転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
上 下
344 / 385
連載

拝まないで⁉︎

しおりを挟む
ルヴァの手作り朝食のメニューは、「永遠の死の国の森のきのこのキッシュ」に「ルヴァの気紛れクレーム・ブリュレ苦しみの炉風」と「恋人たちのブリオッシュ~三種のコフィチュールを添えて~」っていう、料理自体は旨そうだし罪はないが聞いただけで胸やけと胃もたれがしそうな名前のものだった。
言っとくけど名前付けたの俺じゃないからな、ルヴァが自分でそう説明したんだからな。
せめて名前くらい統一感が欲しかった。ブリオッシュもうちょっと頑張れよ。
正直、徹夜明けの早朝にルヴァのキャラはきついです。
俺とエリアスは徹夜でセックスして疲れてるんだよ。
ユリゼンじゃなくても君の理性が限界きそう。

そして何故か卵をふんだんに使っていて窯で焼く料理ばかりだ。
ゾアの世界図でロスは卵型で描かれているから卵料理ばかりでもおかしくないんだが、それらがルヴァの死体を焼いたのと同じ階下の炉で焼かれたのでないことを祈りつつ、どこで焼かれたのか訊くに訊けないでいる。
だって、硝子のドームの真ん中の六分儀セキスタントの軸の部分が煙突になってたみたいで、今見たら煙が出てるんだよ。
夜は煙なんか出てなかったのに。

朝食はどれもすっごく旨いし、知らないままの方がいいかも知れない。

「ルヴァ、お前がナナセを呼びつけた目的は何だ」

朝食を食べながら早速エリアスが切り出した。
俺を呼んだのは正確にはルヴァじゃなくてルヴァの燃え滓の方で、ここにいるのは自分が焼かれた炉に固執している地縛霊みたいなもんなんじゃないのか。知らんけど。
でも時々宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーの出張サービスもしてるみたいだから地縛霊ともちょっと違うか。

「おっと。単刀直入だね。まあ隠すことでもないから教えてあげるよ。簡潔に言うと『この世界の均衡を取り戻すため』かな」

この世界の均衡を取り戻すって言うけど、「黎明と黄昏」がこの世界に具体的にどのように作用するのかはまだ分からない。
それにもしかして、俺に「魔導書を編纂せよ」って課題を出したあしながおじさんもグルだったってことか?
そういえばあの獣人領の舞踏会にはあしながおじさんも来ていたはずだし、ルヴァも宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーとして参加していた。

「最初から俺に魔導書グリモワールを編纂させるために呼んだってこと?」
「そうなるね。ヴェイラがその杖を渡してくれたから、君の心に直接話しかけられるようになったよ」

ていうか、この杖アンテナだったのかよ。
あの声が聞こえ始めたのって、そういえばこの杖貰ってからだったな。

「そんな遠回しなことをせずに舞踏会で会った時に直接言えばよかっただろう」

エリアスは最早食事どころではなく苛々しながら正しい突っ込みを入れる。
既に血管がブチギレそうだ。

「それでは駄目なんだよ。誰かに教えられて正解を書き写したような魔導書じゃ意味がないんだ。太古の昔、闇と契約を交わした一族の末裔たるナナセくんが自分自身の力で正解に辿り着いた末に編み上げた魔導書でなくちゃ意味がない。僕は君たちに付かず離れず見守りながら、最低限の手助けしか出来なかったのさ」

確かに「黎明と黄昏」は追い詰められた末の産物だ。
決して他の方法では編み出すことはできなかったし、ましてや教えられて出来るものでないだろう。
それは誰よりも俺が一番良く知っている。
訳知り顔でいいように誘導されていた事実は腹立たしいし悔しいが、説明されればいちいち納得してしまう理由がそこにあった。

だがルヴァの回答を受けて更にエリアスが問う。

「そもそもお前はゾアなのに世界の均衡くらい自分でどうにか出来なかったのか?」
「本当にそう思うよね。僕は良くも悪くも神でも悪魔でもない『愛の化身』だからね。役割を超越した力はないんだよ。ゾアは人ほど自由ではないってことさ」
しおりを挟む
感想 3,377

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。