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おや?

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「うっま! なんだよこれめちゃくちゃ美味いじゃん!」
エイディー様にクリア魔法のコツを伝授し、生卵のビジュアルに怯みながらも恐る恐る食べたところ、このセリフである。
エイディー様、ちょろいわぁ……

まずひとくち食べるまでに時間がかかったけれど、セイが実食してみせたことが後押しになったみたい。
セイが慣れた様子で食べ始めるのを見て負けてられないって思ったらしい。

マリエルちゃんが「うふふ、美味しいですね、色々と……」などと頷きながら慈愛の微笑みでエイディー様とセイの二人を見つめていた。

そんな腐女子なマリエルちゃんを騎士科の皆様が「可憐だ……」「ギュードンに迷える我らを救いし聖女の微笑み……かわいい」などと呟いて見惚れているけれど、もはやマリエルちゃんのいつもの癖にツッコミ疲れた私は、知らないって幸せなことよね……と遠い目をしていた。

ヘクター様、つゆだくギョク入りのギュードンをせっせと頬張りながら「お前ら、店の迷惑になるから食べたらさっさと出ないか!」と騎士科の後輩たちを追い出そうと必死にならなくてもいいんですよ……
マリエルちゃんの関心を得たければ、男子生徒と親密にしてたらいいと思いますよ……言わないけど。

セイとエイディー様も食べ終わり、そろそろ午後の授業のために移動しようかと思ったところで奥の個室から人が出てきた。
「あっ……!」
靴の踵をカツカツと鳴らしながらこちらを歩いてきた集団は、今朝アリシア様に絡んできた上級生の女生徒たちだった。

あちらも私たちがいることに気づいたようて、ぴたりと歩みが止まった。
うわー、どうしよう。
テーブルに残された、すっかり空になった丼(に見立てたボウル)や卵の殻で私たちが何を食べたのかは一目瞭然だ。
「まあ、貴女方ったら、やっぱり悪食でしたのね?」なんて嫌味を言われかねない。

今朝のやりとりを思い出してうんざりしていると、リーダー格とおぼしき例の女生徒が口元を扇子で隠し、目を逸らしながらボソボソと話しはじめた。

「ラ、ラースを使ったお料理は、い、意外と食べられるものでしたわ、ねぇ皆様?」
……ん?

「え、ええ! さすが、殿下が召し上がられるだけありますわぁ」
……は?

「殿下が召し上がられるものに対して悪食なんてあり得ませんわよね? 私たちとんだ誤解をしてましたわ」
……ええ?

「あら、クリステア様、アリシア様。ごきげんよう。お先に失礼いたしますわ~ほはほ」
令嬢たちは口々にラース……ごはんをわざとらしく褒めそやしてからそそくさと立ち去った。

「……何あれ?」
私が呆然として見終ると、アリシア様が小さくクスクスと笑った。
「今朝、自分たちが悪食と揶揄した相手の料理を殿下が召し上がられていると聞いて、それほどまでにお二人が親しいことに驚き、恐れたのでしょう。このままでは自分が不敬で罰せられるだけでは終わらなかったかもしれませんし、あえて自らが身体を張ってラースに挑んだのは賢明かもしれませんわね」

「……といいますと?」
「彼女たちの愚行が殿下のお耳に入るということは、ノーマン様のお耳にも入るわけでしょう? いえ、殿下より早く情報を掴んで即座に対策に動かれるのでは?」
え、対策って何の⁉︎
怖くて詳細を聞きたくないのですが⁉︎

「実は私も、入学当初サロン等でクリステア様に失言した後日、憶測や思い込みで相手に八つ当たりのように発言するのは淑女の行いとしても感心しないと親から注意を受けましたの。しばらく大人しくしているようにと」
「え?」
「……当初はクリステア様がご両親を通じて我が家に抗議なさったのかと憤慨していたのですが、今思うにあれはノーマン様が動かれたのでしょうね」
私の「初耳なんだけど⁉︎」と言わんばかりの反応にアリシア様はくすりと笑った。

「……過保護な兄と父が失礼いたしました」
「とんでもない。私が愚かなだけでしたわ」
二人で顔を見合わせると、自然とクスクスと笑いあった。

「なんだ。アリーはまだクリステア嬢につっかかってたのか?」
「ち、違いますわよ! クリステア様とはお友達になりましたもの。エイディーったら誤解を招くような発言はやめてくださるかしら⁉︎ もう!」
「そっか。よかったな」
「……余計なお世話ですわ」
アリシア様が照れくさそうにツンとそっぽを向くと、エイディー様がちえっと唇を尖らせた。

「アリーって可愛いのに、時々こうしてツンツンして可愛くないよなぁ」
「は? はあ⁉︎ 貴方一体何を言い出しますの⁉︎」
「だって自分ちでもふもふした動物を可愛がってるときはめちゃくちゃ可愛いのに、こうして俺が何が言ったら怒るじゃん」
「それは! あ、貴方が一言も二言も余計なことを言うからですわよ! もう……もう!」
おや? おやおやぁ?

「クリステア様、マリエル様、午後の授業に遅れますわよ! 参りましょう!」
「え、あ、はい!」
顔を真っ赤にして怒りながら出口に向かうアリシア様を慌てて追いかけつつ、取り残されたエイディー様をチラッと見ると、セイに頭を小突かれていた。
うん、セイグッジョブ。

私はマリエルちゃんと顔を見合わせてこくりと頷き合ったのだった。

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