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犬好きな彼の話2
しおりを挟む散歩コースは、コロの母犬であるモモがいるおじさんちの前を必ず通り、おじさんと一緒に川沿いを歩くのが日課だった。その時のコロは母親にじゃれついて親子の時間を満喫していたんだけど、俺が見ているのにハッと気づくと、途端に兄貴ぶってカッコつけてたな。あれは笑えた。
コロは頭が良く、日頃特に悪さをしたりしなかったけど、時たま出会う女の子にはなぜかものすごく執着していた。
ある日なんて、遠くにいる彼女を見つけるなり、俺達に気づくと同時に踵を返して逃げた彼女を猛ダッシュして追いかけて行ったんだから本当に困った。油断してたこともあって、あまりの素早さと力強さに持っていたリードが手から離れてしまい、俺まで走って追いかけなくちゃならなくなったんだ。
「やだー! 来ないでよー!」
犬が苦手なのか、叫びながら逃げる彼女は足がすごく速くて、あっという間に距離を離されてしまった。だからなかなか追いつけなくて延々と走り回る羽目になった。
「お前が逃げるから追いかけるんだよっ!止まれったら!」
「やだっ!無理ーっ!」
そう拒否して逃げ続けるも、コロの身体能力には敵わない。いずれは追いつかれて舐めまわされていた。
「はっ……はあっ。お前……なぁ……っ、逃げ、なきゃすぐに、俺だって……止める、んだから、はぁ、じっとし……てろよ!」
荒く息をしながらコロのリードをようやく掴み、彼女から引き離す。コロは邪魔が入ったとばかりに不満そうだ。
「アンタがリードを離さなきゃいいだけじゃないの!人のせいにしないでよ!」
半泣きで蹲る彼女にそう言われてしまい、確かに俺のリードの持ち方が甘かったせいもあるので反論できなかった。下手をするとケガをさせていた可能性だってあったんだから。
「……ごめん」
「……最悪。ヨダレでベトベトじゃない。もう絶対離さないようにしてよね!」
ぐいっと目元をぬぐい、立ち去る彼女に俺は何も言えず、そのまま見送るしかなかった。
それからしばらく気をつけていたけど、彼女を見かけることはなかった。
年月が経つにつれ、おじさんもモモも遠出が辛くなり、散歩の距離が短くなり、ある日モモがこの世を去ってからは、おじさんと散歩することはなくなった。
コロは日々の散歩コースであるおじさんの家の前で立ち止まっては、しばらく玄関をジッと見つめ、おじさんとモモが出てくるのを待っていた。
そんなコロの姿を見るのが辛かった。
「行こう、コロ。……待っててもモモはもういないんだから」
そう言ってリードを引っ張っても、コロはなかなか動こうとはしなかった。
そんな日々が続いていたが、いつしか「もうおじさんとモモは一緒に散歩に行かないんだ」と理解したのだろうか、コロは一瞬だけピタリとおじさんの家の前で歩みを止め、玄関をチラリと確認すると、そのまま散歩を再開するようになった。
コロの中でどんな風に気持ちを整理したのだろうかと今でもふと思うことがある。
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