転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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頼み事

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〝大人の事情〟により旅人の間を追い出された私たちは、天気が良かったこともあり庭園にあるガゼボでお茶をしようということになった。

その場にいたメイドにお茶の準備を頼んで移動することに。
あ、もちろんお茶はミリアに淹れてもらうつもり。私好みのお茶を一番上手に淹れてくれるのはミリアだからね!

色鮮やかな花々が咲き誇る庭園をそぞろ歩きながらガゼボに向かう道すがら、マリエルちゃんに屋敷に戻ってからの経緯を教えた。

「え、チョコ⁉︎ この世界で作れたんですか⁉︎」
「ええまあ、私たちの知ってるものとは格段に落ちるけどそれっぽいものはできたわ」

前世のオタク、蘇(古代のチーズ)の再現やバレンタインシーズンにはカカオからチョコ作りとか、色々と再現するのに挑戦しがちだから、動画だのSNSだのを見て工程だけは知ってたのよね。
そのおかげで私もチョコっぽいものは作れたわけだけど、正直なところ極められる気がしない。
切に前世の技術がほしい……

「えー、いいなぁ……あ、でも効果がやばいんですよね? 私が食べるのは無理かなぁ」
こちらの世界ではチョコが魔力を大きく回復させたり、その結果、媚薬としての効果は有りそうだということも伝えたのでマリエルちゃんは残念そうに言った。

「マリエルさんも最近魔力量が増えたことだし、少しだけなら大丈夫だと思うけど……」
そうは言っても前世の美味しいチョコを知っているから食べてもがっかりするだけだとおもうから強くは勧められない。

「ううん、やめとく。チョコ好きだったからひとかけらじゃ治まらないなんてことになったら大変だし、妄想だけに留めておくわ」
「……妄想?」
「題材として大変捗ります」
「……そう」
マリエルちゃんの輝かんばかりの笑顔を見て、追求するのはやめておこう、とそっと目を逸らしたのだった。

「そういえばクリステアさん、試食は上手くいったの?」
緑茶で一息つきつつ、マリエルちゃんが聞いてきた。手は目の前の羊羹に伸びている。

「ええ。お父様たちには好評だったわ。基本のスパイスとそれを使った料理のレシピは料理長に託したから晩餐会では上手くやってくれるのではないかしら」

とりあえず披露したメニューの他にも作れそうなレシピは渡しておいたので料理長やシンが必要に応じて作るに違いない。
これで私の役割は終わりってことで肩の荷が降りてほっとしている。

「クリステアさんは晩餐会の日に監督として行ったりは……」
「しないしない。レシピを譲ることになってもレシピの開発者が誰なのかは公にはしない方向でお願いしたもの」

晩餐会で「この料理を作ったのは誰だァッ!」とか呼び出されたりでもしたら面倒だし。
そこんところはちゃんと王家で責任持って請け負ってもらわないとね。

さすがに成人もしてない公爵令嬢にスパイスの調合からレシピ開発まで一人でやってもらいました、だなんて王家の威信にかけても言えないだろうし。

私はスパイスを優先して融通してもらえるのならそれが一番の報酬だし、それに加えて追加報酬がいただければ尚よしですわよ。ほほほ。

「クリステアさんがレシピ提供者であることを公表しない……てことは、今後スパイス関連はうちの商会が全面的に矢面に立つことになる……?」
……ふっ、気づいてしまいましたか。

「マリエルさん……私たち、ズッ友だよね?」
「え? あ、え、ええそうですね、これからもズッ友です……よ?」
よし、言質はとった。

「大丈夫。何かあればエリスフィード家が守るから!」
「えええ……はなから巻き込む気満々でしたよね⁉︎ いや知ってたけど!」
ふはは、末永くよろしくお願いします!

「ぐぬう……でもまあいいですよ。メイヤー商会が矢面に立とうが、エリスフィード公爵家の庇護がある上に内容が内容ですから出処は明白ですからね?」
「うぐ、それは否定できない……」

確かに、いくらレシピ提供者を秘匿したところで、メイヤー商会で珍しい料理のスパイスやレシピを販売すれば、貴族であれば私やエリスフィード公爵家が一枚噛んでいるだろうことは容易に想像できるはずだ。

ショートブレッドも初めは私がレシピを提供したことは秘密にして販売を始めて、私の料理をゲテモノ扱いする敵対貴族アンチたちが称賛し虜になったところでネタバレしてギャフンと言わせたことがあるのでまたそういうだろうとわかる人にはわかるだろうし。

まあ、敵対貴族アンチたちがわざわざ私の手柄になるような情報をサモナール国に教えるわけがないだろうから大丈夫よね、うん。

それからはこれから取る単位の話だったり、マリエルちゃんの淑女教育の特訓についてスケジュールを立てたりしていると、お父様とメイヤー男爵との話し合いが終わったようでメイドが知らせにきたのでそこでガゼボでのお茶会はお開きになった。

明日学園に戻る際はマリエルちゃんを拾って行く約束をしてメイヤー商会の馬車を見送った。

今日の夕食は渡したスパイスやレシピを使って料理長たちが挑戦するそうなので、調理場には向かわなくてもいいのよね。
夕食の時間まで黒銀くろがね真白ましろのブラッシングでもしようかしら。

そう考えていると「お嬢! ……様」と声をかけられた。
「あら、シン。どうしたの?」
様がついたのは、私の後ろに控えていたミリアにジロッと睨まれたからのようだ。
「ヤベッ」とばかりに私の背後を気にしていたからバレバレだ。

ミリアはシンが「平民から取り立てられた使用人として贔屓されている」と周りからやっかまれないよう私に対する言葉遣いから何からシンに厳しく指導しているようなのよね。

それ以外では普通に仲良くしているみたいだから、シンのことを心配してのことなのだろうと思って私は口を出さないようにしている。

「ええと、お嬢……様に頼みがあって」
「頼み? 何かしら」
シンから頼み事だなんて珍しい。
あ、レシピでわからないところがあって教えてほしいとか?

「……香辛料を手に入れた屋台についてきてほしいんだ」
「え?」
あの屋台に? なんで?

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