上 下
362 / 376
連載

教えてくださいな!

しおりを挟む
夕食後、再び応接室に移動した私たちはサモナール国のお米らしきイディカについて話を聞くことにした。

「カルド殿下、イディカについてわかる範囲でいいので教えていただけますか?」
本当は現物があれば話が早いんだけど。

さすがに家畜の飼料を持ち出してはしないだろうから、とりあえず私が知っているタイ米的なものかどうか聞き取り調査だ。

「うむ。栽培はラースと大して変わらんと伝え聞いている。収穫は年二回だな。ゆえに家畜の飼料には事欠かぬどころか貧しいものは余剰分を粉にして食べている状態だ」

なるほど、二期作ね。
私は調理場から精米前の玄米と生米を持って来させ、小皿に盛って並べた。

「こちらは購入した時のままのものと、食べやすくするために加工したラースです。イディカの特徴やラースとの違いで気づいたことを教えていただいてもよろしいでしょうか」

私が尋ねると、カルド殿下は興味深そうにそれぞれの小皿を手に取り、まじまじと見つめたり、匂いを嗅いだりした。

「ああ、そうだな。ええと……まず、形が違う。このラースはやや丸いが、イディカはもっと細長い。この殻を剥いたような状態を見たことはないが、明らかに違うとわかる」
ふむふむ。やはりタイ米的な長粒種で間違いないわね。

「それから、香りだ。このラースと違い、香り高い。調理前からこれほどに違いがあるなら、ラースと同じように食べるのは難しいだろうか……」
カルド殿下はラースとイディカが似ているようで明らかに別物だと思ったようで、目に見えてしょんぼりしてしまった。

もしかしたらいけるかも、という一縷の望みが絶たれたかのようなしょんぼり具合に、切実さを感じた。

これは何がなんでも美味しく食べられる方法を見つけないと。
話を聞く限りではジャスミン米とかそういうのに近い品種だと思うからいけるはず。

「あの、カルド殿下のおっしゃるイディカが私の想像しているものと同じであれば、ラースとは違う方法で食べやすくできると思います。……多分ですけど」

「! 本当か⁉︎ それは、その方法は⁉︎ ぜひ教えてほしい!」
カルド殿下がバッ!と顔を上げ、私ににじり寄りかけたものの、私の背後に立っていた黒銀くろがね真白ましろの威圧を受けて「グッ!」と言って固まってしまった。
ティカさんは「ひえ……っ」と声を上げて身動きも取れなかった。護衛とは……?

黒銀くろがね真白ましろ、落ち着いて。カルド殿下、私の従者がもうしわけございませんでしたわ。それで、イディカの調理方法ですけれど、現物があれば実際に調理して検証できるのですけれど、現状では想像の範疇で適した調理方法を記してお渡しすることしかできません」

物がないことにはいくら前世の知識があってもできることに限りがあるからね。

「現物……イディカなら持ち込んだものがある! それで試すことは可能か⁉︎」
えっ⁉︎ あるの?

「ここ数年でラースが品薄になったと聞いて、イディカも飼料として取引品目に加えられないかと思い持ってきたものがある。ラースと違うものだと家畜が食べないかもしれないという理由で断られたが……」

悔しそうにカルド殿下が言うのを、ティカさんが肩をポンポンと叩いて励ましている。
乳兄弟だからか、主従というよりも気安い関係のようだ。

「現物があるのでしたら、そちらをお分けいただけますか? いくつか調理方法を試してみたいのですが……」

「今までの会話だけでいくつか調理方法を思いついたと⁉︎ ああ、無論だ! 今回持ち込んだ分は全て進呈する! だから……!」

頼む、とカルド殿下に頭を下げられてしまったので、私は慌てて頭を上げるよう頼んだのだった。

そんなわけで、イディカの炊き方を検証することになったのだけど、現物は商隊が管理していたため、明日ティカさんを連れてイディカを引き取りに行ってから、ということで今日のところはお開きになった。

ちなみにレオン様は事の成り行きをニヤニヤ笑いながら見守るだけで「明日また来るわ」と言って城に帰った。
……明日のレオン様の分の料理は用意しなくてもいいかな⁉︎

カルド殿下を貴賓室に案内し、私たちはそれぞれの私室に戻っ……「クリステア、詳しく話を聞こうか」……れなかったあああぁ!

