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試食会 その三
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「お、お父様。そういった難しいお話は後でよろしいではありませんか。せっかくの麺料理ですから、温かく美味しいうちに召し上がってくださいな」
とりあえずこの場をやり過ごそうと、フォーの試食を促すと、緊張感で張り詰めかけた空気が霧散した。
「そ、そうだな。麺が伸びてしまってはいけないからいただくとしよう」
お父様の言葉で皆が気を取り直して箸を手にした。
「急拵えではありますが、イディカを製粉することに成功いたしましたので、それを使って麺を打ちました。試験的に拵えたものですので、味や食感については試作を重ねる必要がございますが……」
私の説明を聞きながら、皆無言で麺を啜……ってはいないか。もぐもぐしている。
うどんやそばは啜った方が美味しいと思うんだけどな。
「小麦の麺と比べると食感が違うな。よりもちもちして喉ごしがなめらかだ」
「そうですね。いつものうどんよりつるりとしているように感じます」
うどんを食べ慣れているお父様とお兄様が即座にいつもの麺と米粉麺の違いに反応した。
米粉麺は既製品のフォーで料理したことはあるけど、さすがに麺は打ったことないからなぁ。
米粉は小麦アレルギーの親戚の子どものためにパンやお菓子で使ったことある程度だし。
製粉技術とともに要研究だわね。
「美味い……イディカ粉か……小麦と引けを取らぬ美味さだ」
レイモンド王太子殿下がもちもち食感を楽しむように目を閉じてフォーを堪能していた。
うん、好感触ね。
カルド殿下たちも嬉しそうだ。
「楽しんでいただけてよかったですわ。イディカ粉と恐らくラースを製粉したものも小麦粉と同じように使えますから、国の誰もが飢えず、食事を楽しめるようになりますわね、きっと」
私が満足そうに言うと、皆がハッとした表情を見せ、カルド殿下たちは大きく頷いた。
「ああ、クリステア嬢には感謝する。これで我が国の民も飢えることなく生き延びられる」
「クリステア様のおかげです」
カルド殿下とティカさんに深々と頭を下げられ、あたふたと慌てふためく。
「カルド殿下、ティカさん、頭を上げてください! そんなことをさせるつもりでした発言ではございませんから!」
「わかっている。それでも、感謝の意を伝えずにはいられないのだ」
カルド殿下はそう言ってからレイモンド王太子殿下に向き直った。
「レイモンド王太子殿下、そしてエリスフィード公爵。我が国のためにこのような素晴らしいレシピを開発していただいて感謝する。この偉業に対して、我が国はドリスタン王国との友好な関係を継続し、香辛料などの輸出品目の取引を優遇しよう」
「……この偉業を成し遂げたのはクリステア嬢並びにエリスフィード公爵家の料理人たちだが、その申し出はありがたく受けたいと思う。陛下にはエリスフィード公爵家を優先するよう奏上しよう」
「我が娘の功績であることは間違いありませんが、料理のこと以外は無欲な娘ですので香辛料の優遇はありがたいですな」
カルド殿下が私の希望を汲んで、取引条件を限定したので、レイモンド王太子殿下とお父様がそれにのっかる形で仮ではあるものの、取引が成立したっぽい。
本当ならこんなところで取り決める話じゃないはずなんだけど⁉︎
「其方が全力で褒賞だのを嫌がるから、これで手打ちにしようという暗黙の了解のようなものがあの場で交わされただけだ」と後でお父様から聞かされた。
なんかすみません……でも本当に香辛料の優遇が一番嬉しいんだもん。
「……ところで、ひととおり試食は済んだのだな?」
お父様が真剣な顔で私を見た。
「え? ええ。そうですわね」
「よし、それではおかわりを。私はガパオライスとフォーだ」
お父様、たべすぎじゃないですか?
「僕はフォーをいただこうかな。さっきと同じ量でいいから」
お兄様は控えめね。
「じゃ、じゃあ俺はチャーハンで、カレー味にできるか?」
レイモンド王太子殿下……カレーチャーハンとかいうカスタムオーダーは反則じゃないかな⁉︎
「なんだ? そのカレー味のチャーハンとやらは⁉︎ 俺も同じものを頼む!」
ほらあ! カルド殿下も真似しちゃうじゃん!
「む、カレーチャーハンか……私ももらおう」
「あ、それなら僕も」
えええ、お父様とお兄様まで⁉︎
後ろでティカさんが「何っすかそれ⁉︎ 聞いてない! 俺の分もあるっすよね⁉︎」とばかりに縋るような目で私を見てるんだけど‼︎
ああ、でも……
「あの、私の分も少なめでカレーチャーハンをお願いしますわ」
カレーチャーハンと聞いたら食べずにはいられないじゃないの!
後で密かに楽しもうと思ってたのに!
「……あ、そうだわ。できれば真ん中を窪ませて、温泉卵を落としていただけるかしら」
「かしこまりました」
私のさらなるカスタムオーダーに皆が「なんだその美味しそうなのは⁉︎」とばかりにギュン!と反応し、結局皆も温泉卵のせにしたのだった。
……ティカさん、後で絶対出してあげるから、絶望したような顔でこっちを見ないで。
お願いだから!
---------------------------
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております!
