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朝食と試作その四

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翌朝。
早めに起きてミリアたちと厨房に向かった私はインベントリに収納していた食パンを何斤か取り出した。

天然酵母で焼いた柔らか食感のパンは領地の職人通りで店を構えるドワーフのガルバノおじさまに作ってもらった焼き型で焼いたものだ。

おじさまを知る人が聞いたら「伝説級の鍛冶師に何を作らせるんだ!」と怒られること請け合いらしいけれど、私にとってのガルバノおじさまは、何でも作ってくれる魔法の手を持った私に甘いおじいちゃんみたいなものなので問題ない。
……ないよね?

と、とにかくその型で焼いた食パンを焼きたてのままでインベントリに入れているから、取り出した瞬間に焼きたてパンの香りがふうわりと広がった。ふわぁ、いい香り。
焼きたてパンの香りって幸せの香りだよね。

食パンを前世の四つ切りの厚さ、約三センチにカットし、トマトソースをたっぷり塗る。
続いて玉ねぎやピーマン、トマトを薄切りにしてのせ……る前に昨日作ったスパイスをインベントリから取り出す。

「あら、それは昨日使わなかったスパイスですよね?」
サラダ担当に任命したミリアがきゅうりをスライスしつつもめざとく見つけて言った。
黒銀くろがね真白ましろもサラダ用のレタスを千切りながらこちらに注目していた。
「ええ。せっかくだから試作も兼ねようと思って」
私は瓶の蓋を開けてスプーンで中身を掬い取って小皿に移してから、適量をトマトソースの上にのせて塗り広げる。

それから薄切りにした野菜やエリスフィード公爵家印のベーコン、仕上げにチーズを散らして魔導オーブンへ。
火加減を確かめつつスクランブルエッグを焼いたり作り置きのコンソメスープを温めているとマリエルちゃんとルビィが厨房に入ってきた。

「おはようございます……わ、いい匂い」
「おはよう、マリエルさん。昨日皆に夕食を作ってもらったから、今朝は簡単にだけど私が用意したわ」
続いて皆がぞろぞろとやってきたタイミングでいい感じに焼けたようだから、オーブンから第一陣を取り出す。

マリエルちゃんがそれを見るなり目を輝かせた。
「わあ、ピザトーストですね! 美味しそう」
そう、今日の朝食はピザトースト。
大皿にスクランブルエッグやサラダを盛り、
それぞれが好きなように取り分けてもらい、スープも寸胴とスープ皿を置いてこれもセルフで。

私は次々とピザトーストを焼いて配ってもらう。多めに焼いた分はすかさずインベントリに入れて熱々の状態をキープした。
皆が取り分けたのを確認して私も席に着いた。
「それでは、いただきます!」
「いただきます!」
それを合図に皆が真っ先にピザトーストにかぶりつく。

「……んん! おいひい!」
飲み込む時間も惜しいとばかりにマリエルちゃんがモゴモゴしつつも声を上げた。
こらこら、マリエルさん? お行儀が悪くってよ?

「うん、これは美味いな。柔らかいパンにトマトソースと野菜にチーズ……なのはわかるが、トマトソースがいつもと違う味のようだが、これは?」
セイがゆっくり味わいながら嚥下した後、しげしげとピザトーストの層を眺めながら聞いてきた。

「よくぞ聞いてくれました! いつものトマトソースにこれを混ぜたのよ」
私はそう言ってテーブルに先程のスパイスの瓶を置いた。

「これは……昨日のスパイス?」
「ええ。今朝の朝食はハリッサを使ってピザトーストにしてみたの。ちょっぴりピリ辛で美味しいでしょう?」
そう、今回使ったのはハリッサだ。

個人的にトマトと相性がいいと思っているので、鶏肉のトマトソース煮込みやソテー、トマトベースのパスタやトマト鍋の味変として使ったりと重宝していた。
トマト鍋の時は最後にご飯を入れて粉チーズを振ってリゾットにして食べると最高だったんだよねぇ。

しかし、王族相手にトマト鍋を出すわけにもいかないし、出すなら鶏肉のトマト煮込みあたりもいいけど、棒棒鶏を出すなら鶏肉が被ってしまうからなあ。
ハンバーグのトマト煮込みもいいかもしれないけれど、どっちがいいか悩みどころ。

とりあえずピザトーストで試食してもらって、味に問題なければ普通にピザを焼いて出すのもありだと思うのよね。
ダメそうなら肉料理にきりかえるか、これらも選択肢のひとつとして提案してもいいよね。

問題は煮込み料理となると、うっかりこってり料理にアレンジされたりしないかだな。
馴染みのある調理法だからアレンジしやすいかもしれない。そうなったら元の木阿弥だし。
知らない料理をそのまま素直に作ってもらうほうがこってりテロに陥る危険性は低いと思うのよね。

「うむ。ピザトーストは領地でも食ったことはあるが、これはピリッとした辛さも感じられて後を引く美味さだ」
「からいけどおいひいよ、くりすてあ」
黒銀くろがね真白ましろの反応もよさそうね。

ルビィはマリエルからひとかけだけ試食した後はサラダに集中していた。
ルビィは食べられなくはないけど野菜を食べるほうが好きみたいね。
コンソメスープは野菜の旨みが効いているからか、美味しそうに飲んでいるけれど。

「美味い! でも足りねえからおかわり!」
白虎様、三口くらいで食べ終えてませんか?
私がおかわりのピザトーストをインベントリから出すと、他にもおかわりの声が上がった。
黒銀くろがね真白ましろはともかく、セイもおかわりするなんて意外だわ。

「今日はエイディーと騎士科の訓練に参加させてもらう予定だからしっかり食べておかないと。クリステア嬢の料理を食べると力が漲る気がするからな」
セイったら。嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

……そういえば、私の料理って魔力が込められているから美味いって白虎様が言ってたっけ。
もしかして、その影響もあったりするのかしら。
ふ、深く考えるのはやめておこうっと。

朱雀様は「とっても美味しゅうございますわ。でも……」と口籠った。
「あの、どうかしましたか? お口に合いませんでしたか?」
慌てて朱雀様に問いかけると、朱雀様が瞳を潤ませて私を見た。
えっ? 何?

「プルプルが……足りませんわ! 私にプリンを! だめなら茶碗蒸しを作ってくださいまし! 官能的なあの食感が恋しくてたまらないのですわあぁ!」
ズコーッ!
脳内でずっこけつつ「か、かしこまりましたわ」と答えた。

そういえば、最近プリンも茶碗蒸しも作ってなかったわね。
最後に作ったのはお茶会の時のかぼちゃプリンだっけ。
そう考えたら朱雀様が禁断症状を訴えてもおかしくない……のかな?

そうこうしているうちに登校時間が迫ってきたので、後片付けをミリアたちにまかせ、登校組は支度のためにそれぞれ私室に戻ったのだった。

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