お父様、お母様、お兄様のアルカイックスマイルに囲まれた私は、どさくさに紛れて逃げることは叶わないことを悟り、おとなしく執務室に連行されるしかなかったのだった……

「まあ、なんだ。今回は私たちも不用意に事を進めたのは悪かった」
執務室の応接スペースに座るなり、お父様がきまり悪そうに言った。

ああ、カカオのことね。
大人たちで盛り上がってたもんね。ははは。

「しかし、カルド殿下に呼び出された際に私に相談しなかったのは其方の落ち度だということは理解しているな?」
「う、はい……」
黒銀くろがね様や真白ましろ様が付いているとはいえ、軽はずみな行動は慎みなさい」
「はい……」

こればかりはお父様のおっしゃる通り。
お父様に一言伝えて、密かに護衛を増やしていただく事だってできたからね。

でも今回は相手が王族だったから、大捕物にでもなっていたら国際問題に発展していたかもしれないってことで不問となった。

「此度はシンが其方を呼び出したそうだが、詳しく聞いたところ荷物持ちとして同行していた使用人を半ば人質として取られていたようで、それについては改めてカルド殿下に苦情を申し立てるつもりだ。まあ、今後の取引が優位に進むのであればその限りではないが」

お父様はそう言ってニヤリと笑った。
なんて悪い笑みだ……!
どっちにしてもカルド殿下の自業自得とはいえ、可哀想な結果になりそう。気の毒に。

「説教はしようと思えばいくらでも材料はあるが、ここまでとして……其方、本当にイディカとやらをなんとかできるのか?」
お父様が不安そうに聞いてきた。

「ええ、まあ……学園でラースのことを調べた際に、イディカのようなものもあるという記載を見たような覚えがございまして。それだったらこんな調理方法ではどうだろうかなどと考えていたのです」
嘘です。ごめんなさい。

「そうか……其方の食に関しての情熱は計り知れんな」
「はは……それほどでもございませんわ」
お父様たちが呆れたように私を見るので、そっと目を逸らす私なのだった。

「まあよい。カルド殿下の滞在についてはレオン様が陛下へ内密に伝えてくださるそうなので、明日以降王宮へ移っていただくかこのまま我が家に滞在いただくか決まるだろう。それまで其方は学園に戻らずここに留まるように」
「えっ?」

なんで? 明日イディカの炊き方を伝授したらカルド殿下はとっとと……もとい、速やかに王宮へ移動願って、私はお役御免でいいじゃないの。

「料理長はある程度其方から香辛料について指導を受けたがまだ不安があるそうだ。其方が残っていれば心強いとな。学園長には王宮から依頼を受けたためしばらく休むと連絡しておく。よいな?」
「は……はいぃ……」

お父様やお母様の圧を受け、ヘビに睨まれたカエルの如く冷や汗たらたらで返事をした私なのだった。

お兄様は「かわいそうだけど、しかたないね……」とばかりに同情の目を向けながら曖昧に笑った。あうぅ……

でも、カルド殿下と私がずっと一緒にというのは外聞が悪いかもしれないということで、お兄様も一緒に残ってくださるって。
よかったー! ちょっとだけ安心した!

あ……マリエルちゃんと一緒に学園に戻る予定だったわ……
うーん、セイに連絡してマリエルちゃんと一緒に戻ってもらうようお願いしなきゃ。

明日に備えて解放された私は、セイとマリエルちゃん宛に手紙を書くべく自室へ急ぐのだった。

---------------------------
台風の被害に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。

土砂災害などまだまだ油断は禁物ですので、いざという時に備えてお過ごしくださいませ。

いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております!
しおりを挟む
感想 3,336

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。