犬好きの彼 犬嫌いの彼女

柚木原みやこ(みやこ)

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犬好きな彼の話1

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 俺、最上もがみ颯太そうたは自他共に認める犬好きだ。
 両親も同じく犬好きなので、産まれた時から俺の傍にはいつも犬がいるのが当たり前で、家族写真には必ずどこかに犬の姿が写っているほどだった。

 赤ん坊の頃はメスのゴールデンリトリバーを飼っていて、マリって名前だった。
 マリは餌と散歩の時以外は赤ん坊の俺からべったりと離れず、母曰く優秀なベビーシッターだったそうだ。オムツやミルクの時は鳴き分けることで、母に知らせてくれていたらしい。
「あの子には本当に助けられたわぁ」とは母談。
 ママ友が遊びに来た時、よその子のことも鳴いて知らせてくれるかと思いきや、その子には全くの無反応。不思議なことに、マリは完全に俺専属のベビーシッターだったらしい。
 俺がハイハイを覚えてからは、ちょこまかと彷徨うろつく俺の後を追い、危ないところへ向かおうものなら行く手を阻み、絶対に近寄らせなかったそうだから、その溺愛と徹底ぶりは凄かったようだ。
 自らは子犬を産んだ経験も無かったのに、どこからその母性は湧き出てきたのかしらねぇ、と母は事あるごとに笑って話してくれた。
 マリは俺が物心つく頃にはこの世から去ってしまっていたのだが、何となく覚えてる。母とは違う、あったかい存在のこと。

 マリの死後、両親はしばらく犬は飼わないと決めたそうだ。それほどマリの存在は大きかったのだ。だけど俺が小学校に上がる前に、近所のおじさんが飼っていた柴犬が子犬を産んだのを家族で見せてもらいに行ったら、ヤンチャで元気に動き回る姿に一家でメロメロになってしまった。それでおじさんに頼み込んで一番最後に残った、俺たち家族によく懐いた子を譲ってもらうことになったんだ。
 おじさんも「こいつも近所に自分の子がいればさみしくないだろうよ」って、母犬のモモを撫でながら嬉しそうだった。他の子は全部譲り先が決まっていたそうで、まだ小さいうちに1匹、また1匹といなくなってしまった。その喪失感からか、しばらくの間モモは残った我が子を離さなかったので、子犬が我が家にやってくるまでがとても長く感じたなぁ。まあ、俺は毎日おじさんちに通ってはいたんだけどな。
 そうして我が家にやってきたのは、黒い毛並みに薄茶のお公家さんのような眉が特徴的のオスの柴犬で、名前はコロと命名。
「コロコロしてるからコロ!コロがいい!」って俺が主張して諦めなかったのでコロになった……そうだ。
 安易なネーミングだと赤面ものだが、今でも気に入っている名前のひとつだ。
 コロは家族の中で一番小さい俺を弟分と決めたようで、赤ん坊の時こそ「遊ぼ~!」と俺にじゃれついていたのだが、大きくなると「しょーがねぇからオレが遊んでやるよ」みたいな兄貴ぶった態度に変わった。
 散歩の時も「おっ散歩か?よおっし、行くぞ!オレについてこい!」みたいにやる気に満ちた様子で俺の前をフン!フン!と鼻息荒くリードして歩いていたのは今思い出しても微笑ましいエピソードだ。
 躾のことを考えたら、そんなんじゃダメだったんだろうけど、何しろ俺はコロにとって弟分だったからな。おやつなしでは言うことは聞いてくれなかったなぁ……。
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