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してやられた?
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サモナール国の料理を作ることになったものの、いったい何を作ればサモナールの王族がお気に召すのやら……
レイモンド王太子殿下とお兄様を見送った後、しばらく部屋に留まってお茶の続きをしながらサモナール国について話し合っていたけれど、サモナール国はドリスタン王国より南にある大きな島で、ここよりもかなり暑い国なのだそう。
香辛料など珍しい食材が豊富で、それら輸出し他国の金属や宝石、そして魔石など、自国で不足している品を輸入しているんですって。
これらの内容は学園入学前に習っていた。
私が知りたいのは、サモナール国ではどんな料理が作られているとか流行りだとかなのに!
「とりあえず私は寮に戻ってサモナール国に関する書物を探してまいりますわね」
アリシア様はそう言うと挨拶もそこそこに立ち去ろうとするので、お土産用に作ったショートブレッドのかぼちゃ味を渡した。
もちろん、レイモンド王太子殿下やお兄様にも忘れずに渡してるわよ。
ほんのりと優しいかぼちゃの甘みが後を引く美味しさに仕上がったと思う自信作だ。
マリエルちゃんは秋の新作は早くもこれで決まりですね! と喜んでいた。気が早いよ!
特別寮の自室に戻ると、魔導電話に着信があったことを知らせる魔石がチカチカと光っていた。
あれ? 実家からだ。
珍しいな、余程のことがないとかけてこないことになっているのに。
不思議に思いながらも折り返し電話をかけると、即座に相手が出た。はやっ!
『クリステア! やっと戻ったか! 其方に話しておくことがあるのだ!』
「お……お父様? 一体どうなさったのですか?」
私は大声で話すお父様の声にびっくりしつつも、用件を尋ねた。
『どうもこうも……クリステア、近々其方に国からとある任務に関する要請が入るやも知れぬが気にせず断りなさい』
「え、それってもしかしてサモナール国の……?」
私が思わず反応すると、電話の向こうからガターン!と何かが倒れる音がした。
執務室の椅子かな?
『サモナール⁉︎ まさか、そんなに早く……はっ! 殿下か!』
「え、ええまあ……今朝早くに王妃殿下から要請があったと……」
『くっ、陛下の動きがなかったから油断していた……ッ! まさか妃殿下が裏で手を回していたとは……』
え、何? どういうこと?
どうやら、お父様は私が料理を作ることに反対していたのだけれど、国王陛下からせめて打診だけはさせてくれと懇願されたのだそう。
しかしながら陛下に好き勝手やらせると、ただの打診のはずがちゃっかり要請に、最悪王命を出しかねないと危惧したお父様は今日一日、陛下がやらかしたりしないようにずっと見張っていたんですって。
それなのに、妃殿下がレイモンド王太子殿下を通じて「お願い」してきただけでなく香辛料の取引が危ぶまれると私の食に対する危機感を煽って了承を得るなど思いもしなかったそうだ。
『……ということは、今頃陛下に了承を取り付けた旨が伝えられているわけか……』
電話越しにはあああぁ……と盛大なため息あが漏れ聞こえた。
「も、申し訳ございません……!」
お兄様の様子からして受けたほうがよさそうだったし、香辛料の輸入がストップされたら困るだろうし……
『ああいや、受けてしまったのならしかたない。私の読みが甘かったのだ。正直なところ週末に其方に何らかのアドバイスを貰おうかと思っていたくらいだ。其方に重責を負わせたくはないが、サモナール国との貿易ができなくなるのはやはり厳しいのでな』
え……やっぱりこの案件、断ったほうがよかったのでは⁉︎
責任重大ってやつじゃないの! やだー!
『そうだ! レシピは其方が考えるとして、当日の調理は料理長に作らせよう!』
お父様がナイスアイデア! とばかりに提案してきた。
うん、私もそれは考えてた。
私が考案しても作らなきゃいいんだもんね。
私を崇拝( )している料理長に代理で作ってきてもらえば万事解決!ってね。
でも失敗したとき料理長のせいになるのはまずいし、万が一料理が気に入られて「料理長をよこせ!」と言われちゃうのも困る……よね?
「あの、レシピを提供して王宮の料理人に作っていただくのではいけないのですか?」
『……其方のレシピは少々特殊な食材を使うことがあるので、レシピを渡すだけで忠実に再現できるとは思えぬ』
うぐぐ、否定できない。
『それに、我が家の料理長なら其方の料理に慣れているし、新作レシピとなれば自分を差し置いて他の者に作らせるわけがあるまい』
うわあ……それも否定できない……
そんなわけで、今回は私が考案したレシピを料理長に伝授し、当日王宮の厨房で料理長の指揮で作られることになった。
料理長は王宮の厨房でも働いていたことがあるそうなので私が慣れない厨房を使うより良かろうというのも選ばれた理由らしい。
そういうことなら安心してまるっとおまかせしちゃおう。
「あ、そうだ! お父様、サモナール国に関する情報がほしいのですけれど。主に食事情で……」
『うむ。早急にまとめて届けさせよう。すまないが頼む。週末はこちらに帰ってきて料理長と打ち合わせするように』
「承知しましたわ」
私はお父様におやすみの挨拶をして魔導電話の通信を切った。
はあ、ただのお礼のお茶会だけのはずがとんでもないことに……
「サモナール国かあ……どんな料理が好まれるのかな? 面倒なことにはなったけどヤハトゥールみたいに新たな食材や料理に出会えるチャンスと考えれば楽しみではあるのよね」
私はサモナール国の未知の料理に思いを馳せつつ、今日の夕食の準備のために階下へ向かうのだった。
---------------------------
いつもお読みくださりありがとうございます!
