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サモナール国の食事情
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「美味っ! これマジで美味いっすよ殿下!」
ティカさん、さっきまでの胡散臭そうに見ていたカレーを掻っ込み始めた。
飲み物かと思うくらいのスピードでカレーが皿から消えていく。はやっ!
「ティカ、お前なぁ……」
カルド殿下は呆れたようにティカさんを見たが、当のティカさんはあっという間に平らげて「あの……おかわりってお願いできます?」などと給仕に頼んでいた。
「はあ……まったく」
カルド殿下はため息を吐き、カレーのビジュアルに怯みつつも私たちの食べ方を真似てルーとご飯を一緒に掬い上げ、覚悟を決めたようにパクっといった。
「……っ! う、美味い……」
意外だと言わんばかりの表情で口元を手で覆い、カレーを凝視している。
え? そんなに意外?
ビジュアルが影響してるのかもしれないけれど、ひと口食べたらそんなの払拭されると思うのだけど?
「我が領地で作るカリーヌと基本の香辛料は同じのようだが、この独特のとろみやほのかに感じる甘み。辛いだけじゃなく複雑に絡み合い、全く別物の料理に仕上がっている……」
お? カルド殿下もお父様みたいな食レポ系キャラだった?
そして、どうやらサモナール国にはカリーヌなる料理がある模様。とろみがないってことはインドカレーっぽい少しサラッとしたルーなのかしら。
「それに、この穀物がこのもったりしたソースによく合っている。しかし、このように真っ白で弾力のある穀物などあっただろうか?」
カルド殿下がスプーンでお米を掬い上げてまじまじと見つめる。
おーっとぉ? もしかして、サモナール国もお米……ラースは家畜の飼料とかそういう……?
前世でもインドカレーに使うお米はインディカ米という長粒種で、香り高いパラっとした品種だから、ラースのような日本米に近いものとは別物に感じるかもしれない。
それに、ナンやチャパティでルーを掬うようにして食べたりする場合もあるから、もっちりしたお米ともったりしたカレールーとの組み合わせのこれは同じものだとは思えないだろう。
ナンとチャパティの違いはというと、ナンが小麦を精白した粉を使って発酵させ、タンドールと呼ばれる壺釜型のオーブンで平たく焼いたパンのことで、チャパティーは全粒小麦粉を使って発酵させず、主に鉄板で円型に平たく焼いたパンだ。
ちなみにタンドリーチキンはスパイスとヨーグルトに漬け込んだ鶏肉をタンドールで余分な脂を落としながら焼き上げて作るからそう呼ばれているもの。
サモナール国がごはんとナンまたはチャパティのどちらで食べているかはわからないけれど、元は飼料として流通していたラースをもてなしの料理として出したのはまずかっただろうか。
お父様の方を恐る恐る見ると、同じことを考えていたようで、特に焦った様子は見せないものの、眉間の皺がぐっと深くなった気がする。やばい……!
「ああ、こりゃラースを煮たもんだな。主に家畜の飼料として流通してたんだが、数年前に商業ギルドに登録されたレシピのおかげで美味く食べられるようになったんだ」
レオン様が給仕に二回目のおかわりを頼みながら、ごはんの正体がラースだということを
バラしてしまった。
ちょおおおおおぉい⁉︎ レオン様ァ⁉︎
そんなあっさりネタバラシして「何ぃ⁉︎ 王族たるこの俺に家畜の餌を食べさせたというのか⁉︎ 不敬だ!」……なんて激昂したらどうするの⁉︎
「何⁉︎ 家畜の飼料だと? これが⁉︎」
カルド殿下はレオン様の説明を聞いて、料理に集中していた視線をバッと勢いよくこちらに向けた。
ほらぁ! やばいってば!
