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本当に使えるアイテムだった……⁉︎

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夕食の後は久しぶりに自室でのんびり過ごした。

学園では食事の支度をしたり、課題を片付けたり、身の回りのことをしたらあっという間に一日が終わっている印象だものね。
まあ、帰っても料理はしてるけど。

週末は自分の研鑽のために使うべし、という学園の方針で宿題とかそういったものは出されないから、週末の過ごし方は人によって様々。

私のように王都の家に戻る人もいれば、学園内の森で薬草採取をしたり、自分の研究に精を出す人もいる。

平民や商人の子たちはアルバイトや実家の手伝いをしたりするんですって。
アルバイトか……興味あるけど、私ができるお仕事ってあるかな?

……よく考えたら、今回の試作はお父様から依頼されたお仕事だった。
私にできるお仕事はやはり、料理か……

そんなことを考えながら、今夜はゆっくり黒銀くろがね真白ましろのブラッシングをいつもより丁寧にしたのだった。

翌朝。ピザトーストをいただいているとお父様とお母様が少し遅れて食堂にやってきた。
「お父様、お母様、おはようございます。お先にいただいております」
「……いや、遅れたのは我々だから気にすることはない。それはそうとクリステア、この後執務室にくるように」
「……え? は、はい」

お父様が言葉を濁しつつ執務室に呼び出したので、戸惑いながらも了承した。
えー……私、何かやらかした?
覚えがないのだけど。

やらかした覚えはないけれど、私が思いもよらないことで叱られるなんてのはよくあることなので、とりあえず叱られる時間が最小限に抑えられるよう頑張ろう。
……何を頑張ればよいのかはわからないけれど。

今回はただただ料理の試作のためだけに戻ってきたので、別に特筆すべき点はないはずなんだけどな。
そんなことを思いながらお父様が待つ執務室の扉の前に立った。

「お父様、クリステアです」
「うむ、入りなさい」
お父様の返事を聞いてから執務室に入ると、お母様も一緒に待っていた。

……え? お母様と揃って何のお説教なの⁉︎
いや、お説教とは限らないか。
でもお茶の席ではなくわざわざ執務室に呼び出して、さらに使用人を下げさせているなんて、お説教の予感しかないのだけど⁉︎

「そこに座りなさい」
お父様たちの対面に据えられたソファに浅く腰掛け、姿勢を正した。
叱られるのであれば真摯な態度で、反省していることをわかりやすくアピールして速やかにお説教を終息させる。これ大事。

「クリステア」
来た。一体何がいけなかったのか……
「……その、だな。昨夜料理長から報告を受けたのだが」
「はい?」
おのれ、料理長。私には覚えがないやらかしをお父様にリークしたというの⁉︎

「其方、一体どこで媚薬の存在を知った?」
「……はい?」
媚薬? 媚薬って……あ!
あれか! チョコレート!
そういえば料理長が報告してくれたんだった!
疑ってごめん、料理長!

「あの、あれは昨日たまたま帰りに寄った、サモナール国の香辛料を扱う屋台で、試作と本番に使うために大量に購入した際に意中の人と飲むといいと言われて渡されたものです」
別に媚薬って渡されたわけじゃないし。

「何⁉︎ 純真無垢な我が娘に媚薬を渡すという不届き者が営む屋台など存在すら許せぬ! 直ちに店に急行して……!」
「あなた、落ち着いて」
即座に立ち上がって扉に向かおうとするお父様の袖をお母様が摘んで引き留めた。

「……む」
お母様の声を聞いて少し落ち着いたのか、お父様は渋々といった様子でソファに座り直した。
「あのね、クリステア。幼い貴女にはまだ早いと思って閨教育はしていないのだけれど、貴女はどこであれがそういうもの媚薬だと知ったの?」
「……へ?」

ねやきょういく? ……て、閨教育?
そういえばそんなの教わったことなかったよね……現世では。

……やっっば!
これって、私がどこで性の知識を得たのかって尋問の席だった⁉︎

え、どうしよう。
前世のオタク知識として、カカオはそういう効果があるとされていた、とか、その程度のものだったんだけど。
この世界じゃ閨の知識の一環で教えられるってことなのだろうか。

そうだとしたら、その教育も受けてないはずの私がなんで知ってるんだ? まさか、そういう相手でもいるのか? それとも悪いことを教える友人でもいるのか⁉︎ と思ってるに違いない。ひえっ

「あ、あの。学園で薬草学の調べ物をしていて、たまたま材料のこととその効果を偶然知ったのですわ。その際にお菓子の材料として使えるのでは? と思いましたの。あの、それで閨教育とは何なのでしょうか?」
この場合、とにかくしらばっくれるに限る!

首を傾げながらキョトンとした表情で問うと、お父様があからさまにホッとしたような表情を浮かべ「そ、そうか……薬草学か……」と力が抜けたようにソファの背もたれにもたれかかった。

「あなた、しっかりなさって。まだ話は終わっていませんわよ」
お母様がお父様の腕に手を添えると、お父様はハッとして慌てて居住まいを正した。

「そう、薬草学……それにはどのように説明されていたのかしら?」
「え? ええと……」
お母様の追求が厳しい! もしかして嘘だって疑われてる⁉︎

「え、ええとあの、パラパラっとしか見ていなかったもので、材料と作り方以外のことは詳しく覚えていないのですけれど……男女の仲を深めると書いてあったような……」
とか言ってみたり。

「男女の仲を……そう」
ちょっとホッとした様子のお母様。
よかった、信じてくださったみたい。

そりゃ性知識がないはずの幼い娘が「媚薬でお菓子を作りました!」って言い出したらびっくりもするわよね。

料理長は高位貴族の令嬢だからその手の教育せいちしきの習得も早いのだなと思って事実をありのまま、素直に伝えたのだろう。

やばい、やっぱり私が知らない間にやらかしてたパターンだった。
いやでも、この展開はしかたなかったのでは⁉︎ 不可抗力だよ!

「……その本はすぐにでも禁書にすべきではなかろうか」
「あなた、落ち着いてください。クリステアはこの通りですから、心配ございませんわ」

この通りって何?
閨教育も知らない、純真無垢な乙女だとでも?
残念、前世オタクな私には、現世では後ろ指さされそうなニッチな知識だってあるのだよ。披露する気も機会もないけどね!

「あ、ああ。そうだな……」
「特に問題がなかったわけですから、ねえあなた、ほら……」
お母様に上目遣いで促されたお父様は、ゴホン、と咳払いをしてから私を見た。

「そ、それでだな。あの菓子は晩餐会では提供しないことになった。だが、陛下に報告しなくてはならない。媚薬としてではなく、少量で魔力回復の効果が高いという事実は捨ておけぬ」
「は、はあ……」

まあ出せないだろうってのはわかってたからいいけどさ。
陛下に報告かあ……軍事利用とかはしないでほしいなぁ。

「そういうわけで、あの菓子は追加で作れるのだろうか?」
「え?」
なんで?

「いや、その、効果を確かめるには量が足りないというかだな」
「足りませんか」
「う、うむ」

結構大きな塊を渡したはずなんだけどな。
お母様まで笑顔でうんうん、と頷いている……? ハッ!

「わ、わかりましたわ。材料さえあれば作り方は料理長が知っていますから。料理長に伝えておきますね」
「い、いや! 料理長が知っているなら私から伝えるからよい! もう部屋に戻りなさい」
「……はい」

お父様たちに追い立てられるように執務室から追い出された。
閉じられる寸前に見えたのは両親が寄り添う光景。

……媚薬としても優秀だったみたい?

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