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……怖っ!

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アリシア様を落ち着かせてから、手土産を持たせてサロン棟のロビーで別れた私たちが特別寮に帰ると、お兄様とレイモンド王太子殿下が談話室でセイたちと待っていた。

「お兄様! ……と、レイモンド王太子殿下⁉︎」
「テア、おかえり。お茶会は楽しめたかい?」
「や、やあクリステア嬢。お邪魔してるぞ」
悠然と微笑むお兄様と落ち着かない様子のレイモンド王太子殿下。
セイの隣には白虎様もいらっしゃるし、さっきまで黒銀くろがね真白ましろもいたのだろうからレイモンド王太子殿下がそわそわしていてもしかたないわよね。

「ええ、アリシア様と楽しい時間が過ごせましたわ」
レオン様がいらしたことでプチパニックにはなったけれど。
……レイモンド王太子殿下には報告しておいた方がいいのかしら?

「それはよかった。それで、さっきの騒ぎのことなんだけど……今話しても大丈夫かな?」
さっきの騒ぎ……えーと、トリ……トリなんたらって人のことよね?
「ええ、もちろんです」
「ありがとう。じゃあ二人とも座ってくれるかな?」

お兄様の言葉に私たちは頷いて、空いている席に座った。
ルビィがマリエルちゃんの膝の上で寛ぐ様子を見た黒銀くろがね真白ましろが聖獣の姿に戻ってそれぞれ私の足元と膝の上を確保したのをお兄様とレイモンド王太子殿下が引き攣った笑顔で見守っていた。黒銀くろがねたちったら、ルビィに対抗しなくてもいいのに。
お兄様たちに呆れられてしまったじゃないの、もう!

「コホン、……ええと、さっきの男子生徒のことだけど、彼はガドリー侯爵家のトリニアンといって、テアが聖獣契約をしたことが学園内で公になると真っ先に誘いをかけてきた貴族のひとつだ」

あー、そうそう! トリニアンだ!
そういえば以前わたしをお茶会に招待したって言ってたっけ。
お母様が全部シャットアウトしてたから、私は誰に招待されたとかわからないから困っちゃった。
これからもこういうことがあるのなら対策を考えないと。

「母上からの情報によると、内々に婚約の打診もあったそうだ。もちろん、丁重にお断りするよう母上には頼んだよ」
お兄様お兄様、笑顔で冷気を放つのはやめませんか?
レイモンド王太子殿下が何故かうんうんと頷きながら寒そうにしているのですが⁉︎

「だけど諦めていなかったみたいだね。ガドリー家は男兄弟ばかりで殿下の婚約者候補にねじ込める子女もいなかったから、聖獣契約者のテアを娶ることで政治的に優位になろうとしたみたいだ」
お兄様がチラッと見ると、殿下は不貞腐れたような顔をした。
「……俺のせいみたいに言うなよ。しかし、全くもってけしからんことだ。そんなくだらん理由でクリステア嬢に近づこうとは!」
「ええ、万死に値しますね」

うーん、うっすらとそうだろうなーとは思っていたけれど、学園長から全校生徒・職員に盛大に釘を刺したにも関わらず、アリシア様とのお茶会を拡大解釈して私との交流が解禁されたとしてちょっかいかけてくるとか……
向こう見ずというか、何というか。

「彼にはまだクリステアをはじめとした聖獣契約者には身内や君たちが認めた友人などの関係者以外の接触は現状許されていないと改めてあの場で皆に説明したよ」
「ああ。俺からも念押ししておいた」
「あ、ありがとうございます、お兄様、レイモンド王太子殿下」

「テアのためならこれくらいなんてことないさ。でも彼はまだ諦めていないみたいだから気をつけてほしい」
「え、お二人がそこまでおっしゃっているにも関わらず、ですか?」
「うん、まあ……テアは大丈夫かもしれないけれど……マリエル嬢が危ないかも」
お兄様の言葉にマリエルちゃんがギョッとした。

