転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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試作そのニ

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定番の麻婆豆腐ができないとなると、麻婆茄子? ……いやいや、茄子は領地であまり作ってなかったから、インベントリ内の在庫が心許ないし却下!

回鍋肉ホイコーロー……は甜麺醤テンメンジャンも使うんだった。味噌と醤油・砂糖・ごま油で代用できるけど。
カレーコロッケが脂っこいから、もっとさっぱりしたものがいいかな。

「よし、あれにしよう」
メニューを決めると後は自然と身体が動く。
冷蔵室からきゅうりやネギ、生姜、ニンニク、レタスにトマト、コカトリスの胸肉を取り出す。

胸肉は厚みが均等になるように切り開いてからねぎの青い部分と生姜を入れて茹で、その間にきゅうりは細切り、ネギの白い部分と生姜をみじん切りに。ニンニクはすりおろしておく。
レタスは適当なサイズに千切って、トマト……は盛り付け直前にくし切りにすればいいか。

次はタレづくり。
すりごまにごま油、醤油、酢、砂糖、味噌、豆板醬、ニンニクを混ぜ合わせる。
あー、ねりごまがあればもっと簡単なのに。
この前、バステア商会でようやくごま油が手に入っただけでもよしとしないとだけど。
よく混ぜたら、刻みねぎを入れてざっと混ぜ合わせてタレは完成。

茹で上がったコカトリスの胸肉は白虎様と黒銀くろがね真白ましろがむしってくれた。
熱々でも平気とかすごすぎる。
剥いでもらった皮をむしった身と同じくらいのサイズに切って、身と混ぜ合わせる。
混ぜておかないと皮がくっつくので注意だ。

細切りにしたきゅうりやレタスを皿に敷きつめ、むしったコカトリスを載せてくし切りにしたトマトを飾りつけて、タレをかける。
「よし、コカトリスの棒棒鶏の完成!」

さて、試食……おっと、その前に茹で汁をスープにしなきゃ。
前世では鶏胸肉を茹でた時はスープもセットだったのよね。
疲労回復に効く成分が溶け出しているから、無駄にしたくないし。
使者の人も船旅で疲れてるだろうからちょうどいいと思うの。

今回はシンプルに塩胡椒にごま油、醤油で味付け。仕上げに溶き卵を回し入れてたまごスープに。
さっぱりしているから口直しにピッタリのはず。
スープカップに注いで皆に渡して、と。

「さあ、試食してみましょう!」
それぞれ取り皿に好きな量を取り分け、いただきます。
「わあ! 美味しい!」
「うむ、あっさりしているが飽きのこない味で食べやすいな」
「あら、このタレがかかった野菜美味しいじゃない」
マリエルちゃん、セイ、ルビィは野菜とお肉をバランスよく……いや、ルビィは野菜メインで食べてご満悦だ。

「えー、俺は肉食うならもうちょい食いごたえがあるほうがいいけどなぁ」
「白虎よ、主の料理に不満があるなら食わずともよい。その分我が食うのでな」
「そーだそーだ! おれがたべるからびゃっこはたべなくてもいいよ!」
「あっ、嘘! 冗談だって! 味はもちろん美味いって!」
白虎様は肉の塊を小さく割いたことに不満の様子だったけれど、黒銀くろがね真白ましろに取り上げられそうになって慌てて死守する。

皆の反応を確認してから私もいざ試食。
……うん、間違いない美味しさ。
あっさりしているけれど、濃厚なタレでいくらでも入っちゃう。
これなら野菜もたっぷり食べられていいわね。

それから、卵スープも……はふぅ……美味しい。
シンプルだけど、棒棒鶏の合間に飲むと口の中がリセットされてまた棒棒鶏が美味しく食べられちゃう。
溶き卵を入れてたまごスープにしたのも正解ね。優しい味で、お腹の中がぽかぽかしてきたわ。

「あ、そうだわ! これで味変しましょう!」
マリエルちゃんが名案とばかりにインベントリから取り出したのは、瓶詰めのマイマヨネーズ。
マリエルちゃんは満面の笑みでマヨネーズをスプーンで山盛りに掬い、タレの上にボトッ! と落としてから棒棒鶏に絡めた。

「いっただっきまーす! ……うん、おいひいれす!」
マリエルちゃんは少し咀嚼すると、目を輝かせながらサムズアップした。
マリエルちゃん……
ま、まあ棒棒鶏はマヨだれもあるものね。
確かに味変用に添えて出すのもありかもしれない。でも、その時は量は控えめにするように伝えないと。
さすがにあの量は入れすぎだと思うわ。
私はマリエルちゃんが盛ったマヨネーズの塊を眺めながら適量を考えるのだった。

「さて、次は……」
「ちょ、ちょっと待ってクリステアさん!」
「え? 何かしら?」
マリエルちゃんが待ったをかけた。
「あの、試作はまた明日に持ち越しませんか?」
「そうだな……試食用に少ないとはいえ、夕食を食べているからな」
「あ……それもそうね」
そういえば私もなんだかんだでお腹いっぱいになっていた。
スパイスを調合して色んな味が試せるとあって、少しハイになってしまったようだ。
いけない、いけない。

「それじゃあお茶はどうかしら? 入りそう?」
「ええと、はい。お茶くらいなら……」
「そうだな。茶でも飲みながら今日の試作分の感想でも話し合おうか」
「そうね、そうしましょう? それじゃ、談話室で待っていてくれるかしら。ミリア、お茶を淹れるのを手伝ってちょうだい」
私はミリアに声をかけ、他のメンバーには移動を促した。

「あの、クリステア様? お茶なら私がお淹れしてお持ちいたしますが……」
お茶マスターのミリアにまかせたら美味しい紅茶が飲めるのは間違いない。だけど……
「実はこれも試作の一つなの。これからも飲みたくなったらミリアにお願いしたいから、これの淹れ方を覚えてちょうだい」
「……はい! かしこまりました」
私はキリッとした顔で応えるミリアに微笑んで材料を準備しはじめたのだった。

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