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本編
27.甘い罠
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動揺する私の気持ちとは裏腹に、美しい花々に彩られた会場である庭園に着くと、お茶会はスムーズに幕を開けてしまった。
エメラルド塔の魔道士たちはそれぞれ席についている。私はどこに座ればいいのかな。そう思いながらキョロキョロしていると、ティナ様と取り巻きのご令嬢たちがおずおずと目の前にやってきた。
「リシャ様、この度はなんと言っていいか……。私の家であのような事態になってしまって、本当に申し訳ありません。ご無事でなによりですわ」
そうやって謝罪と労りの言葉をかけてくれるティナ様は儚げでとても美しく、私はこれまでのいろんなことを忘れて思わずぽーっと見惚れてしまう程だった。
何も知らない人が見たら、なんて健気で可憐な女性なのだと思うだろう。私もこれまでの怖い顔や厳しい物言いを知らなければ、なんて素晴らしい人なのだろうと感激できたのかもしれない……。
しおらしい演技のティナ様にレニとナジェはこれ以上ない程の冷たい視線を送っている。ハニカ様も珍しく厳しい表情だ。
ティナ様の横には3人のご令嬢もいた。彼女たちは私の隣に立っているレニを見ると、あからさまにブルっと体を震わせながら顔を青くした。
本来ならば、私をあの扉に誘導した罪が問われるはずではあったのだが、ティナ様が手を回し、ただの誤解だったということに話をすり替えてしまったのだとレニたちから説明を受けていた。
私としても、結果的に何事もなかったわけで、これ以上ティナ様と面倒になるのは避けたかったからその方がいい。
彼女たちは、今にも倒れそうな位に青ざめながらも私の前に来て、口々に令嬢らしく丁寧に私に誤解を招いた謝罪と挨拶の言葉をかけてすぐに引いていった。
しかし、レニ……『質問に答えてもらっただけ』って言ってたけど、本当は何したんだろう。でもなんとなく怖いから聞かないでおくね。
そうして、私が言葉を発する間もなく、予め用意されていた席に案内された。ティナ様はナジェの隣に収まる。私は2人をはっきりと視界に捉えることができる位置だが、そこからはやや遠目の席だった。
私の隣席の魔道士を隅に追いやりそこへ座ったレニが、こそっと顔を寄せて耳打ちする。
「ちなみにこの席順は綿密に手が回されていて、所長がいくら殿下に言っても変えることはできなかったみたい」
やれやれ、とでも言いたげなレニの大人びた顔に思わず吹き出しそうになってしまった。
レニって本当に18歳かしら。しっかりし過ぎて、時々私よりも歳上なんじゃないだろうかと思ってしまう。
とはいえ、私は気が気じゃなかった。例の惚れ薬のことを考えたら居ても立っても居られない。レニもナジェもハニカ様もなんでこんなに冷静なんだろうか。
メイドさんたちがテーブルのセッティングを進め、各テーブルでお茶が注がれ始めると、レニが私にだけ聞こえる小さな声で呟いた。
「あ、人魚の涙」
レニの視線を辿ると、ティナ様がドレスの袖の中に小さな薄紅色のガラス瓶を隠し持っているのがキラリと光って見えた。彼女はよろけたふりをして、ナジェの目の前に置かれているカップにその薄紅色の容器から数滴の雫を垂らした。
え!今の…………!!
あれが例の惚れ薬なんだとすると、そのカップを飲んだらナジェはティナ様に夢中になって恋い焦がれてしまうということだ。私の目の前で……。
どうしよう、そんなの嫌だ!見たくないよ……!
あれこれと考えている間にも、ナジェのカップには琥珀色の紅茶がなみなみと注がれていき、ティナ様はにっこり笑ってそれをどうぞという風に優雅に促した。
あ!飲んじゃう!!
