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夕食という名の試食会

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令嬢にあるまじき早着替えでなんとかやや遅刻程度で夕食の席に滑り込みました。
私、普段はコルセットなんてつけないからね、楽ちんワンピースなのも勝因でした。

お兄様も後から戻ってきたみたいで、席に着いていた。
あわわ、お兄様も試食会の時にお誘いすべきだったわ。
最近忙しそうだったからてっきり帰らないものと思ってたよ……ごめんね、お兄様。

「お待たせして申し訳ございませんでした」
「いや、種類が多くて試作が大変だったと料理長から聞いた。すまなかったな」
「いえ、私は監督しただけですので。料理長たちを労ってくださいませ」
「ふむ。考えておこう」

お父様がそう言って視線で合図すると、給仕たちが速やかにサーブし始めた。

レイモンド王太子殿下たちとの試食会ではビュッフェ形式にしたために気に入った料理ばかり食べてしまっていたのは失敗だった。

今回は料理長に言って少量でひととおり提供したあと気に入った料理をおかわりしてもらうことにしたのだ。

レイモンド王太子殿下みたいにカレーコロッケでお腹いっぱいにされちゃ試食会にならないからね……

一つ一つの料理を簡単に説明しながら、デザートの手前でおかわりのリクエストを聞くことにした。

お父様は、どの料理を食べても「これのおかわりはないのか?」と聞いていたから全部おかわりしそうでこわい。
その場合は初めと同じように少しずつにしてもらおう……

「うーむ、どれも美味かったので全部、と言いたいところだが、デザートも控えているからな。ジャンバラヤをいただこう。大盛りで頼む」
いやお父様、大盛りだと意味ないのでは?

「私は……そうね、棒棒鶏をお願い。野菜多めでね」
お母様はさっぱりヘルシー路線のおかわりね。

「僕は……ピザトーストをいただこうかな。一枚でいいよ。そのかわりにデザートは多めにしてほしいかな」
お兄様は控えめにしてデザート狙いか。

「我は全種類おかわりだ」
「おれもー!」
黒銀くろがね真白ましろは食べきれないなんてことないから遠慮がない。
お父様が羨ましいのか「ぐぬぬ」と二人を睨んでいたけれど、聖獣の二人に対抗してどうするの⁇

私は試作&試食続きでやや飽きてきたこともあって、おかわりはしなかった。

「それでお父様、試食していかがでしたか?」
「どれも食べたことのない香り高い味わいで興味深い。ピザトーストは以前食べたピザとは違うのだろうか?」
「はい。ピザの土台となる生地をパンに置き換え、ソースもいつものトマトソースに、ハリッサという新たに調合した調味料を加えて作りました」

「ほう。トマトソースにそのはりっさとやらを加えただけでこのように刺激的な味わいに変わるとは面白い」
「ええ。これなら晩餐会の翌日の朝食にも使えるのではないかと思いまして」
「なるほど。翌朝のメニューまで考えてくれたのか」
「ええと、ええ、まあ……」
咄嗟に言ってみただけです。てへ。

「ちなみに、ピザトーストに塗った調味料は鍋に入れても美味しいのです。今の季節には合わないかと思い、作りませんでしたが具沢山のスープとして提供してもよろしいかと」
私は前世でハリッサを味変に使ってたのよね。

「ほう、それも美味そうだ。明日にでも食べてみたいものだな」
「え? ええと……」
視界の端に料理長がのぞいていたのが見えたので視線を送ると、こくりと頷いたのでお父様には明日の昼食に提供することを約束したのだった。

「それでは、デザートのカヒィ寒天とチャイというスパイスを使ったミルクティーですわ」
「む? これはブラックスライム……ではないな。まるで醤油を寒天で固めたようだ」
いや、そんなデザート出すつもりはありませんから。

「このミルクティー、不思議な香りがするわね……まあ! 味わいも不思議だけれど、美味しいわ」
お母様はチャイを飲んだ途端目を輝かせた。
チャイってクセがあるから好みが分かれるところだと思うけれど、今のところ好評のようでよかったわ。

ドリスタン王国では紅茶がメインで、カヒィ……コーヒーとか、抹茶や緑茶などのバリエーションがあまりないから、新しい飲み方は歓迎されると思うのよね。

「むう、このカヒィ寒天とやら、苦みの中にも甘さが感じられて面白い。上にかかった生クリームはそれらをまろやかにして引き立てている……」
お父様、真剣な表情でカヒィ寒天をプルプルさせつつ食レポしないでいただけますか⁉︎
笑いを堪えるの大変なのですが⁇

「ふふ、どちらも美味しいよ、テア。できればこのチャイに使うスパイスを分けて欲しいな。寮でも飲みたいんだ」
「もちろんですわ。入れ方を書いた説明書もお渡ししますわね」
「ありがとう。助かるよ」
ふふ、お兄様のためなら喜んでー!

「どれもこれも美味かった。今回調合したスパイスの配合率などはできるだけ我が家で秘匿したいところだが、サモナール国との交渉の一つとして望まれた場合は開示せざるをえない。頑張ってくれたクリステアには申し訳ないのだが……もちろん、そうなった場合、陛下に褒賞を要求するので安心しなさい」
え、国から褒賞もらうとか面倒そうなんでいらないんですけど……あ、そうだ。

「あの、お父様。もし褒賞をいただけるのでしたら、サモナール国の貿易で手に入れる香辛料などを優先的に購入させていただく権利というのは可能でしょうか?」
鮮度の高い香辛料が定期的に手に入るのって最高じゃない?

「む? それは今後サモナール国が友好国となれるかどうかによるだろうが、上手いこと陛下から言質を取れば可能だ」
……陛下から言質を取るとか、お父様と陛下のやりとりはなんというか、穏やかじゃないね⁉︎

「テア、僕からもテアの希望の褒賞が与えられるよう殿下を誘導してみるよ」
え、お兄様まで。親子二代に渡って王家を操ろうとしないで⁉︎
なんだか、悪役一家みたいじゃない!

二人とも「まかせておけ」って、含みのある笑顔で発言するのは怖いからやめよ⁉︎

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