そしてコメントandエールポチッと感謝です!
急に冷え込んできましたので皆様お風邪など召されませんよう!
レイモンド王太子殿下とお兄様を見送った後、しばらく部屋に留まってお茶の続きをしながらサモナール国について話し合っていたけれど、サモナール国はドリスタン王国より南にある大きな島で、ここよりもかなり暑い国なのだそう。
香辛料など珍しい食材が豊富で、それら輸出し他国の金属や宝石、そして魔石など、自国で不足している品を輸入しているんですって。
これらの内容は学園入学前に習っていた。
私が知りたいのは、サモナール国ではどんな料理が作られているとか流行りだとかなのに!
「とりあえず私は寮に戻ってサモナール国に関する書物を探してまいりますわね」
アリシア様はそう言うと挨拶もそこそこに立ち去ろうとするので、お土産用に作ったショートブレッドのかぼちゃ味を渡した。
もちろん、レイモンド王太子殿下やお兄様にも忘れずに渡してるわよ。
ほんのりと優しいかぼちゃの甘みが後を引く美味しさに仕上がったと思う自信作だ。
マリエルちゃんは秋の新作は早くもこれで決まりですね! と喜んでいた。気が早いよ!
特別寮の自室に戻ると、魔導電話に着信があったことを知らせる魔石がチカチカと光っていた。
あれ? 実家からだ。
珍しいな、余程のことがないとかけてこないことになっているのに。
不思議に思いながらも折り返し電話をかけると、即座に相手が出た。はやっ!
『クリステア! やっと戻ったか! 其方に話しておくことがあるのだ!』
「お……お父様? 一体どうなさったのですか?」
私は大声で話すお父様の声にびっくりしつつも、用件を尋ねた。
『どうもこうも……クリステア、近々其方に国からとある任務に関する要請が入るやも知れぬが気にせず断りなさい』
「え、それってもしかしてサモナール国の……?」
私が思わず反応すると、電話の向こうからガターン!と何かが倒れる音がした。
執務室の椅子かな?
『サモナール⁉︎ まさか、そんなに早く……はっ! 殿下か!』
「え、ええまあ……今朝早くに王妃殿下から要請があったと……」
『くっ、陛下の動きがなかったから油断していた……ッ! まさか妃殿下が裏で手を回していたとは……』
え、何? どういうこと?
どうやら、お父様は私が料理を作ることに反対していたのだけれど、国王陛下からせめて打診だけはさせてくれと懇願されたのだそう。
しかしながら陛下に好き勝手やらせると、ただの打診のはずがちゃっかり要請に、最悪王命を出しかねないと危惧したお父様は今日一日、陛下がやらかしたりしないようにずっと見張っていたんですって。
それなのに、妃殿下がレイモンド王太子殿下を通じて「お願い」してきただけでなく香辛料の取引が危ぶまれると私の食に対する危機感を煽って了承を得るなど思いもしなかったそうだ。
『……ということは、今頃陛下に了承を取り付けた旨が伝えられているわけか……』
電話越しにはあああぁ……と盛大なため息あが漏れ聞こえた。
「も、申し訳ございません……!」
お兄様の様子からして受けたほうがよさそうだったし、香辛料の輸入がストップされたら困るだろうし……
『ああいや、受けてしまったのならしかたない。私の読みが甘かったのだ。正直なところ週末に其方に何らかのアドバイスを貰おうかと思っていたくらいだ。其方に重責を負わせたくはないが、サモナール国との貿易ができなくなるのはやはり厳しいのでな』
え……やっぱりこの案件、断ったほうがよかったのでは⁉︎
責任重大ってやつじゃないの! やだー!
『そうだ! レシピは其方が考えるとして、当日の調理は料理長に作らせよう!』
お父様がナイスアイデア! とばかりに提案してきた。
うん、私もそれは考えてた。
私が考案しても作らなきゃいいんだもんね。
私を崇拝( )している料理長に代理で作ってきてもらえば万事解決!ってね。
でも失敗したとき料理長のせいになるのはまずいし、万が一料理が気に入られて「料理長をよこせ!」と言われちゃうのも困る……よね?
「あの、レシピを提供して王宮の料理人に作っていただくのではいけないのですか?」
『……其方のレシピは少々特殊な食材を使うことがあるので、レシピを渡すだけで忠実に再現できるとは思えぬ』
うぐぐ、否定できない。
『それに、我が家の料理長なら其方の料理に慣れているし、新作レシピとなれば自分を差し置いて他の者に作らせるわけがあるまい』
うわあ……それも否定できない……
そんなわけで、今回は私が考案したレシピを料理長に伝授し、当日王宮の厨房で料理長の指揮で作られることになった。
料理長は王宮の厨房でも働いていたことがあるそうなので私が慣れない厨房を使うより良かろうというのも選ばれた理由らしい。
そういうことなら安心してまるっとおまかせしちゃおう。
「あ、そうだ! お父様、サモナール国に関する情報がほしいのですけれど。主に食事情で……」
『うむ。早急にまとめて届けさせよう。すまないが頼む。週末はこちらに帰ってきて料理長と打ち合わせするように』
「承知しましたわ」
私はお父様におやすみの挨拶をして魔導電話の通信を切った。
はあ、ただのお礼のお茶会だけのはずがとんでもないことに……
「サモナール国かあ……どんな料理が好まれるのかな? 面倒なことにはなったけどヤハトゥールみたいに新たな食材や料理に出会えるチャンスと考えれば楽しみではあるのよね」
私はサモナール国の未知の料理に思いを馳せつつ、今日の夕食の準備のために階下へ向かうのだった。
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