上 下
340 / 375
連載

寄り道屋台メシ!

しおりを挟む
乗り合い馬車の停留所近くに馬車を停めてもらい、しばらく待機しているよう御者に伝えて馬車を降りようとすると、ミリアに止められた。

「クリステア様。寄り道なさるのなら、せめて袖や襟のレースを外して、ローブを羽織ってから出られてくださいね」
「え? ああ……そうね、ありがとう」
ミリアの指摘で慌ててつけ襟やつけ袖を取り外してミリアに渡した。

そうよね、制服はしかたないとしてもあからさまに高位の貴族とわかるような、ふんだんに使われたレースや宝石付きのボタンが使われた装飾は外しておかないと。
つけ襟やつけ袖などの装飾部分を外すと、パッと見はシンプルな制服に見えるはず。

まあ、近くで見ればどう見ても最高級の生地が使われているだとか、同色ながらもこれまた最高級の糸で細かな刺繍が施されているのがわかると思うのだけど、ローブを羽織ればそれもほとんどが隠れるので問題ない、はず。

マリエルちゃんも同様に装飾を外してインベントリに収納してからローブを羽織ると、ルビィがマリエルちゃんの足元にできた影に入りこんだ。
本人曰く、人混みの中では影に潜んでいた方が護衛しやすいそうだ。

「さて、準備できたことだし、いきましょうか」
「うむ」
「うん、いこう!」

私の言葉に黒銀くろがね真白ましろが素早く動き、馬車の扉を開けてエスコートしてくれた。

乗り合い馬車から降りてきた人や目的地行きの馬車を探す人などでごった返す中を黒銀くろがねたちに護られながらしばらく歩くと屋台がならぶ一角にたどり着いた。

「おおお……!」
そこには腹を空かせて戻り、何はともあれ腹を満たそうと肉にかぶりつく冒険者や旅人、出発前に食べ物を調達しようと保存食になりそうなものを買い求める人たちで活気付いていた。

そこかしこからジュウジュウと肉の焼ける匂いや、どこからともなくスープの香りが漂い、鼻をくすぐった。
さすがは王都の台所なだけあって、出店の数も半端ない。

貴族のこってりゴテゴテ料理と違って、屋台メシはシンプルに焼いて塩を振っただけのお肉とか、野菜をごろごろ煮込んだだけのスープとかそういうのが多いみたい。

その中でも工夫を凝らした店は人気がでるみたいで、そこかしこに人だかりのできている店があった。

「うわあ、いい匂い。どの店で買おうかしら」
小さくキュルキュルと鳴るお腹を宥めつつ、あちこちに視線を彷徨わせながらお店を物色する。

「そうですねぇ……クリステアさんのお口に合うかわかりませんけど、あの人だかりのお店はワイルドボアの串焼きで、あそこはキラーラビットの香草焼きが人気のお店ですね。あ、あそこはスープにコカトリスの胸肉が入ったちょっと贅沢なスープで人気ですよ」

く、詳しいな、マリエルちゃん。
さては頻繁に買い食いしてたわね⁉︎
しかしどれも美味しそう!

ひととおり買ってシェアして食べてみて、気に入った分は多めに買ってインベントリに収納しておくのも手よね。

「マリエルさん、まずはあのお店にいってみま……」
「おーっと、お嬢。そこよりもっとおすすめの店があるぜ?」
「えっ? あ、レ、レオ……むぐっ」

誰かが目当ての店を指した手を取り、私をくるりと反転させたので、一体何者かと見上げると、そこにいたのはレオン様だった。

思わず名前を呼びそうになってしまったので、咄嗟に口を噤むと、レオン様がニヤリと笑った。

「おう、ここじゃレオでいいぜ?」
「おいお前……主から手を離せ」
「くりすてあにさわるな!」
私の手を取ったのが誰かわかったからか、黒銀くろがね真白ましろが声を抑えてレオン様に抗議した。

大声を上げて悪目立ちすることがないよう、配慮できるようになったのはものすごい進歩だけど、聖獣の本能である独占欲だけは抑えられないみたい。

「へいへい。相変わらずだなお前ら。もう少し冷静に護れるようにならなきゃダメだぞ?」
レオン様が呆れながらパッと私の手を離すと、真白ましろが私を抱き寄せながらレオン様を睨みつけた。

「うるさい。おまえにはかんけいない」
「その通りだ。おぬしこそ気安く主に触れるな」
黒銀くろがねはそう言いながら私がレオン様の視界に入らないよう前に出た。

んもう、二人とも白虎様たちやルビィ相手だとそうでもないのに、レオン様相手だとめちゃくちゃ警戒するのよね。

「もう。二人ともレオ……さんに失礼よ。すみません、二人が失礼な態度をとって」
「主に謝らせるとか護衛失格だぞ? なんてな。まあ、驚かせた俺が悪かったからな。気にしてない」
そう言ってレオン様は私にウインクした。

「ちょ、ク、クリステアさん! どなたですかこのイケメン⁉︎」
「え?」
マリエルちゃんが興奮気味に、でも人見知り発動してるのか小声で私に問いかけた。
あれ? マリエルちゃんはレオン様を知らなかったっけ?

入学式の時に……あ、あの時は護衛の格好だったし、普段は顔出ししてないもんね。
それに、今は街の風景に馴染ませるかのようにラフな格好だ。
仕事帰りの冒険者みたいな感じで格好いいし、馴染みすぎてて印象がガラッと違って見える。

「え、ええと……この方は……」
「お嬢の知り合いのレオだ。よろしくな」
「うわ、顔面がいい……じゃなくて、マ、マリエル・メメメイヤーです。よよよよろしくお願いしましゅ!」
噛んだ。

「ママリエル・メメメイヤー? 面白い名前だな」
「レオさん、マリエル・メイヤー様ですわ。少し緊張なさってるみたい」
「ふーん? お嬢の周りには面白いのが集まるなあ」
レオン様はそう言ってマリエルちゃんの足元を面白そうに見つめた。

……これ、もしかしなくてもルビィが影に潜んでるのに気付いてる……?
マリエルちゃんもレオン様の視線の先に気付いてあわわ……と挙動が怪しくなった。
「レ、レオさん? おすすめのお店ってどこですの?」

私が咄嗟に話を逸らすと、レオン様はああ、と顔を上げて私を見た。
「この先にある串焼き屋だ。最近ちょっと味付けを変えて人気になったんだ」
そう言って私たちを先導するように歩き始めた。

それ以上ルビィの気配には興味がない様子で、マリエルちゃんは「ふひぃ……焦ったぁ……」と力を抜きながらも、私の隣に並んでレオン様の後を追いかけた。

レオン様の後を追って少し歩くと、これまでとはちょっと変わった香りを感じ、隣にいたマリエルちゃんがハッとして顔を上げたと思うと鼻をすんすんとさせ、周囲の匂いを探るように嗅いた。
「……え? こ、この匂いはまさか……ッ⁉︎」
え? 何? このちょっと変わった、でもなんとなく覚えのある匂いにマリエルちゃんが強く反応してる⁉︎

---------------------------
いつもコメントandエールポチッとありがとうございます!
執筆の励みになっておりますー!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。