「え⁉︎ え……ええ⁉︎ わ、わわ私でしか? ……ですか?」
噛んだ。相変わらず慣れてない人相手だとこうなっちゃうのよね。
「そうなんだ。サロン棟で注意したのが僕と殿下ということもあって、テアに手出しするのは禁止だけど、男爵令嬢のマリエル嬢は上手いこと御せれはなんとかなる、と思っている輩が少ないながらもいそうなんだよね」
あー……トリ……トリニ……トリなんたらのあの曲解の仕方を考えたらありそうだわ。

「それでも正式に婚約を申し出るならましなほうで、失礼な話だけど身分的に側室や妾にと思う家もあるかもしれない」
「そっ側室にめめめ妾⁉︎ そ、そんなあ……」
マリエルちゃんが半泣きになりながらルビィをギュッと抱き込んだ。

思い切り強く抱きしめたのか、ルビィが転移でマリエルちゃんの腕の中から脱出してそのままマリエルちゃんの頭上に現れた。
あ、マリエルちゃんの頭をべべべッと何発か蹴ってから肩に着地した。うわあ、痛そう。

「いったいわね、もう!」
「痛ぁ……ルビィも酷いよぉ……」
ルビィは痛みとショックでべそをかくマリエルちゃんの顔を前脚で自分のほうに向かせた。
「んもう、シャキッとしなさいよマリエル! ワタシが付いててそんなことさせるわけないでしょ⁉︎ ワタシを誰だと思ってんの?」
「ふえぇ、ルビィ……」
「ああほら、そのみっともない顔なんとかしなさいよね」
ルビィはインベントリからハンカチを取り出すと、マリエルちゃんの顔にグリグリと押しつけた。

「うぶぶ、酷いよルビィ……でもありがと」
「まったく世話の焼ける子ねぇ。ワタシはアナタの聖獣なんだから、アナタを当たり前のことでしょ。そもそもアナタが気をつけてドジ踏まなきゃ問題ないんだから気をつけて行動しなさいよね!」
「うう……善処します」
うん、マリエルちゃんにはルビィがいるから大丈夫だと思うけど、私もマリエルちゃんの周囲には気をつけておこうっと。

「……ええっと、マリエル嬢の身の回りは大丈夫そうだね。もし必要ならエリスフィード家からメイヤー家に護衛を派遣しようかと思うのだけど、どうかな?」
お兄様がマリエルちゃんとルビィのやり取りに困惑しつつも提案した。
さすがお兄様! マリエルちゃんの対策も考えてくださってたなんて! 優しい!

「あらっ! アナタ気がきくわねぇ。そうねぇ、マリエルの家族に何があってもいけないからお願いしたいわ。あと、マリエルに害を及ぼしそうな奴らのこと教えてくれたらワタシがなんとかす・る・わ・よ?」
ルビィがお兄様の膝に転移して、お兄様の胸にしなだれかかった。

「……精神関与系の魔法の使用はご法度ですよ?」
「えー? いいじゃない。ね? そいつらの悪事をぜーんぶぶちまけさせて、なんなら全員アナタたちのいうことをよく聞くいい子に改造しちゃうからぁ」
ちょっ、ルビィったら物騒すぎる発言はやめよう⁉︎ 殿下の前だよ⁉︎

「……ダメです。ああでも、彼らの悪事を詳らかにするのは興味ありますね……お願いしても?」
「あらぁ? それってワタシとマリエルに利があるのかしら? ワタシたちに都合の良くない奴らをいい子に改造しちゃだめなんでしょ?」
「……メイヤー家の護衛だけでは足りませんか?」

「あー……そっか、それがあったわねぇ……まあ内容によっては教えてあげる。いちいち全部報告するのは面倒だもの」
「今のところはそれで満足しましょう。よろしくお願いしますね」
そう言ってお兄様とルビィは握手を交わした。
レイモンド王太子殿下がそんな二人を横目に見ながら「……怖っ」と呟いていた。
うん、私もそう思います。怖っ!

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