はすぐに覚悟を決めることができなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

処理中です...