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何が目的?

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「香辛料を売っていた屋台に同行してほしいってこと? 何かあったの?」
私が問いただすと、シンは困った顔で頭を掻いた。

「それが……料理長に言われてお嬢……様が香辛料を買ったっていう屋台まで行ったんだ……あ、です。で、香辛料を買おうとしたらそこの店員にお嬢様を連れてこいって言われて」
「え?」

なんで⁇
シンが香辛料を買うのになんで私を連れてこいってことになるの?
どこにもつながりがないじゃないの。

「シンが香辛料を買うのにどうして私が引き合いに出されるの? 私からの紹介って言ったの?」
「言わねえよそんなこと。あ、いや。言いませんです、はい」

シンがビクッとして言い直したので、何かと思い振り返ると、ミリアがにこっと笑顔で「どうかなさいましたか?」と小首を傾げた。
ミリアチェックが入ったらしい。

「ミリア、話が進まないから今はシンの発言に目を瞑っててちょうだい。シン、じゃあなぜ私を連れてこいって話になったの?」
「それが……チョコレートを作るのに材料が足りないってんで香辛料を買い足しついでに在庫がないかその店に聞いてこいって言われてお嬢から聞いてた場所に向かったんだ」

えー……さっそくカカオを仕入れに行ったんだ?
効果を検証するとはいえ、そんなにいらないでしょうに。
「そしたら、店員が『在庫はあるし売ってやってもいいが、これに用があるお前のとこのお嬢様を連れてこい。大量に香辛料を買ったお嬢様って言えばそれが誰かお前には心当たりはあるんじゃないか?』って……」

「えー? そうは言ってもこの広い王都で香辛料を大量に買ったり媚薬の材料を所持するお嬢様の一人や二人……」
「いねぇよ!」
「いらっしゃらないと思います……」
「おらんだろうな」
「くりすてあくらいじゃない?」
「ええ⁉︎」
誰も味方がいなかった!

ええまあ、いくら薬草として売ってることが多いからって、貴族のお嬢様が香辛料を大量購入とかしませんよね! 知ってた!

「でもどうして私を連れてこいなんて言ったのかしら」
「それは俺にもわかんねぇよ。お嬢に何の用だって聞いても、とにかく連れてこい、じゃなきゃ売らねえの一点張りなんだからどうにもなんねぇよ」
「うーん……」

何が目的なんだろう?
「せっかく融通してやった内緒の品だったのに入手ルートをバラしやがって! この落とし前どうつけてもらおうか? ああん?」……とかだったらどうしよう。ひえっ!

「ど、どうしよう。行かなきゃだめ……?」
「……できれば頼みたい。お館様が薬師ギルドに問い合わせてもあれだけの量を確保するどころか入手そのものが難しいって言われたらしくて、あの店で定期的に購入できるのならメイヤー商会とエリスフィード公爵家で専属契約したほうがいいかもって料理長が」

ええ……そんなに確保が難しい品だったの⁉︎
あまりにも気軽にぽんとおまけしてくれたからそこまで希少なものだなんて思わなかったんだけど⁉︎
食材の入手ルートなんていくらでも知ってそうな料理長がそこまで言うのなら相当難しいってことなのでは。

「……わかったわ。ミリア、これから出かけるから街歩きしやすい服を用意してくれるかしら?」
「クリステア様、何か裏があったらどうするんですか⁉︎ 危ないですからその屋台に行くのは反対です!」
ミリアが止めようとするけれど私は「大丈夫よ」と笑った。

「私には頼もしい護衛と侍女がいるんだもの。でしょう?」
ニッと笑って言うと、黒銀くろがね真白ましろは「ふ、無論だ」「まかせて!」と不敵に笑った。うん、頼もしい。

その後
「おれがくりすてあをまもるよ!」
「それは我の役目だ」
「おれだよ」
「我だ」
……とエンドレスになりそうだったので締まらなかったけれど。

ミリアはそんな二人を見ながらしかたないわね、とばかりに困ったような顔で微笑んだ。
「……決して一人になったりしてはぐれたりしないでくださいね。クリステア様はこういう時はいつも暴走して危なっかしいんですから」
「大丈夫よ、今回は皆でその屋台に行くだけだもの」
んもう、ミリアったら心配性なんだから。

「クリステア様の場合、それだけで終わらないから心配なんです」
「うっ!」
「あー、そうだなあ。オクパル食ってぶっ倒れたり、味噌や醤油を爆買いしたり、馬の餌のラースを料理して食ったり、冒険者ギルドで行方不明になったり色々してるもんな」
「うぐぅ……」

……はい、申し開きのしようもございません。
そうね、色々やらかしてたね……
二人が知らないやらかしだってあるものね……言わない(言えない)けど。

私は皆と絶対に無茶はしないと約束してから、ミリアに用意してもらった街歩き用のシンプルなワンピースに着替え、我が家の所有する中でも比較的簡素な馬車(例の最新式じゃないよ!)に乗り込むと、シンがあらかじめ目的地を伝えていたようでスルスルと進み始めた。

ん? 乗り心地が悪くない……だと⁉︎
もしかして、これもいつもの馬車よりしょぼいと見せかけて足回りは最新式……⁉︎
……乗り心地がいいのは良いことだ、うん。
今はそれを気にしてる場合じゃないもんね。

「それにしても、何が目的なのかしら……やっぱり、入手経路を他の人に教えたのがまずかった?」
「いや、それはねぇと思う。そりゃ初めはなんでそんなこと知ってんだ? って不審な目で見られたけどすぐにお嬢のことを思い出したみたいで、ニヤニヤしながらお嬢を連れてこなきゃ売らねぇって言ってきたんだからな」

えー……それはそれで嫌な感じなんだけど。
まさか私が本当に媚薬を使ったとは思わないだろうから、誰に媚薬の素となるカカオを渡したのか確認したいのかしら。
そうか! 新たな販路開拓の調査のため⁉︎
……なわけないか。

もやもやしながらも馬車は屋台のある商人街へと向かうのだった。

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