転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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デザートタイム

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ミリアが私の言葉を聞いて素早くお茶を用意してくれた。さすミリ!
できるメイドは違うねっ!

用意したお茶はもちろんチャイだ。
そして、デザートは……

「……なんだ? この黒いのに透き通っている塊は? ブラックスライム? ……とは違うようだが」
殿下が得体の知れないもののようにデザートを見ている。
魔物扱いするとは失礼な。

「こちらは、カヒィ寒天でございます。その黒くて透き通ったのはカヒィという豆をお湯で抽出した液体を寒天で固めたものですわ」
そう、今回のデザートはコーヒー寒天だ。
コーヒーゼリーにしたいところだけど、今回は寒天の方が扱いやすいだろうと考えてこちらにした。
ゼラチンは見つけたのだけど、あまり品質が良くなかったのよね……

「カヒィ寒天? この上にかかっている白い液体は……?」
殿下がカヒィ寒天の入ったグラスを手に色んな角度から眺めている。
カヒィ寒天は得体の知れない色味だけど、毒じゃありませんからね?

「生クリームですわ。寒天に絡めてお召し上がりください。飲み物はスパイスを使ったミルクティー、チャイですわ」
私の合図でミリアが皆にサーブしていく。

「へえ……不思議な香りのミルクティーだね。うん、美味しい」
お兄様がチャイを飲んで破顔した。
どうやら好みの味だったみたい。

「ん? 思っていたより食べやすいな。食べ物とはわかりにくい見た目ながら、さっぱりとしていて、食後にぴったりだな。この茶も不思議な味がして美味い」

「まあ! 真っ黒で見るからに恐ろしい色なのに、ぷるぷるとした食感が面白いですわね。それに、苦味を感じますがしっかりとした甘みが付いていて、生クリームのまろやかさがそれを上手に引き立てていますわ。お茶は……ちょっと大人の味ですかしら。なんとも言えぬ複雑な香りと味がして面白いですわ」
アリシア様がしっかりと食レポしてくださった。うん、真面目ェ!

「いかがでしたかしら? 他にもレシピを考えてみようとは思いますが、まずは今回の料理が果たして通用するのかと心配で……」
スパイスを生かしたメニューってことでいろいろと出してはみたものの、もう少し統一感があってもいいかもしれない。

とはいえ、統一感があるかわかるのは私とマリエルちゃんくらいのものだし、それほど気にすることもないのかもしれない。うーむ。
変に前世の感覚に引きずられてしまって正解がわからないのよね。

「もちろんだ! これらのレシピを早く王宮に提供してほしい! それに、カレーコロッケは絶品だから、学園の食堂に提供してほしいくらいだ!」
殿下がちゃっかりリクエストしてきたけれど、残念! カレー粉は高額ですのでね。
食堂で出すのは難しいと思います。ふはは!

「殿下、カレーは我が家秘伝ですからね。提供するとしても調合済みのスパイスを今回限り、ですよ」
「ああ、そうだったな……残念だ」
殿下ががっくりと肩を落とした。
そこまで落ち込まなくても。

殿下にカレーという中毒性がある魅惑のメニューを教えてしまったのは完全に失敗だったなあ。

あの時は、とにかくギャフンと言わせたかっただけだし、まさか上級者向けの大辛カレーを攻略するとは思わなかったんだもの。
大誤算だよ!

「殿下、そもそもコロッケはカレーの風味なしでも美味しいものですから、学園の食堂ではそちらを提供してはいかがですか? 濃いめのソースをかけていただくのがおすすめですわ」

ただのコロッケなら比較的安価なじゃがいもをたくさん使えるから、満腹感も得られやすいからね。
それに、カロリーの高い料理は魔力回復になると言われているから、揚げ物料理は魔法の練習で魔力を消費しがちな生徒たちにぴったりだと思うわ。

「そうだな。その時はレシピを提供してもらえるだろうか」
「基本のコロッケのレシピは商業ギルドに登録しておりますからそちらでお買い求めいただければ幸いですわ」

ふふふ、コロッケは商業ギルドでも人気のレシピのひとつですよ。
油を大量に使うから、貴族や裕福な商人くらいにしか売れていないけれど、登録してすぐの頃は米を使った料理よりかはとっつきやすいからかよく売れていたのよね。

「むぅ、そうだったか。これは早急にレシピを購入するよう食堂に申し伝えよう」
わーい、毎度ありっ!
やったね、臨時のお小遣いが増えた!
……じゃなくて、今は試食についてのお話よね。

「カレースパイスの配合率が秘密であることを考えたらカレーコロッケは避けておくほうがよいかもしれませんわね」
「えっ! 俺は出したほうがいいと思うが」
殿下、それは自分が食べたいからですよね?

「そうだね。万が一カレーコロッケが気に入られてスパイスのレシピごと寄越せと言われたら父上も断りにくいだろうし……」
正直なところ、他のスパイスもそれなりに頑張って調合したので、レシピを寄越せと言われてもそう易々と渡したくないのが本音だけどね。

「それもそうか……スパイスも含めレシピはエリスフィード公爵家、いやクリステア嬢の財産みたいなものだしな。それを差し出せというのも心苦しいな」
殿下が難しそうな顔で天を仰いだ。

「商業ギルドに登録してもよいのですが、レシピの代金も材料費もそれなりに高額になると思いますわ」
カレー粉なんて、何をしても美味しくなっちゃう魔法の粉みたいなもんだもの。
安値では売らないよ?

「クリステアさん、いけません。もしそのレシピを参考にしたと銘打ったスパイスが販売された場合、万が一タチの悪い商会が他の混ぜ物をした低品質のものを売りに出したりしたらクリステア様の評判にも関わります!」
マリエルちゃんが私の提案に待ったをかけた。

そっか、そういう可能性もあるのか。
高額な分、詐欺だぼったくりだと訴えられたり悪い噂を立てられたら困る。
さすがマリエルちゃん、商会の娘だけあるぅ!

「タチの悪い商会が売るのが困るなら、マリエル嬢の実家で専売にするのはどうだ? マリエル嬢の実家は確かメイヤー商会だったろう?」
殿下が名案! とばかりにパチンと指を鳴らした。

「ふえ⁉︎ う、うちの商会でですかぁ⁉︎」
殿下からの突然のご指名に動揺し声が裏返ってるわよ、マリエルちゃん。
でも、なかなかいい案かも!

「それは名案ですわね! マリエルさん、後日メイヤー男爵と我が家でお話しましょう?」
「え? えぇ……⁉︎ は、はいぃ……」

よし、カレー粉をはじめとしたスパイス問題はお父様とメイヤー男爵にまるっと丸投げすれば、ヨシ!

ん?マリエルちゃんが何やらぶつぶつ言ってる?
「や、やばい……これ以上仕事増やしたらとうさんに過労死させる気か⁉︎ って叱られる……!」
……マリエルちゃん、が、頑張って!

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