上 下
309 / 382
連載

許さないんだから!

しおりを挟む
夕食後、皆で片付けを分担して手早く終わらせてから男子寮に戻るお兄様たちを見送った。

あの後、二人とも「いいからいいから」と言いながら後片付けまで手伝ってくださったのよね……王太子殿下に皿洗いさせた私は不敬罪に問われたりしない? 大丈夫?
王太子殿下に皿洗いさせて不敬罪に問われる公爵令嬢とか、意味不明なんだけど……

ちなみに、レイモンド王太子殿下はうっかりお皿を落として割ってしまって、慌てて「弁償する!」と金貨を出してきたので断るのに苦労したよ……
弁償するというお気持ちだけいただいて、お引き取り願った。

特別寮にある食器類は、お手伝い初心者の皆がガンガン割ってしまったこともあり、マリエルちゃんのお父様が経営しているメイヤー商会に手配していただいたお値打ち価格の量産品を大量購入しているので問題ない。

聖獣の皆様は器用だから食器の扱いはすぐに慣れたけど、ついつい力加減を間違えてうっかりヒビや欠けが……なんてこともあるし、ごく稀に余ったおかずを器に盛ってマジックボックスやインベントリに収納することもあるので、気兼ねなく使える安価なものに切り替えたのだ。

だから、金貨一枚なんて貰いすぎになっちゃうからいただけないよ。
別れ際お兄様にくれぐれもレイモンド王太子殿下が暴走して買ってきたりしないようにと念押ししておいたのできっと大丈夫だと信じたい。

お見送りを終えて、自室に戻ろうと階段に向かうと、ルビィが階段の手すりに座って待ち構えていた。
「クリステア、今ちょっといいかしら?」
「ルビィ? いいけど……ここで立ち話も何だから部屋に行きましょうか」

私がそう言ってルビィを抱き抱えると、私の背後にいた黒銀くろがね真白ましろから不穏な気配を察知した。
「カーバンクル風情が主に抱かれるなどと……!」
「くりすてあのだっこは、おれのとっけんなのに……!」
いやいやいや。
まったくもう、二人の独占欲の強さは相変わらずなんだから。

二人に釘を刺しておこうと思った矢先に、ルビィが大きな耳をピピッと震わせ上機嫌で言った。
「……あらぁ? どこからか激しい嫉妬を帯びた魔力を感じるわねぇ? うふふ、ゾクゾクして楽しいわぁ」
……ルビィの強心臓を緊張で噛み噛みになるマリエルちゃんに分けてあげてほしい。

自室に戻った私たちは、ミリアにお茶を頼んでソファに座った。
「それで……マリエルさん抜きで一体何のお話かしら?」
ルビィには野菜スティック、黒銀くろがね真白ましろにはどら焼きを出してあげてながら聞いた。
「うふふ、まあ大したことじゃないんだけど、さっきの話でちょーっとアナタの耳に入れておきたいことがあってね」

「さっきのって……」
「アナタやマリエルが狙われてるって話よ」
「ああ……」
トリ……トリ……さっき聞いたばかりなのになぁ。えーと、もうトリなんたらでいいや。
トリなんたらをはじめとして私やマリエルちゃんを取り込もうと画策してるって話よね。
そ新興貴族で男爵令嬢のマリエルちゃんは婚約者ならいざしらず、妾にしてやろうなどという不心得者もいるらしい。

「実際にサロン棟のロビーで揉めていたときもトリニアンのようなヘマをしないよう気をつけつつ、どうにかしてアナタたちと接触して自分たちの家に取り込めないか? なーんて考えてる子たちがいたもの」
げげ、トリなんたら以外にもやっぱりいたんだ。

「今日は女子会を優先したからあのまま放置したんだけど、今夜にでも偵察に行ってアナタのお兄様にその子たちの情報を流すつもりよ」
ルビィはそう言って人参スティックをぽりぽりと齧る。

「あ……ありがとうございます。でも、無理はしないで、ほどほどにしておいてくださいね。ルビィが誰かに危害を加えたりしたことがバレたら、主人であるマリエルさんが罰せられますからね」
「わかってるわよ。ワタシの姿は認識阻害魔法で見えないようにするし、アナタのお兄様にちょこ~っとだけ不利な情報を流すだけよ」
ルビィが設定している「ちょこっとだけ」のレベルが低いことを祈りつつ、頷いた。
私やマリエルちゃんには頼りになる聖獣ボディガードがいるのだけれど、逆に過剰防衛になりやしないかとハラハラするので本当に、本当にほどほどにしてほしい。

「ああ、あと他にもね、アリーはアナタに負けたようだから、もはや敵ではない。だからこの機会に潰してやれ、なんて考えてるのもいたわよ」
「な……アリシア様を潰すですって⁉︎」
思わず立ち上がりそうになったけれど、膝に真白ましろを載せていたのに気づいてかろうじて堪えた。

「うーん、学年を表すリボンの色がアナタたちとは違ったからきっと上級生ね」
「上級生……」
レイモンド王太子殿下の年齢を考えれば、アリシア様以外にも候補に挙がっているご令嬢は何人もいるだろうから、きっとその中のどなたかなのだろう。

私は婚約者候補なんて前々から否定しているし、アリシア様とお友達になって、漸く誤解がとけたと喜んでいたのに。
「やっとアリシア様と仲良くなれたばかりなのに……、貴族って、本当にめんどくさい……」
「ほんと、そうよねぇ。それで、言っておくけど、アナタたちはワタシたちで護るにしても、アリーまで護りきるのは無理よ」
「えっ」

「えっ、じゃないわよ。ワタシたちはあくまでも契約した主人を護るの。その周囲にいるのはオマケでしかないの。主人を悲しませないために多少動くことはあってもオマケを守って主人ほんめいを護りきれなかったんじゃお話にならないもの」
「う……」
ルビィの言い分はもっともだ。
黒銀くろがね真白ましろもルビィの言葉にうんうんと頷いている。

「だからね、アリーには警戒するように伝えなさい。アリーなら相手も見当がつくでしょうからうまいことやるわよ」
「わかりました」
「マリエルに忠告させようと思ったけど『私ごときがそんなことアリシア様に言えるわけない!』って頑なに拒むから……」
じゃあよろしくね、と言ってルビィはソファからピョンと降り、帰っていった。

主人以外は護りきれないと言ってたけれど、こうして忠告してくれるあたり、アリシア様のこと気に入ってるんだろうなぁ。

それにしても、アリシア様を潰す……?
せっかくできたばかりのお友達を酷い目に合わせようなんて許さないんだから!

---------------------------
いつもコメントandエールポチッとありがとうございます!
励みになっておりますー!
しおりを挟む
感想 3,364

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。