転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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何考えてるんですか⁉︎

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求婚って……何考えてるんですか、カルド殿下⁉︎
どう見てもちびっ子でしかない私に、求婚とかありえないでしょ⁉︎

……いや、この世界ではありえるんだった。
何なら、前世でも生まれた時から結婚相手が決まってたりとかそういうのはあったよね……

政略結婚とか、物語みたいで縁のない話だと思っていたけれど、ここでは普通なことで我が家が普通じゃないだけだった。

お父様が国王陛下に反発(?)していなければ、レイモンド王太子殿下と婚約して王族との結婚なんて未来もありえたわけで。

いやいや……無理でしょ。
私が王太子妃とか、ないない。
その点ではお父様に感謝しかない。

お父様が陛下の旧友で、多少のわがままが許される関係だからできたことだけどね。

前世の記憶が戻る前は引きこもり生活に飽き飽きしていて、社交界に憧れていたっけね……

今ではその記憶も薄ぼんやりしていて、社交は面倒かつ極力関わりたくないなんて思っている。

そう言うわけにいかないのはわかってるし、その時がきたら頑張りますよ。最低限のことはね。

私が魔力量過多で魔力暴走を起こす危険があるからと領地に引きこもっていなければ、王太子妃候補として頑張っていたのかもしれないなあ……その時に前世の記憶が戻っていたら、色々混乱して大変だっただろうから引きこもり生活してて助かったわ。うん。

前世の記憶が戻って魔力量過多の症状が治ってから再び婚約の打診があったそうだけど、お父様が突っぱね続けていたらしいし、学園に入学時に黒銀くろがねたちが釘を指してくれたから、今では静かなものだ。

まあ、聖獣契約者なのがバレているから王族に囲い込みたいものの、国を守護するレオン様と黒銀くろがねたちとの相性次第では国家転覆もののバトルに発展しかねないから静観してるというのが正しいのかも。

私がレイモンド王太子殿下と結婚したいと思えばすぐさま婚約が成立するんだろうけど、私みたいなのが婚約者じゃあレイモンド王太子殿下に申し訳ないから、他の候補から選んでいただきたい。

例えばアリシア様とか。
社交界が苦手な私なんかより余程有用な人材だと思う。

カルド殿下が求婚したのは、私がサモナール国に有用な食の知識があるから連れ帰りたいと思ってるだけだよね。うん。
あー、びっくりした。
求婚とか、前世でも体験したことがない喪女だったからね……

求婚された驚きであれこれ考えてる間に、お父様たちで話が進んでいた。

「……カルド殿下、お戯れはほどほどにしていただきたい」
「戯れとは心外だな。サモナールの救国の乙女を我が国に招き入れたいと願うのは自然な流れでは?」

眉間のシワどころかこめかみに青筋を浮かべながらも、どうにか笑みを作ろうと頑張るお父様に、カルド殿下は肩をすくめながら訳のわからない言葉を返した。

「救国の乙女? どういうことだ?」
レイモンド王太子殿下が聞き捨てならないとばかりに割り込んできた。

「クリステア嬢は貴国のラースのように、我が国で収穫しているイディカを飼料から食用に耐えうる食材として……いや、それ以上に価値を引き上げてくれたのだ。救国の乙女以外の何者でもあるまい」
キリッとした顔で何を言ってるんですかね、カルド殿下は。
その後ろでティカさんもうんうんと頷いてるし。

「クリステア嬢……他国の王子の胃までつかんだのか?」
「はい?」
「いや、何でもない。イディカ……確か、ラースに似たような穀物だったか。そうか、あれもラースのように美味く食べられるようにしたのか」
「はい。ラースとはまた違う食感ですが、調理法次第で美味しくいただけるのが検証の結果わかりました」
「……そうか」

え、何?
レイモンド王太子殿下だけじゃなく、お父様やお兄様まで「あー……」って呆れたような、「お前、またやらかしたな?」みたいな顔してこっち見てるんですが。

美味しいものが作れるのがわかったんだし、いいことじゃん?
救国の乙女なんてオーバー過ぎるけど。
それくらい嬉しかったってことだよね。

美味しいものが食べられるって大事だよ?
モチベアップにも繋がるんだし。
サモナールの国民の士気が高まって、イディカや香辛料の収穫量が上がるのとによってドリスタン王国にお求めやすい価格で卸してもらえたら私のモチベもアップしてWin-Winですよ?
救国とか求婚より、私はそっちを希望します。はい。

そのようなことを皆に説明したら、その場にいた皆からものすごく残念な子を見るような顔をされた。解せぬ。

「ゴホン、此度は急なことでしたから我が館に滞在いただきましたが、レイモンド王太子殿下もいらっしゃったらことですし、王宮へお移りいただきますぞ」
「む……できればこのまま謁見の日までここに滞在させてもらいたいのだが」

お父様が気を取り直してカルド殿下に告げると即座に滞在継続を希望された。
いや国賓なんだから王宮へ移動してください。

「……クリステアは明日には学園に戻りますので、これ以上新たなイディカ料理の開発にお付き合いすることは叶いませんが?」
「……そうなのか。ではしかたない、明日には移動するとしよう」

ぐるんっ! と大きな手のひら返しで私がズコーッと脳内でずっこけてしまったのはいうまでもない。

「……左様ですか。レイモンド王太子殿下、ご足労いただいたのに申し訳ございませんが、明日私が王宮へと送り届けますので、陛下にはそのようにお伝えくださいますか?」
「あ、ああ。わかった」

お父様の背後からズゴゴゴゴ……と効果音が聞こえそうなほどの負のオーラが見えたのは目の錯覚……だと思いたい。

そのような空気を知ってか知らずか、昼食の用意ができたと知らせが入ったので、レイモンド王太子殿下も交えてのイディカ料理試食会をすることになったのだった。

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