「カ、カルド殿下。以前は飼料以外の使い道が知られていなかっただけで、ヤハトゥールでは主食として食べられていたものですの。決して不敬を働く気などござ……」
「ラースに似たイディカという飼料なら我が国にもある! ラースほど丸い粒ではないが、このように食べられるようにするのは可能だろうか⁉︎」
「……はい?」
私が焦りながら説明し終わる前に、カルド殿下が畳み掛けるように聞いてきた。
怒られると思って焦っていた私は思いもよらぬ質問だったため、あっけに取られてしまった。
「……失礼した。我が国では小麦の収穫量が低く、現状では輸入に頼っているため、小麦を無駄なくそのまま挽いて使っている。故に白い小麦粉は贅沢品となる。貧しい民は先程言った飼料を粉にしてかさ増しし、腹を満たしている。その飼料は匂いがきついからあまり美味いものではないが……香辛料で誤魔化せるからそれだけが救いか」
カルド殿下は国民の暮らしぶりを思い出しているようで、辛そうに顔を顰めた。
「ラースがこれだけ美味く食べられるのなら、イディカも同じように料理すれば今よりましなものが食べられるのではないかと思ったのだが……どうだろうか?」
いや、どうだろうかと聞かれましても。
実際にモノを見てみないことにはわからないけれど、多分サモナール国で栽培されているのはインディカ米、いわゆるタイ米をはじめとした長粒種のお米だろう。
日本米のジャポニカ米は粘りが強くてもっちりした食感が特徴だけど、インディカ米は粘りが少ないので、ジャポニカ米と同じように炊いても食感は同じようにはならない。
そもそも、日本米とタイ米だと炊き方からして違うのだから、同じように炊いては台無しだ。
それに、匂いが強いようなことを言ってたから、もしかしてジャスミン米に近いものなのかもしれないわね。
ジャスミン米は「香り米」と呼ばれ、タイ米の中でも最高級とよばれるものだからサモナール国の香辛料と相性がいいはず。
「カルド殿下、イディカについて詳しく教えていただけますか? ラースとは違うやり方で調理すれば美味しく食べられるようになるかもしれません」
「……! ああ!」
---------------------------
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ティカさん、さっきまでの胡散臭そうに見ていたカレーを掻っ込み始めた。
飲み物かと思うくらいのスピードでカレーが皿から消えていく。はやっ!
「ティカ、お前なぁ……」
カルド殿下は呆れたようにティカさんを見たが、当のティカさんはあっという間に平らげて「あの……おかわりってお願いできます?」などと給仕に頼んでいた。
「はあ……まったく」
カルド殿下はため息を吐き、カレーのビジュアルに怯みつつも私たちの食べ方を真似てルーとご飯を一緒に掬い上げ、覚悟を決めたようにパクっといった。
「……っ! う、美味い……」
意外だと言わんばかりの表情で口元を手で覆い、カレーを凝視している。
え? そんなに意外?
ビジュアルが影響してるのかもしれないけれど、ひと口食べたらそんなの払拭されると思うのだけど?
「我が領地で作るカリーヌと基本の香辛料は同じのようだが、この独特のとろみやほのかに感じる甘み。辛いだけじゃなく複雑に絡み合い、全く別物の料理に仕上がっている……」
お? カルド殿下もお父様みたいな食レポ系キャラだった?
そして、どうやらサモナール国にはカリーヌなる料理がある模様。とろみがないってことはインドカレーっぽい少しサラッとしたルーなのかしら。
「それに、この穀物がこのもったりしたソースによく合っている。しかし、このように真っ白で弾力のある穀物などあっただろうか?」
カルド殿下がスプーンでお米を掬い上げてまじまじと見つめる。
おーっとぉ? もしかして、サモナール国もお米……ラースは家畜の飼料とかそういう……?
