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犬好きな彼の話3
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兄貴風を吹かせていたコロも、俺が中学生の頃にこの世を去った。
当時サッカー部だった俺は、部活に行く前に必ずコロに声をかけて出かけていたんだけど、老いてすでに寝たきりになり、真っ黒だった毛並みが白っぽくなってきていたコロは、その時だけはパタパタと寝たまま尻尾を振って見送ってくれていた。
帰宅した時も「ただいま、コロ」と声をかけて撫でれば、クゥン……と鼻を鳴らして尻尾をパタン、パタンと揺らしていた。まるで「おかえり」って言ってるみたいだった。
夏休みのある日、部活で家を出る時も同じように声をかけて出かけようとしたら、突然起き上がろうとしたので、慌ててコロの元へ戻り、なでて落ちつかせた。
「ごめんな、コロ。部活から帰ったら側にいてやるからな」
そう言って頭を撫でてやると、心細かったのか、キュウゥゥン……と鳴いた。
それが、俺が生きていたコロの姿を見た最後になった。
部活が終わって確認した母からのメールに、コロが死んだと書いてあるのを見て急いで帰ったけど、コロはもう尻尾を振って出迎えてはくれなかった。
うそだろ?って、寝てるだけだろ?なあ?って、そう言ってコロを撫でたけど、ピクリとも動かない。その体はまだほんのりと温かいのに。
泣いて、泣いて、泣きまくった。喪失感が半端なかった。ペットロスって言うけど、そんな簡単に言わないでくれ。ずっと一緒だったんだ。兄貴みたいだなんて思ったりはしないけど、コロは俺の家族だったんだ……。
翌日、部活をサボった俺は、久しぶりにおじさんちに行った。
「……コロが、死んだ」
おじさんが出てくるなりボソッと一言で報告をしたら、おじさんは「……そうか。さみしくなるなぁ」ってぽつりと呟いた。
おじさんもモモがいなくなってからは犬を飼うことはなくなり、めっきり老け込んで小さくなったような気がした。まあ、おじさんもその頃にはもう爺さんと呼ばれてもおかしくない歳だったんだから仕方ないか。俺が大きくなったからってのもあるけど。
「まあ、茶でも飲んでけ」
麦茶しかないけどな、と家の奥へと引っ込んでいったおじさんを見送り、俺はそのまま帰るわけにもいかず、昔のように庭へと回り込んだ。
モモが生きていた頃は犬小屋があった庭に面した縁側でおじさんと並んで座り、冷たい麦茶を飲んだ。お互いしばらくは何も話さず庭を見つめていた。カラン、と氷がとけてグラスの中で音を立てて落ちると、おじさんはポツリと言った。
「モモの子を、コロを可愛がってくれて、ありがとなぁ。お前さんちの子になって、あいつは幸せモンだ」
そう言って、背中をポンポンと叩くもんだから、俺はまた涙がこみ上げてきた。長いことわあわあと大声で泣いたから、おじさんには迷惑かけちまったなぁ。でも、ずっとそばにいてくれたし、安心してたくさん泣いたから、少しだけ気持ちが軽くなったのを覚えてる。
ペット専用の火葬場で火葬にしてもらったコロは小さな、本当に小さな骨壷に納められた。
マリの時はよく覚えてなかったし、モモの時はおじさんが俺に見せないようにしてくれていたこともあって、愛しい存在との永遠の別れというものに初めて直面したのだ。さっきまで撫でてやっていた毛並みもみんな焼けて、小さな骨壷に収まるほどの骨だけになっちまった。
「コロ、小さくなっちゃったねぇ……」
帰りの車の中で母さんがポツリと呟きながら、膝に載せていた骨壷の入った箱をそっと撫でた。コロを撫でていたのと同じように愛おしそうに。
我が家は借家だったからおじさんの申し出で、おじさんちの庭の隅、モモを埋葬した場所の隣にコロの骨壷を埋めさせてもらった。
「これでモモもコロもさみしくないだろ?お前もずっとコロのことでメソメソすんじゃねぇぞ?」だってさ。