「っ……! …………!」
ナジェがカップを手に取るのが見えて、私は思わず立ち上がり言葉にならない声を発した瞬間と同時に、彼はそのカップをグイッと仰ぎこちらを振り返った。
「リシャ、どうした?」
え……?こっち見た。
エメラルド塔の魔道士たちはそれぞれ席についている。私はどこに座ればいいのかな。そう思いながらキョロキョロしていると、ティナ様と取り巻きのご令嬢たちがおずおずと目の前にやってきた。
「リシャ様、この度はなんと言っていいか……。私の家であのような事態になってしまって、本当に申し訳ありません。ご無事でなによりですわ」
そうやって謝罪と労りの言葉をかけてくれるティナ様は儚げでとても美しく、私はこれまでのいろんなことを忘れて思わずぽーっと見惚れてしまう程だった。
何も知らない人が見たら、なんて健気で可憐な女性なのだと思うだろう。私もこれまでの怖い顔や厳しい物言いを知らなければ、なんて素晴らしい人なのだろうと感激できたのかもしれない……。
しおらしい演技のティナ様にレニとナジェはこれ以上ない程の冷たい視線を送っている。ハニカ様も珍しく厳しい表情だ。
ティナ様の横には3人のご令嬢もいた。彼女たちは私の隣に立っているレニを見ると、あからさまにブルっと体を震わせながら顔を青くした。
本来ならば、私をあの扉に誘導した罪が問われるはずではあったのだが、ティナ様が手を回し、ただの誤解だったということに話をすり替えてしまったのだとレニたちから説明を受けていた。
私としても、結果的に何事もなかったわけで、これ以上ティナ様と面倒になるのは避けたかったからその方がいい。
彼女たちは、今にも倒れそうな位に青ざめながらも私の前に来て、口々に令嬢らしく丁寧に私に誤解を招いた謝罪と挨拶の言葉をかけてすぐに引いていった。
しかし、レニ……『質問に答えてもらっただけ』って言ってたけど、本当は何したんだろう。でもなんとなく怖いから聞かないでおくね。
そうして、私が言葉を発する間もなく、予め用意されていた席に案内された。ティナ様はナジェの隣に収まる。私は2人をはっきりと視界に捉えることができる位置だが、そこからはやや遠目の席だった。
私の隣席の魔道士を隅に追いやりそこへ座ったレニが、こそっと顔を寄せて耳打ちする。
「ちなみにこの席順は綿密に手が回されていて、所長がいくら殿下に言っても変えることはできなかったみたい」
やれやれ、とでも言いたげなレニの大人びた顔に思わず吹き出しそうになってしまった。
レニって本当に18歳かしら。しっかりし過ぎて、時々私よりも歳上なんじゃないだろうかと思ってしまう。
とはいえ、私は気が気じゃなかった。例の惚れ薬のことを考えたら居ても立っても居られない。レニもナジェもハニカ様もなんでこんなに冷静なんだろうか。
メイドさんたちがテーブルのセッティングを進め、各テーブルでお茶が注がれ始めると、レニが私にだけ聞こえる小さな声で呟いた。
「あ、人魚の涙」
レニの視線を辿ると、ティナ様がドレスの袖の中に小さな薄紅色のガラス瓶を隠し持っているのがキラリと光って見えた。彼女はよろけたふりをして、ナジェの目の前に置かれているカップにその薄紅色の容器から数滴の雫を垂らした。
え!今の…………!!
あれが例の惚れ薬なんだとすると、そのカップを飲んだらナジェはティナ様に夢中になって恋い焦がれてしまうということだ。私の目の前で……。
どうしよう、そんなの嫌だ!見たくないよ……!
あれこれと考えている間にも、ナジェのカップには琥珀色の紅茶がなみなみと注がれていき、ティナ様はにっこり笑ってそれをどうぞという風に優雅に促した。
あ!飲んじゃう!!
「っ……! …………!」
ナジェがカップを手に取るのが見えて、私は思わず立ち上がり言葉にならない声を発した瞬間と同時に、彼はそのカップをグイッと仰ぎこちらを振り返った。
「リシャ、どうした?」
え……?こっち見た。
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