上 下
352 / 372
連載

頼み事

しおりを挟む
〝大人の事情〟により旅人の間を追い出された私たちは、天気が良かったこともあり庭園にあるガゼボでお茶をしようということになった。

その場にいたメイドにお茶の準備を頼んで移動することに。
あ、もちろんお茶はミリアに淹れてもらうつもり。私好みのお茶を一番上手に淹れてくれるのはミリアだからね!

色鮮やかな花々が咲き誇る庭園をそぞろ歩きながらガゼボに向かう道すがら、マリエルちゃんに屋敷に戻ってからの経緯を教えた。

「え、チョコ⁉︎ この世界で作れたんですか⁉︎」
「ええまあ、私たちの知ってるものとは格段に落ちるけどそれっぽいものはできたわ」

前世のオタク、蘇(古代のチーズ)の再現やバレンタインシーズンにはカカオからチョコ作りとか、色々と再現するのに挑戦しがちだから、動画だのSNSだのを見て工程だけは知ってたのよね。
そのおかげで私もチョコっぽいものは作れたわけだけど、正直なところ極められる気がしない。
切に前世の技術がほしい……

「えー、いいなぁ……あ、でも効果がやばいんですよね? 私が食べるのは無理かなぁ」
こちらの世界ではチョコが魔力を大きく回復させたり、その結果、媚薬としての効果は有りそうだということも伝えたのでマリエルちゃんは残念そうに言った。

「マリエルさんも最近魔力量が増えたことだし、少しだけなら大丈夫だと思うけど……」
そうは言っても前世の美味しいチョコを知っているから食べてもがっかりするだけだとおもうから強くは勧められない。

「ううん、やめとく。チョコ好きだったからひとかけらじゃ治まらないなんてことになったら大変だし、妄想だけに留めておくわ」
「……妄想?」
「題材として大変捗ります」
「……そう」
マリエルちゃんの輝かんばかりの笑顔を見て、追求するのはやめておこう、とそっと目を逸らしたのだった。

「そういえばクリステアさん、試食は上手くいったの?」
緑茶で一息つきつつ、マリエルちゃんが聞いてきた。手は目の前の羊羹に伸びている。

「ええ。お父様たちには好評だったわ。基本のスパイスとそれを使った料理のレシピは料理長に託したから晩餐会では上手くやってくれるのではないかしら」

とりあえず披露したメニューの他にも作れそうなレシピは渡しておいたので料理長やシンが必要に応じて作るに違いない。
これで私の役割は終わりってことで肩の荷が降りてほっとしている。

「クリステアさんは晩餐会の日に監督として行ったりは……」
「しないしない。レシピを譲ることになってもレシピの開発者が誰なのかは公にはしない方向でお願いしたもの」

晩餐会で「この料理を作ったのは誰だァッ!」とか呼び出されたりでもしたら面倒だし。
そこんところはちゃんと王家で責任持って請け負ってもらわないとね。

さすがに成人もしてない公爵令嬢にスパイスの調合からレシピ開発まで一人でやってもらいました、だなんて王家の威信にかけても言えないだろうし。

私はスパイスを優先して融通してもらえるのならそれが一番の報酬だし、それに加えて追加報酬がいただければ尚よしですわよ。ほほほ。

「クリステアさんがレシピ提供者であることを公表しない……てことは、今後スパイス関連はうちの商会が全面的に矢面に立つことになる……?」
……ふっ、気づいてしまいましたか。

「マリエルさん……私たち、ズッ友だよね?」
「え? あ、え、ええそうですね、これからもズッ友です……よ?」
よし、言質はとった。

「大丈夫。何かあればエリスフィード家が守るから!」
「えええ……はなから巻き込む気満々でしたよね⁉︎ いや知ってたけど!」
ふはは、末永くよろしくお願いします!

「ぐぬう……でもまあいいですよ。メイヤー商会が矢面に立とうが、エリスフィード公爵家の庇護がある上に内容が内容ですから出処は明白ですからね?」
「うぐ、それは否定できない……」

確かに、いくらレシピ提供者を秘匿したところで、メイヤー商会で珍しい料理のスパイスやレシピを販売すれば、貴族であれば私やエリスフィード公爵家が一枚噛んでいるだろうことは容易に想像できるはずだ。

ショートブレッドも初めは私がレシピを提供したことは秘密にして販売を始めて、私の料理をゲテモノ扱いする敵対貴族アンチたちが称賛し虜になったところでネタバレしてギャフンと言わせたことがあるのでまたそういうだろうとわかる人にはわかるだろうし。

まあ、敵対貴族アンチたちがわざわざ私の手柄になるような情報をサモナール国に教えるわけがないだろうから大丈夫よね、うん。

それからはこれから取る単位の話だったり、マリエルちゃんの淑女教育の特訓についてスケジュールを立てたりしていると、お父様とメイヤー男爵との話し合いが終わったようでメイドが知らせにきたのでそこでガゼボでのお茶会はお開きになった。

明日学園に戻る際はマリエルちゃんを拾って行く約束をしてメイヤー商会の馬車を見送った。

今日の夕食は渡したスパイスやレシピを使って料理長たちが挑戦するそうなので、調理場には向かわなくてもいいのよね。
夕食の時間まで黒銀くろがね真白ましろのブラッシングでもしようかしら。

そう考えていると「お嬢! ……様」と声をかけられた。
「あら、シン。どうしたの?」
様がついたのは、私の後ろに控えていたミリアにジロッと睨まれたからのようだ。
「ヤベッ」とばかりに私の背後を気にしていたからバレバレだ。

ミリアはシンが「平民から取り立てられた使用人として贔屓されている」と周りからやっかまれないよう私に対する言葉遣いから何からシンに厳しく指導しているようなのよね。

それ以外では普通に仲良くしているみたいだから、シンのことを心配してのことなのだろうと思って私は口を出さないようにしている。

「ええと、お嬢……様に頼みがあって」
「頼み? 何かしら」
シンから頼み事だなんて珍しい。
あ、レシピでわからないところがあって教えてほしいとか?

「……香辛料を手に入れた屋台についてきてほしいんだ」
「え?」
あの屋台に? なんで?

---------------------------
いつもコメントandエール・いいねポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。