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試食会 その一
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レイモンド王太子殿下をこのまま帰すのは申し訳ないということで、当然のように彼も試食会も兼ねた昼食にお誘いすることになった。
レイモンド王太子殿下は、先程調理場まで乗り込んできた時に興味深そうに周囲の匂いを嗅いでいたこともあり、試食にありつけてホクホク顔だ。
試作分はほぼ食べ尽くしていたため感じられるのは残り香だけだったせいで、お預け感半端なかったもんね。わかる。
「はー、やっとメシにありつけるぜ」
レイモンド王太子殿下と並んで食堂に向かうレオン様が頭の後ろで手を組んでやれやれといった様子で言った。
ええい、黙らっしゃい。
今思えばレオン様がカルド殿下のいた屋台に連れていったのはわざとですよね?
こういう展開になるときっとわかっていたにちがいないよ、この確信犯め。
そのおかげで予定してなかったイディカの試作まですることになっちゃったし。
まあ、イディカに出会えたのはラッキーではあったので結果オーライかもしれないけれど。
皆で食堂に移動し、席に着いたところで試作の一品目の前に、と炊き立てのごはんが色違いの小皿にちんまりと盛られ、運ばれてきた。
「これは?」
「それぞれラースとイディカを炊いたものです。ぜひ食べ比べてみてくださいませ」
敢えてどちらの皿が何なのかは告げず、実食していただくことにした。
見た目から違うので、説明は不要だろうし。
「ふむ、粒の形状からはっきりと違いが見てとれるな。こちらは我々が食べ慣れているラースと思われるが……」
お父様がそう言って、迷いなくラースの小皿を手にし、箸で一口分すくい上げて口にした。
「……うん、もっちりとした食感に、噛めば噛むほど甘味を感じる。いつもの味だな」
目を閉じて味を確かめるようにして咀嚼したお父様は確信を持って答えた。
お父様、すっかりラースに慣れちゃって。
初めて食べた時はすぐに飼料とバレちゃって大目玉くらったっけ。
その頃と比べたら凄い進歩だわ。
「確かに父上のおっしゃるとおり、こちらの皿はラースのようですね。それでは、こちらがイディカですか? ラースと比べて粒が長く、パラパラしていますね……ん、あれ?」
お兄様が箸でイディカを摘もうとするものの、ラースよりかパラパラと溢れやすく難儀していたので念のため用意していたスプーンを使っていただくことに。
「……これは。似ているようで味も食感も違いがはっきりとしている。それに……独特の香りが感じられるな?」
お父様がいち早くイディカを試したようで、早くもその違いを指摘していた。さすがだわ。
「はい。ラースとイディカは似ているようでその特徴は異なり、ラースと同じ扱いではそれらを生かせないため、イディカ専用の調理法で炊き上げました」
「ほう。イディカ専用レシピか……」
お父様の表情が変わった。
それもそうか。なんたって専用レシピだもんね。
救国云々は大袈裟とはいえ、サモナール国に確実に恩が売れると判断したのだろう。
お父様には申し訳ないけれど、カルド殿下には高額での取引より、今後はエリスフィード公爵家を優遇してもらえるよう打診済みなので、お父様にその旨お願いしなければ。
お父様はレシピの考案者はクリステアなのだから、と私が交渉をお父様に丸投げ……もとい、一任しない限り基本的に私の希望を聞いてくれる。
私がうっかり「タダでいいですよ」とか言ったりしたら怒られるかもなので、今回はレシピを献上するていで渡しはするものの、今後のエリスフィード公爵家の優遇を確約させる流れに持っていけたら私的には大成功なんだよね。
お父様からしても、長い目で見れば他の貴族より優遇される点では今後有利に働くと感じるに違いないし。
無欲の勝利? いや欲はあるか。
さっき、料理長に「クリステア様は欲がごさいませんね」とひそかに苦笑されたのだけど、名誉欲とか顕示欲とかマウント系の欲は確かにない。
だけど、美味しいものを作るための手段や材料を得たいという欲はあるので、物欲はしっかりとあると思う。
え? そこは食欲だろうって?
