転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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進捗はいかが?

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「……それで、進捗はいかがですの?」
午前の授業の終了後、アリシア様と私たちはカフェに移動して一緒にランチをとることにした。
アリシア様とは寮が違うので、昼休みか放課後に情報交換するしかないからね。

「ええと、先日実家からサモナール国に関する資料が届きまして、それらを元にいくつか試作はしてみたのですけれど……」
「まあ! もう試作まで⁉︎」
アリシア様は私の言葉に驚いていた。

そういえばアリシア様も情報収集を手伝ってくださるのだから、試食に参加していただくべきだった。しまったなぁ。

「さすがはエリスフィード公爵家……迅速な情報収集と分析だけでなく試作まで……その実行力、私も見習わなくてはですわ……!」
「いえあの、殿下から依頼される前から父もそのつもりで動いていたみたいですから、それで早かっただけですわ」
悔しそうにしているアリシア様に慌てて説明すると、ハッと我に返ったアリシア様が恥ずかしそうに俯いた。

「も、申し訳ありませんわ、エリスフィード公爵家には負けてはならないと物心つく前から母に教え込まれていたものですから……つい」
眉を八の字にして謝罪するアリシア様。

アリシア様のお母様はエリスフィード家に何か恨みでもあるんですか? ……などと口が裂けても言えないけれど。

アリシア様が入学当初から敵対心バリバリだったのは、レイモンド王太子殿下の婚約者候補云々以外にお母様が原因の一端でもあるような……
今度実家に帰った時にでもお母様に聞いてみようかしら。

「こちらこそ、アリシア様にもご協力いただいているのに、黙って進めてしまって申し訳ないですわ」
私が謝罪すると、アリシア様は顔を横に振った。

「いいえ、それはお気になさらないで。王族に出す料理のレシピですもの。敵対している侯爵家の者に教えて情報が外に流れるのを危惧しないほうがおかしいですわ。もちろん、私はそんなことをするつもりはまったくありませんけれど……」

「そんな! 私はアリシア様がそんなことしたりするような方だと思っていませんわ! だって、お友達でしょう⁉︎」
何なら、試作呼ぶの忘れてた! やっべー! とすら思ってました!
情報漏洩とかそんなこと微塵も考えてませんでした!

「まあ……うふふ。ありがとうございますわ。そうね、お友達ですもの。そんなことしませんわ」
アリシア様は私の「お友達」発言に目を見開いたと思えば、すぐに頬を薔薇色に染めてはにかむように微笑んだ。
か……可愛いぃ!

「か、かわぁ……」
マリエルちゃん、最近心の声が漏れすぎよ!
全面的に同意するけど!

「そんなお友達のクリステア様に、これをお渡ししますわ。もう遅いかもしれませんけれど……」
そう言ってアリシア様が私に差し出したのは紙の束だった。

「これは……?」
「図書館で私なりに調べてみたものですわ。過去に留学していたサモナール国の留学生と我が国の生徒との交流を記したものが資料として残されていましたの。残念ながらそれは持ち出し禁止でしたので、その中から使えそうな内容を抜き出して書き写したのですわ」
「アリシア様……!」

受け取った紙の束は結構な厚みだから、かなりの時間をかけてくれたに違いない。
それなのに、私たちはのんびり試食していたのだ……うわあ、罪悪感半端ない!

「ありがとうございます! こんなに頑張ってくださったアリシア様にも是非試食していただきたいですわ! 明日の昼食はサロン棟で試食会をいたしましょう!」
私が両手をガシッと掴んで迫ると、アリシア様はタジタジになって「え……ええ」と答えてくださった。

よし、明日のお昼は試食会だ!
「あの、クリステア様?」
「はい、なんでしょう?」
私がにこやかに答えると、アリシア様がおずおずと言った様子で言った。
「試食会となれば、私ではなくレイモンド王太子殿下やノーマン様にもご試食いただくべきでは? 私、殿下を差し置いて先にいただくだなんてできませんわ」
「あ……ソ、ソウデスヨネー?」

そ、そうか、そうだよね。
殿下やお兄様を無視するわけにはいかないかー……呼ぶしかないよね。
……まさか「カレーを出せ!」とか言わないよね、あの殿下。

その時はきっぱりと「我が家秘伝のレシピなので宮廷料理人に渡せません!」って突っぱねるしかないか。
以前、レイモンド王太子殿下から噂を聞いた陛下がお父様にカレーのレシピが欲しいと打診したことがあったそうだけど「我が家の秘伝ですので渡せませんな、はっはっは」とすげなく答えてやったとお父様がドヤってたもんね。だから私も突っぱねて、ヨシ!

私がうんうん、と納得していると、今度はアリシア様が私の手をギュッと握り、微笑んだ。
「直接ご招待いただきましたし、私への招待状は不要ですが、殿下への招待状は急いで出してくださいね? お親しいからといって礼を欠いてはいけませんよ、クリステア様?」
「は……はひ」
にこやかに圧をかけられた私はすぐに正式な招待状を書いて出すことを約束させられた。

アリシア様は王族への敬意を忘れず臣下として礼儀正しく接するべきだと考えて、厳しく自分を律しているみたいね。

ラノベとかでよくある、殿下に馴れ馴れしい悪役令嬢とかと違ってその点は好ましく思えるのだけれど、婚約者候補を狙っているのなら、もう少し押せ押せでもいいと思うんだけどな。

「クリステア様! 何をぼんやりしていらっしゃるの⁉︎ 時間は有限でしてよ、お早く行動なさって!」
「は、はいぃ!」

そんなわけで、午後から選択授業を取っていたアリシア様と別れた私は、翌日の試食会に向けてサロン棟の手配や追加のスパイスの調合やお兄様たちに招待状を書いたりと奔走したのだった。

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