12月は本業が繁忙期に入るため、もしかしたらお休みする週があるかもしれません(´・ω・`)
その場合はXや近況ボードなどでお知らせし、前回分のコメント返しのみさせていただこうかと思います。
よろしくお願いいたします。
とりあえずこの場をやり過ごそうと、フォーの試食を促すと、緊張感で張り詰めかけた空気が霧散した。
「そ、そうだな。麺が伸びてしまってはいけないからいただくとしよう」
お父様の言葉で皆が気を取り直して箸を手にした。
「急拵えではありますが、イディカを製粉することに成功いたしましたので、それを使って麺を打ちました。試験的に拵えたものですので、味や食感については試作を重ねる必要がございますが……」
私の説明を聞きながら、皆無言で麺を啜……ってはいないか。もぐもぐしている。
うどんやそばは啜った方が美味しいと思うんだけどな。
「小麦の麺と比べると食感が違うな。よりもちもちして喉ごしがなめらかだ」
「そうですね。いつものうどんよりつるりとしているように感じます」
うどんを食べ慣れているお父様とお兄様が即座にいつもの麺と米粉麺の違いに反応した。
米粉麺は既製品のフォーで料理したことはあるけど、さすがに麺は打ったことないからなぁ。
米粉は小麦アレルギーの親戚の子どものためにパンやお菓子で使ったことある程度だし。
製粉技術とともに要研究だわね。
「美味い……イディカ粉か……小麦と引けを取らぬ美味さだ」
レイモンド王太子殿下がもちもち食感を楽しむように目を閉じてフォーを堪能していた。
うん、好感触ね。
カルド殿下たちも嬉しそうだ。
「楽しんでいただけてよかったですわ。イディカ粉と恐らくラースを製粉したものも小麦粉と同じように使えますから、国の誰もが飢えず、食事を楽しめるようになりますわね、きっと」
私が満足そうに言うと、皆がハッとした表情を見せ、カルド殿下たちは大きく頷いた。
「ああ、クリステア嬢には感謝する。これで我が国の民も飢えることなく生き延びられる」
「クリステア様のおかげです」
カルド殿下とティカさんに深々と頭を下げられ、あたふたと慌てふためく。
「カルド殿下、ティカさん、頭を上げてください! そんなことをさせるつもりでした発言ではございませんから!」
「わかっている。それでも、感謝の意を伝えずにはいられないのだ」
カルド殿下はそう言ってからレイモンド王太子殿下に向き直った。
「レイモンド王太子殿下、そしてエリスフィード公爵。我が国のためにこのような素晴らしいレシピを開発していただいて感謝する。この偉業に対して、我が国はドリスタン王国との友好な関係を継続し、香辛料などの輸出品目の取引を優遇しよう」
「……この偉業を成し遂げたのはクリステア嬢並びにエリスフィード公爵家の料理人たちだが、その申し出はありがたく受けたいと思う。陛下にはエリスフィード公爵家を優先するよう奏上しよう」
「我が娘の功績であることは間違いありませんが、料理のこと以外は無欲な娘ですので香辛料の優遇はありがたいですな」
カルド殿下が私の希望を汲んで、取引条件を限定したので、レイモンド王太子殿下とお父様がそれにのっかる形で仮ではあるものの、取引が成立したっぽい。
本当ならこんなところで取り決める話じゃないはずなんだけど⁉︎
「其方が全力で褒賞だのを嫌がるから、これで手打ちにしようという暗黙の了解のようなものがあの場で交わされただけだ」と後でお父様から聞かされた。
なんかすみません……でも本当に香辛料の優遇が一番嬉しいんだもん。
「……ところで、ひととおり試食は済んだのだな?」
お父様が真剣な顔で私を見た。
「え? ええ。そうですわね」
「よし、それではおかわりを。私はガパオライスとフォーだ」
お父様、たべすぎじゃないですか?
「僕はフォーをいただこうかな。さっきと同じ量でいいから」
お兄様は控えめね。
「じゃ、じゃあ俺はチャーハンで、カレー味にできるか?」
レイモンド王太子殿下……カレーチャーハンとかいうカスタムオーダーは反則じゃないかな⁉︎
「なんだ? そのカレー味のチャーハンとやらは⁉︎ 俺も同じものを頼む!」
ほらあ! カルド殿下も真似しちゃうじゃん!
「む、カレーチャーハンか……私ももらおう」
「あ、それなら僕も」
えええ、お父様とお兄様まで⁉︎
後ろでティカさんが「何っすかそれ⁉︎ 聞いてない! 俺の分もあるっすよね⁉︎」とばかりに縋るような目で私を見てるんだけど‼︎
ああ、でも……
「あの、私の分も少なめでカレーチャーハンをお願いしますわ」
カレーチャーハンと聞いたら食べずにはいられないじゃないの!
後で密かに楽しもうと思ってたのに!
「……あ、そうだわ。できれば真ん中を窪ませて、温泉卵を落としていただけるかしら」
「かしこまりました」
私のさらなるカスタムオーダーに皆が「なんだその美味しそうなのは⁉︎」とばかりにギュン!と反応し、結局皆も温泉卵のせにしたのだった。
……ティカさん、後で絶対出してあげるから、絶望したような顔でこっちを見ないで。
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