そこはそれ、乙女心ってやつがね、食欲と言い切りたくないわけで。
言わせんな。ははは(棒読み)
カルド殿下は特に反応はなく、黙々とラースとイディカを食べ比べていた。
イディカを食べる時にうん、うんと頷いていたので、ラースとは違いがあるものの、イディカはイディカの魅力があると改めて確信していそうだ。
ティカさんは……一応従者だからカルド殿下の後ろで控えているけれど「いいなー、俺も食いたいっす!」と言わんばかりの物欲しそうな顔で食卓を見ていた。
ティカさん、後で食べられるように確保してあるはずだから我慢して⁉︎
「それでは、ラースとの違いをご理解いただいたところで試作の一品目、チャーハンです」
私の合図でハーフサイズのチャーハンが運ばれてきた。
「おいおい、これだけか? ちっと量が少なくね?」
レオン様が不満気に言った。この不良聖獣め……!
黒銀や真白が珍しくおとなしくしてるんだから、行儀よくして! もう!
とはいえ、お父様を始めお兄様やレイモンド王太子殿下も同じように感じていたようで、それぞれが言い淀んでいたことをレオン様が迷わず指摘したので少し焦っているみたい。
「……この後も試作したものが出てきますので、量はひかえめにしております。気に入ったものがございましたら後でおかわりをなさればよろしいのでは?」
「お、そうなのか。そんじゃ期待して待つかな」
しかたないのでおかわりOKってことにすると、レオン様は満足そうにスプーンを手にした。
一応、食いしん坊揃いなのは承知の上なので、現在調理場では急ピッチで追加のごはんが炊かれているはず。
それでも、試食後のおかわりラッシュを覚悟してか、給仕の皆の表情が引き締まった。
料理人たちもだけど、給仕の皆にも苦労をかけるねぇ……すまぬ!
他国や自国の王族や聖獣がこの食堂内にわんさかいるんだもんね……気も休まらないだろう。
お父様に特別ボーナスの支給をお願いしなければ……いやここは、私のポケットマネーから出すべき……?
「ほう、これは美味いな。ラースのチャーハンは食べたことがあるが、それとは食感からして違う」
お父様はイディカのチャーハンが気に入ったようで、最初の一口をじっくり味わった後はパクパクとスプーンを持つ手が止まらない様子だった。
「ええ、パラパラとした食感がラースとは違いチャーハンと合っているようです」
お兄様も気に入ったみたい。レイモンド王太子殿下もあっという間に平らげていた。
「そうだな。それに、イディカ独特の香りが不思議と合ってる」
人によってはクセと感じるイディカ独特の香りもいい感じに受け入れられているみたいね。
黒銀と真白は……とっくの昔に食べ終えて次を出すよう要求してる……二人とも、おとなしくしてたけどお腹すいてたんだね……
ドリスタン王国勢の反応を見て、カルド殿下とティカさんは「これは必ずいける!」と自信を持ったようで視線を合わせて頷いていた。
よしよし、ひとまずチャーハンが及第点なのは確実だね。
そんじゃ、次いってみよー!
---------------------------
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております~!
12月は本業が繁忙期に入るため、もしかしたらお休みする週があるかもしれません……しょぼんぬ(´・ω・`)
その場合はXや近況ボードなどでお知らせし、前回分のコメント返しのみさせていただこうかと思います。
よろしくお願いいたします。
レイモンド王太子殿下は、先程調理場まで乗り込んできた時に興味深そうに周囲の匂いを嗅いでいたこともあり、試食にありつけてホクホク顔だ。
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ええい、黙らっしゃい。
今思えばレオン様がカルド殿下のいた屋台に連れていったのはわざとですよね?