でもおじさんがそう言ってくれたから、そうか、コロがさみしくないなら良かったって、心からそう思えたんだ。
当時サッカー部だった俺は、部活に行く前に必ずコロに声をかけて出かけていたんだけど、老いてすでに寝たきりになり、真っ黒だった毛並みが白っぽくなってきていたコロは、その時だけはパタパタと寝たまま尻尾を振って見送ってくれていた。
帰宅した時も「ただいま、コロ」と声をかけて撫でれば、クゥン……と鼻を鳴らして尻尾をパタン、パタンと揺らしていた。まるで「おかえり」って言ってるみたいだった。
夏休みのある日、部活で家を出る時も同じように声をかけて出かけようとしたら、突然起き上がろうとしたので、慌ててコロの元へ戻り、なでて落ちつかせた。
「ごめんな、コロ。部活から帰ったら側にいてやるからな」
そう言って頭を撫でてやると、心細かったのか、キュウゥゥン……と鳴いた。
それが、俺が生きていたコロの姿を見た最後になった。
部活が終わって確認した母からのメールに、コロが死んだと書いてあるのを見て急いで帰ったけど、コロはもう尻尾を振って出迎えてはくれなかった。
うそだろ?って、寝てるだけだろ?なあ?って、そう言ってコロを撫でたけど、ピクリとも動かない。その体はまだほんのりと温かいのに。
泣いて、泣いて、泣きまくった。喪失感が半端なかった。ペットロスって言うけど、そんな簡単に言わないでくれ。ずっと一緒だったんだ。兄貴みたいだなんて思ったりはしないけど、コロは俺の家族だったんだ……。
翌日、部活をサボった俺は、久しぶりにおじさんちに行った。
「……コロが、死んだ」
おじさんが出てくるなりボソッと一言で報告をしたら、おじさんは「……そうか。さみしくなるなぁ」ってぽつりと呟いた。
おじさんもモモがいなくなってからは犬を飼うことはなくなり、めっきり老け込んで小さくなったような気がした。まあ、おじさんもその頃にはもう爺さんと呼ばれてもおかしくない歳だったんだから仕方ないか。俺が大きくなったからってのもあるけど。
「まあ、茶でも飲んでけ」
麦茶しかないけどな、と家の奥へと引っ込んでいったおじさんを見送り、俺はそのまま帰るわけにもいかず、昔のように庭へと回り込んだ。
モモが生きていた頃は犬小屋があった庭に面した縁側でおじさんと並んで座り、冷たい麦茶を飲んだ。お互いしばらくは何も話さず庭を見つめていた。カラン、と氷がとけてグラスの中で音を立てて落ちると、おじさんはポツリと言った。
「モモの子を、コロを可愛がってくれて、ありがとなぁ。お前さんちの子になって、あいつは幸せモンだ」
そう言って、背中をポンポンと叩くもんだから、俺はまた涙がこみ上げてきた。長いことわあわあと大声で泣いたから、おじさんには迷惑かけちまったなぁ。でも、ずっとそばにいてくれたし、安心してたくさん泣いたから、少しだけ気持ちが軽くなったのを覚えてる。
ペット専用の火葬場で火葬にしてもらったコロは小さな、本当に小さな骨壷に納められた。
マリの時はよく覚えてなかったし、モモの時はおじさんが俺に見せないようにしてくれていたこともあって、愛しい存在との永遠の別れというものに初めて直面したのだ。さっきまで撫でてやっていた毛並みもみんな焼けて、小さな骨壷に収まるほどの骨だけになっちまった。
「コロ、小さくなっちゃったねぇ……」
帰りの車の中で母さんがポツリと呟きながら、膝に載せていた骨壷の入った箱をそっと撫でた。コロを撫でていたのと同じように愛おしそうに。
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「これでモモもコロもさみしくないだろ?お前もずっとコロのことでメソメソすんじゃねぇぞ?」だってさ。
でもおじさんがそう言ってくれたから、そうか、コロがさみしくないなら良かったって、心からそう思えたんだ。
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