転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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ぎゃー! なんてことを!

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「ええと、それでは次のメニューに取り掛かろうと思います」
「おう!」
「よろしくっす!」

二人の期待のこもった視線から目を逸らし、用意させておいた材料を確認する。
よしよし、全部揃っているわね。

「それでは、今度は炊いたイディカに炒めた具材をかけて食べる料理になります。料理長、お願い」
「はっ」
料理長が私の呼びかけに答えて調理台の前に立つ。

「まず玉ねぎ・ニンニクはみじん切り、パプリカはあらみじん切りにします」
料理長は私の説明に従ってあっという間に完了。
手早いのに仕上がりはきれいなんだよね……私は何というか、食べられたらいいよね?レベルで仕上がりに雑さがありありとね……はい、気をつけます。

「次に豚肉または鶏肉を挽き肉にします」
サモナールではどちらも食べられているとのことなので、今回は鶏もも肉を使用。

牛は農地では貴重な労働力になるから負傷などで働けなくなったりしない限り食べたりしないそう。

料理長が包丁二刀流で鶏もも肉を手際よくタタタタタンッとあらみじん切りで挽き肉にしていく。
二人がそれを見て「おー……」と感心して見惚れるのが微笑ましかった。

「材料の準備ができたら、熱したフライパンに油を引き、弱火でニンニクを炒めます」
くるっとフライパンを回して満遍なく油をなじませ、炒めたニンニクから食欲をそそる香りが立ち始める。
うーん、いい匂い。

「炒めたニンニクから香りが立ってきたら挽き肉にした鶏もも肉を加えて、火加減をやや強めて表面が白っぽくなるまで炒めます」

火の通りにくい玉ねぎを先に炒めるか悩むところだけど、少し玉ねぎの食感を残したいのと、挽き肉から脂が出るのでそれを少し減らすためにお肉を先に炒める。

「肉から出た脂を少し残した状態で捨てて、玉ねぎとパプリカを加え、魚醤・豆板醤……これは我が家で調合したオリジナルのスパイスです。それから砂糖を加えてさらに炒めます」

本当はオイスターソースがあれば、よりそれっぽくなるんだけどなー。
牡蠣ソース……自作するならまず牡蠣を手に入れるためにまた港町に行かねばか……うーむ、当分先の話になりそう。

「野菜から水分が出てくるので飛ばすように炒めたら、バジルを加えて味を見つつこしょうなどで味を調えます。あればごま油を少し加えて風味を出すとよいですね」

我が家ではごま油はヤハトゥールのを仕入れているけれど、サモナールにあるかはわからないからね。

「辛味が強い方が良いのであれば、タネを抜いて小口切り……細い輪切りにした唐辛子を入れるといいと思います。タイミングとしては初めにニンニクで香り付けする時が良いですが、後から入れるのでもかまいません」

ちなみに、唐辛子を切る時はうっかりその手で目を擦ったりしちゃダメだからね!
前世でやらかして酷い目にあったクリステアちゃんとの約束だぞ!

「次にできれば別のフライパンで目玉焼きを作り、イディカの上にそれらを盛り合わせて完成です。目玉焼きの黄身は、これもできればですが半熟……固まり切らない状態にすると黄身が具材に絡んでより一層美味しいですよ」

料理長が卵専用のフライパンを出して目玉焼きを焼いていく。
ここだ! というタイミングで水をさし、蓋をして蒸し焼きに。

我が家では生卵はまだ少数だけれど、半熟卵はほとんどの使用人がクリアしているらしい。
そのお陰で外食するときに固い卵しか食べられないのが不満なのだそう。
こればっかりはなぁ……どうにか卵の衛生管理とか頑張ってもらわないことにはね。

せめて飲食店では卵にクリア魔法をかけて除菌できるようになってもらいたいのだけど、菌を排除することを説明するのはなかなか難しいのよね。
アデリア学園の学食で騎士科の生徒たちが生卵の魅力を知ってくれたから、そこからうまいこと普及されることを祈るとしよう……

おっと、目玉焼きもできたわね。
私はそのタイミングに合わせて炊き立てイディカと炒めた鶏肉を皿に盛り、料理長に渡すと、流れるような所作で目玉焼きがその上にのせられた。

「はい、これでガパオライスの完成です!」
「が、がぱお、らいす?」
そう、ジャスミンライスといえばガパオライス!ってくらい好きなメニューだ。

ナシゴレンと双璧なくらい好きなメニューだけど、材料はよく似ているので違いといえば乱暴な例えかもだけど、具材を炒めてのせるのがガパオ、ご飯ごと具材を炒めたチャーハンがナシゴレンって感じ。
雑な説明で申し訳ない。

さっきチャーハンを作ったので、ナシゴレンはガパオと同じ材料で炒めたら先程のチャーハンとは違う味わいで美味しいですよとだけ説明してこれも少しずつ取り分けて試食タイム。

「カルド殿下とティカさんは卵の黄身部分を多めにどうぞ」
多めに、というか黄身の部分の大半を二人用の小皿に取り分けた。

「えっ……こ、この卵、生焼けじゃないか⁉︎ こんなものを食ったら腹を下さないか⁉︎」
おっと、テンプレのような拒否反応。
まあ、卵の黄身がどろっと流れ出たらそう誤解してもしかたないよね。

「え、殿下は朝メシでおむれつってやつ食わなかったんっすか? あのプルプルしたやつ」
ティカさんが不思議そうに聞いた。

「いや、食ったが……あれは柔らかかったが全体に火が通っていたろう?」
「これも、火が通ってるっぽいっすよ。それに、クリステア嬢が俺らに危ないもんとか変なもん食わすわけないっしょ。ね?」
ティカさんはカルド殿下の疑問に能天気に答え、私に同意を迫った。

「え? あ、あー、はい。そうですわね?」
「……本当に、か?」
私が一瞬くちごもったのをカルド殿下が怪訝そうに見る。

いや、私は変なものとか作ったり出したりしたつもりはないんだけど、ほら、悪食令嬢って不名誉な二つ名を持ってた時期があってですね……ごにょごにょ。

へらっと笑って誤魔化していると、料理長がずいっと前へ出た。
「ご安心ください。クリステア様は我が国の食に革命を起こした、いわば美食の伝道師……国の至宝です。クリステア様に出会えたことはカルド殿下にとってこの上ない僥倖であったと言っても過言ではございませんよ」
料理長がキリッとした表情で言い放つ。
その後ろで料理人たちがうんうんと頷いている。

ぎゃーっ⁉︎ 何てこと言うの⁉︎
カルド殿下たちが「そ、そうか……それはありがたい」とか言いながら引いてるじゃないのおぉ!
カルド殿下から「あれは狂信者の目だった……」と後で言われたよ……怖いよ、うちの料理人たち……!

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