こういう展開になるときっとわかっていたにちがいないよ、この確信犯め。
そのおかげで予定してなかったイディカの試作まですることになっちゃったし。
まあ、イディカに出会えたのはラッキーではあったので結果オーライかもしれないけれど。
皆で食堂に移動し、席に着いたところで試作の一品目の前に、と炊き立てのごはんが色違いの小皿にちんまりと盛られ、運ばれてきた。
「これは?」
「それぞれラースとイディカを炊いたものです。ぜひ食べ比べてみてくださいませ」
敢えてどちらの皿が何なのかは告げず、実食していただくことにした。
見た目から違うので、説明は不要だろうし。
「ふむ、粒の形状からはっきりと違いが見てとれるな。こちらは我々が食べ慣れているラースと思われるが……」
お父様がそう言って、迷いなくラースの小皿を手にし、箸で一口分すくい上げて口にした。
「……うん、もっちりとした食感に、噛めば噛むほど甘味を感じる。いつもの味だな」
目を閉じて味を確かめるようにして咀嚼したお父様は確信を持って答えた。
お父様、すっかりラースに慣れちゃって。
初めて食べた時はすぐに飼料とバレちゃって大目玉くらったっけ。
その頃と比べたら凄い進歩だわ。
「確かに父上のおっしゃるとおり、こちらの皿はラースのようですね。それでは、こちらがイディカですか? ラースと比べて粒が長く、パラパラしていますね……ん、あれ?」
お兄様が箸でイディカを摘もうとするものの、ラースよりかパラパラと溢れやすく難儀していたので念のため用意していたスプーンを使っていただくことに。
「……これは。似ているようで味も食感も違いがはっきりとしている。それに……独特の香りが感じられるな?」
お父様がいち早くイディカを試したようで、早くもその違いを指摘していた。さすがだわ。
「はい。ラースとイディカは似ているようでその特徴は異なり、ラースと同じ扱いではそれらを生かせないため、イディカ専用の調理法で炊き上げました」
「ほう。イディカ専用レシピか……」
お父様の表情が変わった。
それもそうか。なんたって専用レシピだもんね。
救国云々は大袈裟とはいえ、サモナール国に確実に恩が売れると判断したのだろう。
お父様には申し訳ないけれど、カルド殿下には高額での取引より、今後はエリスフィード公爵家を優遇してもらえるよう打診済みなので、お父様にその旨お願いしなければ。
お父様はレシピの考案者はクリステアなのだから、と私が交渉をお父様に丸投げ……もとい、一任しない限り基本的に私の希望を聞いてくれる。
私がうっかり「タダでいいですよ」とか言ったりしたら怒られるかもなので、今回はレシピを献上するていで渡しはするものの、今後のエリスフィード公爵家の優遇を確約させる流れに持っていけたら私的には大成功なんだよね。
お父様からしても、長い目で見れば他の貴族より優遇される点では今後有利に働くと感じるに違いないし。
無欲の勝利? いや欲はあるか。
さっき、料理長に「クリステア様は欲がごさいませんね」とひそかに苦笑されたのだけど、名誉欲とか顕示欲とかマウント系の欲は確かにない。
だけど、美味しいものを作るための手段や材料を得たいという欲はあるので、物欲はしっかりとあると思う。
え? そこは食欲だろうって?
そこはそれ、乙女心ってやつがね、食欲と言い切りたくないわけで。
言わせんな。ははは(棒読み)
カルド殿下は特に反応はなく、黙々とラースとイディカを食べ比べていた。
イディカを食べる時にうん、うんと頷いていたので、ラースとは違いがあるものの、イディカはイディカの魅力があると改めて確信していそうだ。
ティカさんは……一応従者だからカルド殿下の後ろで控えているけれど「いいなー、俺も食いたいっす!」と言わんばかりの物欲しそうな顔で食卓を見ていた。
ティカさん、後で食べられるように確保してあるはずだから我慢して⁉︎
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私の合図でハーフサイズのチャーハンが運ばれてきた。
「おいおい、これだけか? ちっと量が少なくね?」
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黒銀や真白が珍しくおとなしくしてるんだから、行儀よくして! もう!
とはいえ、お父様を始めお兄様やレイモンド王太子殿下も同じように感じていたようで、それぞれが言い淀んでいたことをレオン様が迷わず指摘したので少し焦っているみたい。
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一応、食いしん坊揃いなのは承知の上なので、現在調理場では急ピッチで追加のごはんが炊かれているはず。
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料理人たちもだけど、給仕の皆にも苦労をかけるねぇ……すまぬ!
他国や自国の王族や聖獣がこの食堂内にわんさかいるんだもんね……気も休まらないだろう。
お父様に特別ボーナスの支給をお願いしなければ……いやここは、私のポケットマネーから出すべき……?
「ほう、これは美味いな。ラースのチャーハンは食べたことがあるが、それとは食感からして違う」
お父様はイディカのチャーハンが気に入ったようで、最初の一口をじっくり味わった後はパクパクとスプーンを持つ手が止まらない様子だった。
「ええ、パラパラとした食感がラースとは違いチャーハンと合っているようです」
お兄様も気に入ったみたい。レイモンド王太子殿下もあっという間に平らげていた。
「そうだな。それに、イディカ独特の香りが不思議と合ってる」
人によってはクセと感じるイディカ独特の香りもいい感じに受け入れられているみたいね。
黒銀と真白は……とっくの昔に食べ終えて次を出すよう要求してる……二人とも、おとなしくしてたけどお腹すいてたんだね……
ドリスタン王国勢の反応を見て、カルド殿下とティカさんは「これは必ずいける!」と自信を持ったようで視線を合わせて頷いていた。
よしよし、ひとまずチャーハンが及第点なのは確実だね。
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