転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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【番外編/モブ視点】とある子爵令嬢の悩める取り巻き生活1

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今回は番外編で、モブ令嬢視点のお話になります~!
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「ねえ、お聞きになりまして? ついにグルージア侯爵家のアリシア様が婚約者争いから離脱するだろうって噂!」
サロン棟で定期的に行われているメーティア侯爵家がご長女フランシーヌ様のお茶会の席で、取り巻きの一人であるトリクシー様が嬉しそうに話し始めた。

おしゃべりで噂好きな彼女はいつもどこからかそういう話を仕入れてはこのような席で王太子殿下の婚約者候補の一人であるフランシーヌ様に告げ口するのよね。

「ああ、エリスフィード公爵家のクリステア様と同じクラスになって、圧倒的な力量差で打ち負かされ、自信喪失したのでは? と噂されていますわね」
フランシーヌ様もすでに情報をつかんでいたのか、事もなげにそう答えたので、話を切り出したトリクシー様は勢いを削がれたように前のめり気味だった姿勢をそろそろと正した。

皆様、どうやってか知らないけれど、よく入学したばかりの下級生の動向まで調べ上げられるわね。
この定例会とも言うべきお茶会の末席に参加させていただいていなければ、常日頃ぼんやりとしている私は話題に取り残され、いずれデビューする社交界ではやっていけないに違いないわ。ああ恐ろしい。

「クリステア様が幼いながらも優秀過ぎるのはしかたのないことかもしれませんわね。ご両親やノーマン様にしてもかなりのやり手ですもの。ですが、アリシア様が婚約者候補を降りたところでエリスフィード家の方々は元々クリステア様を王太子殿下の婚約者にすることを頑なに拒んでいらっしゃる様子。ご夫人は王妃殿下のご学友でいらっしゃるからそこまでではなさそうですけれど、最終的には公爵様のご意向に添われることでしょう」
フランシーヌ様の隣の席に座るご令嬢が、そういうことですから安心なさって、とフランシーヌ様を励ますように言った。

「クリステア様ご本人もその気がないという話ですけれど、どこまで本当なのやら……この国の頂点に立てるというのに、それを拒むだなんてありえますかしら?」
フランシーヌ様が懐疑的な表情で紅茶のカップを手にした。

「確か、クリステア様は入学の際に魔力計測機が暴走するほどの魔力の持ち主でしたわね。加えて、聖獣契約者……本人が望んでいなくても、王族命令であれば断れないのでは?」
不用意な他の取り巻き令嬢の言葉に、フランシーヌ様の眉がぴくりと上がった。
これはまずい。

「そ、それはないと思いますわよ! だってその昔、陛下とエリスフィード公爵夫人は元婚約者だったにも関わらず、陛下の要望で婚約破棄となったのですもの。お二人の親友だったエリスフィード公爵が夫人を娶り、陛下と恋仲の下級貴族だった王妃殿下を夫人のご実家の養女にして嫁がせたことでなんとか丸く収まったということですから。王家としてはクリステア様を王太子殿下の婚約者にすれば過去の清算もできてさらに安泰だというのに、当のエリスフィード公爵家がそれを拒んでいるのですもの。王家も無理にとは言えませんわ」
慌てて他のご令嬢が捲し立てるように早口で否定すると、フランシーヌ様もその言葉で落ち着いたようでカップを置いてメイドに目くばせした。

部屋の隅に控えていたメイドが素早く新しい紅茶を淹れ、フランシーヌ様のお席にサーブするのを眺めつつ、フランシーヌ様の次の言葉を待った。

陛下ご夫妻と公爵ご夫妻のあの話ってやっぱり本当なのね。
うちの両親はぼんやりしてるから、そういう醜聞的な話題にも疎いのか殆ど聞かされてなかったから、そんなの嘘でしょ⁉︎ って思ってたのに。
私も両親に負けず劣らずぼんやりしてるわ。気をつけなきゃ。

「……そうね。王家とエリスフィード公爵家の関係は今や親密過ぎるほどだから、今後の勢力争いの観点からしてもクリステア様のお輿入れは好ましくない、というのが我々の総意であり、エリスフィード公爵家の早過ぎる婚約辞退もそれに同意したものであるがゆえと判断していました。ですが、それぞれの派閥の牽制によって王太子殿下の婚約者は今まで決められずにいたのが現状です」