前世でもインドカレーに使うお米はインディカ米という長粒種で、香り高いパラっとした品種だから、ラースのような日本米に近いものとは別物に感じるかもしれない。
それに、ナンやチャパティでルーを掬うようにして食べたりする場合もあるから、もっちりしたお米ともったりしたカレールーとの組み合わせのこれは同じものだとは思えないだろう。
ナンとチャパティの違いはというと、ナンが小麦を精白した粉を使って発酵させ、タンドールと呼ばれる壺釜型のオーブンで平たく焼いたパンのことで、チャパティーは全粒小麦粉を使って発酵させず、主に鉄板で円型に平たく焼いたパンだ。
ちなみにタンドリーチキンはスパイスとヨーグルトに漬け込んだ鶏肉をタンドールで余分な脂を落としながら焼き上げて作るからそう呼ばれているもの。
サモナール国がごはんとナンまたはチャパティのどちらで食べているかはわからないけれど、元は飼料として流通していたラースをもてなしの料理として出したのはまずかっただろうか。
お父様の方を恐る恐る見ると、同じことを考えていたようで、特に焦った様子は見せないものの、眉間の皺がぐっと深くなった気がする。やばい……!
「ああ、こりゃラースを煮たもんだな。主に家畜の飼料として流通してたんだが、数年前に商業ギルドに登録されたレシピのおかげで美味く食べられるようになったんだ」
レオン様が給仕に二回目のおかわりを頼みながら、ごはんの正体がラースだということを
バラしてしまった。
ちょおおおおおぉい⁉︎ レオン様ァ⁉︎
そんなあっさりネタバラシして「何ぃ⁉︎ 王族たるこの俺に家畜の餌を食べさせたというのか⁉︎ 不敬だ!」……なんて激昂したらどうするの⁉︎
「何⁉︎ 家畜の飼料だと? これが⁉︎」
カルド殿下はレオン様の説明を聞いて、料理に集中していた視線をバッと勢いよくこちらに向けた。
ほらぁ! やばいってば!
「カ、カルド殿下。以前は飼料以外の使い道が知られていなかっただけで、ヤハトゥールでは主食として食べられていたものですの。決して不敬を働く気などござ……」
「ラースに似たイディカという飼料なら我が国にもある! ラースほど丸い粒ではないが、このように食べられるようにするのは可能だろうか⁉︎」
「……はい?」
私が焦りながら説明し終わる前に、カルド殿下が畳み掛けるように聞いてきた。
怒られると思って焦っていた私は思いもよらぬ質問だったため、あっけに取られてしまった。
「……失礼した。我が国では小麦の収穫量が低く、現状では輸入に頼っているため、小麦を無駄なくそのまま挽いて使っている。故に白い小麦粉は贅沢品となる。貧しい民は先程言った飼料を粉にしてかさ増しし、腹を満たしている。その飼料は匂いがきついからあまり美味いものではないが……香辛料で誤魔化せるからそれだけが救いか」
カルド殿下は国民の暮らしぶりを思い出しているようで、辛そうに顔を顰めた。
「ラースがこれだけ美味く食べられるのなら、イディカも同じように料理すれば今よりましなものが食べられるのではないかと思ったのだが……どうだろうか?」
いや、どうだろうかと聞かれましても。
実際にモノを見てみないことにはわからないけれど、多分サモナール国で栽培されているのはインディカ米、いわゆるタイ米をはじめとした長粒種のお米だろう。
日本米のジャポニカ米は粘りが強くてもっちりした食感が特徴だけど、インディカ米は粘りが少ないので、ジャポニカ米と同じように炊いても食感は同じようにはならない。
そもそも、日本米とタイ米だと炊き方からして違うのだから、同じように炊いては台無しだ。
それに、匂いが強いようなことを言ってたから、もしかしてジャスミン米に近いものなのかもしれないわね。
ジャスミン米は「香り米」と呼ばれ、タイ米の中でも最高級とよばれるものだからサモナール国の香辛料と相性がいいはず。
「カルド殿下、イディカについて詳しく教えていただけますか? ラースとは違うやり方で調理すれば美味しく食べられるようになるかもしれません」
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