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奢りで大人買い!

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「ああ、そのローブと制服……お嬢さんはアデリア学園の生徒さんか。何か欲しいものがおありかな? うちは香辛料として置いているが、薬草としても使えるものもたくさんある。学園にもいくつか卸してるんだが、どれも高品質なものばかりさ」

屋台のお兄さんは格好から私がアデリア学園の生徒と察したようで、セールストークしながら、薬草学の実習に使えそうな薬草をメインに説明を始めた。

確かに、船で運ばれてきたのにも関わらず、どの薬草も傷みなどは見受けられない。
管理の仕方が良かった証拠だ。
もしかしたら、大量に収納できるマジックボックスかインベントリ持ちがいるのかもしれないわね。

お兄さんのおすすめを聞きながら、目当ての品を物色していく。
……うん、ここ数日で大量消費した香辛料は問題なく補充できそうね。

せっかくレオン様が奢ってくださるとおっしゃっているのだから買い込んじゃおっと。
どのみち、賓客の晩餐会用に調合して王宮に納めることになるんだもん。
遠慮なくどっさり買い漁っちゃうもんね!

「おいおい、随分と買い込むんだな」
あれもこれもと大量に頼んだので、お兄さんが唖然としながらも側にいた他の店員に計量や袋詰めを指示している。

このお兄さん、若いけどこの屋台……というか商隊のリーダーなのかな?
やけに命令慣れしてるし。

「ええと、他の生徒たちに分けてあげようと思って」
貴方の国の偉い人に振る舞うためですとは言えないので適当に答えておく。

「……にしちゃあ、薬草以外の香辛料も大量だ」
う、普段手に入りにくそうなのがたくさんあったから、つい……
「あ、それは、家の料理人にお土産です」
これから、料理長やシンたちに頑張ってもらう分も含まれてるから嘘じゃない、うん。

「ふーん。使用人に香辛料の土産ねぇ。珍しいお嬢様だな?」
お兄さんは面白そうな笑みを浮かべて計算を終えた紙を見せてきた。

おおぅ、なかなかのお値段……!
チラッとレオン様を見ると、請求額に驚くこともなく懐に忍ばせていた(と見せかけてインベントリから出したであろう)財布を取り出し「釣は不要だ」とお兄さんに渡した。

ひえ……レオン様ってば、冒険者として結構稼いでるのかな⁉︎
太っ腹すぎるぅ……!

「毎度! 釣の代わりといっちゃなんだが、こいつおまけしとくぜ」
お兄さんはそういって包みを追加してくれた。

「あ、ありがとうございます……」
大量買いにおまけはつきものなのでありがたくいただいておこう。
……支払いはレオン様だけど。

「いいとこのお嬢様なんだろ? 意中のやつがいたら飲ませるといい」
お兄さんはぱちん、とウインクして荷物を黒銀くろがねたちに渡した。

意中のやつに飲ませる……?
飲み物かな?
私はお礼を言って屋台を離れた。

そう言えば、いつもこの辺りで屋台を出してるのかな?
聞いておけばよかった。
そう思って振り向くと、お兄さんはこちらを見ていたようで、ひらひらと手を振ってきた。

手を振り返すべきか迷っていると、黒銀くろがね真白ましろに視界を遮られた。
「主、いくぞ」
「くりすてあ、いこ?」
「え……ええ」
二人に促されるまま、私は停留所で待つ馬車に向かったのだった。

マリエルちゃんを自宅まで送ってから、高位貴族の屋敷が建ち並ぶ貴族街の奥にあるエリスフィード公爵邸に入ると、お父様が玄関先で待っていた。
え、お父様そこでずっと待ってたの⁉︎

「クリステア! よく戻った!」
侍従が開ける前にお父様がドアを開けて私をエスコートしてくれた。
お父様……?

「レイモンド王太子殿下からどれも美味かった、晩餐会でも期待しているとの連絡を受けたのだ。愛娘の新作料理を殿下が先に召し上がったのは……遺憾だが……うむ、よくやった」
……後半のセリフにものすごく葛藤を感じたけど、最後はどうにか飲み込んだようだ。

「さあ、お茶を淹れさせるからゆっくり報告を聞こうではないか」
「え、ええ……」
お父様のエスコートで屋敷に入ると、お母様が呆れたようにこちらを見ていた。
「まったく、公爵家の当主ともあろう方が娘の帰宅を待ち切れないだなんて」
はあ……とお母様がため息を吐く。
ごもっともです、お母様。

お父様とお母様に挟まれた状態でサロンに向かう途中で、料理長が「新作……新作……ッ」とつぷやきながら、廊下の角から見つめていた。怖っ!
あ……後で教えに行くから!
物陰から見つめて待つのはやめて⁉︎

「……ふむ、それでは今回は新作づくしというわけだな?」
久々にミリア以外の人が淹れた紅茶を飲みながら、お父様とお母様に報告した。
うん、やっぱりミリアの淹れたお茶が一番ね。さすが私の侍女。さすミリ!

「ええ。香辛料の組み合わせによって色々な料理が作れました。今回のレシピだけではなく、他も試してみようと思っています」
「さすが我が娘。それで、そのレシピは我々も試食できるのであろうな?」
お父様とお母様は新作レシピが気になっていたようでソワソワした様子でこちらを見た。

「ええ、もちろんですわ。荷物を片付けたら料理長に伝授しようと思います」
私がそういうと、ドアの向こうから「よっしゃああああ!」と叫ぶ声が遠のいていくのが聞こえた。
……料理長……? 聞き耳たててたの⁉︎
そんなことしてちゃダメでしょ⁉︎

もちろんお父様たちにもその声は聞こえていたようで、二人とも苦笑していた。
「いやな、クリステアが晩餐会のメニュー開発のために戻るので食材など万全の用意をしておくように申し伝えてからずっと落ち着かない様子だったのだ。その気持ちは私もよくわかるので許してやりなさい」
……気持ちがわかるんだ?

どう反応したものかわからないまま、その場を辞して自室に向かった。
さあ、着替えて調理場に向かわなきゃ!

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