そうそう、派閥でものすごくいがみあってるものね。
だから、どこかの派閥に入っていないと学園生活が平穏無事に過ごせないわよって従姉に忠告されて、寄親でもあり当時有力候補の一人だったメーティア公爵家のフランシーヌ様の取り巻きに入れていただいたのよねぇ。

本当なら読書好きな私としてはこんなお茶会に参加するより、図書館で本を読んで過ごしたいのに、我が身可愛さに渋々参加している
というわけ。はあ……

「ところが、いざクリステア様が学園に入学してみれば、幼子の頃から暴走を起こしかねないほどの魔力量をあの年齢で巧みに制御するだけではなく、初級以上の魔法を早くも使いこなす優れた才能を持っていると聞き及びました。それに加えて聖獣契約……しかも、複数だなんて……エリスフィード公爵家にその気はなくとも、それほどの人物を王家、いえ王国が見過ごすわけにはいかないでしょう」

ひえ……こうして改めて考えたら、クリステア様ってあんなに幼い印象なのに私より凄くない?
まるで物語の主人公みたい。
そういえば、聖獣契約者として発表された時も聖獣様方を従えて堂々としていらっしゃったっけ。すごいなぁ。
まあ、しがない子爵令嬢の私と比べるのも烏滸がましいけれども。
高位貴族って、生まれだけじゃなく才能も優れてるのねぇ。
こんなふうに皆様から嫉妬もされるから大変だろうけど……

「それゆえにアリシア様も焦ったのでしょうね……私だってクリステア様の存在は脅威に感じましたもの。ましてやアリシア様はクリステア様と同い年、同じクラス……同情はいたしますが、勝手に潰れてくださるのならばそれはそれとして好都合ですわ」
ふふ、と笑って淹れ直した紅茶を啜った。
こ、こわ……

「そうだわ、フランシーヌ様! この際ですからアリシア様を徹底的にやり込めてはいかがかしら!」
トリクシー様が名案とばかりに発言した。
ええ……? やり込めるって、入学してきたばかりのまだ幼い令嬢に何をしようっていうのよ。

「……やり込めるだなんて、穏やかではありませんわね。具体的に何をなさるおつもり?」
フランシーヌ様はトリクシー様を嗜めながらも少し興味があるような素振りを見せた。

「そうですわね……アリシア様の現在の取り巻きは同級生が数名、後は上級生にも支持者がいますけれど、彼女たちにはアリシア様はもう見込みがないとよぉく教えて差し上げるのはいがかでしょう? 従える者もなく孤立した状態では王太子妃候補として相応しくないと思いませんか?」
トリクシー様が意地悪く笑った。
ひえ……小さな子をそんなふうに孤立させて追い詰めるとか酷くない?
まだ入学していない私の弟妹がそんな目にあったらと考えたらぞっとした。

「……私は特に賛成はしませんけれど、確かにアリシア様を支持される方たちは今後の身の振り方を考えたほうがよろしいかもしれませんわね」
フランシーヌ様は自分は興味ないけれどやりたければ勝手におやりなさいな、と受け取れるような態度で答えると、トリクシー様は許可を得たとばかりににんまりと笑った。

「フランシーヌ様のご配慮、私がしかと引き受けますわ!」
「……私は関与しませんからそのおつもりで」
「もちろん心得ておりますわ! 私が真に王太子妃に相応しい方はどなたなのか、分からず屋の方々に知らしめるだけのことですもの!」
トリクシー様は席の近くにいる方々と作戦を練り始めた。

えええ……フランシーヌ様、止めないの⁉︎
フランシーヌ様はトリクシー様たちを嗜めるでもなく、そのまますましたようなお顔で隣に座る一番お気に入りの取り巻きのご令嬢たちと歓談しはじめた。
私を始め、トリクシー様の発言に戸惑う数名のご令嬢と目を泳がせつつ、不穏な気配にこれからどうなるのかと不安を隠せずにいた。

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すみません、不穏な気配のまま、続きます……!


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