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やっぱりぃ!

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……気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
あれから停留場まで戻り馬車に乗り込んだものの、特に会話もないまま屋敷に向かっている。

唯一の会話は、馬車までたどり着いた時の「……これが、公爵家の馬車だと?」と漏らした王子の言葉に「……お忍びでしたので」と答えたことくらい?

さすがにエリスフィード公爵家とわかるような、豪華絢爛・紋章入りの馬車で派手に乗り付けるようなことはしませんってば。

地味に目立たないように生活する、が信条です。
……実行できているかといえば自信はないけど。

王子はこの後護衛のお兄さんに「殿下、これ以上余計なこと言っちゃだめっスよ!」と注意されていたからか、ずっと黙ったままだ。

チラリと向かいに座る王子を見ると、腕を組んで外の景色を見つめている。
隣に座る護衛の人も窓の外を興味深そうに眺めていた。

「……美しい街並みだな」
貴族街に入り奥に進むにつれ屋敷も敷地も大きく広く豪奢になっていく。
それらを見つめながら、サモナール国の王子はポツリと呟いた。

「え? ええ、そうですわね。貴族街ではどの家も美しく調えられておりますから」
外観が貧相だと侮られてしまうので、王宮に向かって奥に行けば行くほど庭園も屋敷も見事なものになっていく。
私も初めて王都に来た時、同じように思ったわね。

「サモナールで美しいのは、宮殿だけだ。それも、ハリボテだがな」
「え……?」
王子が窓の外を見たまま、苦々しいような声で吐き捨てるように言ったので思わず聞き返したものの、王子はそのまま黙り込んでしまった。

「あわわ、申し訳ないっす! あ、いや申し訳ございませんです! 今のは聞かなかったことにしていただけたら……!」
護衛のお兄さんが慌てて取り繕おうとするので、苦笑いを返して了承した。

うーん、なんというか、この王子様って王族らしくなくない?
護衛の人の言動も何だかそれっぽくないし。

殿下と呼ばれていたけれど、私の勘違いとかだったらどうしよう。
もしそうなら、お父様に叱られる要素が増えてしまう! ひえ……

その時はレオン様に責任持ってこの二人を制圧してもらおうそうしよう!
私だって拘束魔法とか使えるんだから、いざとなったら自分でなんとかしよう。

そうこうするうちに馬車はエリスフィード公爵家の門の前まで近づき、門番が馬車を認めるとすぐに開門したため、馬車は止まることなくするすると敷地内に入っていった。

「ひえ、ハッタリとかじゃなくこの子まじでエリスフィード公爵家のご令嬢だったっすよ⁉︎ やばいですよ、殿下ぁ……」
「情けない声を出すな、ティカ。ここまできたんなら腹を括れ。なんなら好機だと頭を切り替えろ」

ティカと呼ばれた護衛がソワソワした様子で泣きつくと、王子は逆に落ち着いた様子で威厳のある態度で私に向き直った。

「エリスフィード公爵令嬢の……クリステア嬢だったか。名乗り遅れたが俺、いや私はサモナール国第二王子、カルド・オル・サモナールだ。屋台での数々の非礼を詫びる。すまなかった」
そう言って王子……カルド殿下は頭を下げた。

やっぱり本物の王子様だった?
……て、えええええ⁉︎
王族が簡単に他国の貴族に頭下げちゃだめでしょ⁉︎
護衛のティカさんも「殿下ぁ⁉︎」って、某叫んでる絵画みたいになってるよ⁉︎

「え、いえあの、頭を上げてくださいませ! 私こそ知らなかったとはいえ、失礼な態度をとりましたもの」
おあいこですわ、と言うには立場が違いすぎるのでどうしたものかと悩んでいると、カルド殿下が顔を上げて「じゃあ痛み分けってことでひとつ」と言ってニヤッと笑った。

その笑い方はさっきまでの悪そうな笑みと違っていたずらっ子のような憎めない笑みだったので思わず「かしこまりました」と笑って返してしまった。

「それで、貴殿は何者なのだ? 貴族ではないと言っていたが、クリステア嬢と懇意であり、多少の無理が効くようだったが……ドリスタンの王族に貴殿のような方はいなかったはずだ」
カルド殿下はレオン様に向かって問いかけた。

公爵令嬢に指図できる立場なら王族かもしれないけれど、レオン様のような年頃の王族はいなかった、じゃあ何者だ、となるのはわかる。
でもさすがにこの国の守護聖獣だとは思いませんよねー!

「俺か? 俺は……と、残念。時間切れだ」
レオン様が面白そうに答えようとしたその時、馬車が車寄せに到着したためカタリと止まった。

外からドアが開けられたのでそちらを見ると、玄関にお父様とお母様、そしてお兄様が並んで待っており、その両端には使用人たちがずらりと並んでいた。

うわあ、まさにVIPの出迎えじゃーん……!
そうよね、国賓だもんね、超VIPだよね!
何ならレオン様もいるからね!

両親ズ&お兄様のよそ行きの笑顔に「クリステア、後でしっかり説明してもらうから」と書いてあるように見えるぅ……

「突然の訪問ですまない。サモナール国第二王子、カルド・オル・サモナールである。面を上げよ」
馬車を降りた瞬間、お父様をはじめ皆がザッと頭を下げた。
使用人たちのピシッと揃った礼に我が家の使用人の練度の高さを垣間見た。すごっ!

「カルド殿下。ようこそおいでくださいました。むさ苦しいところではございますが歓迎いたします」
お父様がそう言うと、カルド殿下は「うむ」と鷹揚に頷きお父様についていった。

その所作は王族然としていて、さっきとはまるで別人のようだ。
お父様たちが屋敷に入り、使用人たちがザッとそれぞれの持ち場に急ぐのを眺めていると、お兄様がススッと近寄って隣に並んだ。

「テア、僕たちも行くよ。……後でちゃんと説明してもらうからね?」
「うぅ……はいぃ」
ほらぁ! やっぱりぃ……!

ドナドナされる子牛のような心細さで、お兄様に連行エスコートされつつお父様たちの跡を追うのだった。

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