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あつがすごい⁉︎

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気絶したアリシア様を急遽控えの間のソファに寝かせて様子を見ていると、すぐに気がついたので私とマリエルちゃんはホッと胸を撫で下ろした。

「……? わ、私……?」
「アリシア様! よかった……気分はいかがですか?」
「ええ、平気ですわ……あの、クリステア様。先程突然現れた方は、もしや……?」
アリシア様が恐る恐るといった様子で質問してきた。

レオン様の絵姿は歴代の国王と共に描かれているものの、そのどれもが獅子の聖獣姿ばかりなので、人型になれることとその姿を知る者は王宮の中でもひと握りだけなのだそうだ。
だから、アリシア様がレオン様の人型の姿を知らないのは無理もないわよね。

「ええ。あの方がドリスタン王国を守護する聖獣レオン様ですわ」
「レオン様のご尊顔を拝することができただなんて……何という僥倖! ああ……それなのに、私ときたら気を失ってしまうとは情け無い……っ」
アリシア様は頬を紅潮させて喜んだかと思うとすぐさまへにゃりと泣きそうな顔になってしまった。
さっきからアリシア様の感情がジェットコースターみたいな状況なんだけど、大丈夫かしら?

「あ、あの、アリシア様? 先程のことはしかたのないことかと……魔力の圧がものすごかったですし」
マリエルちゃんがハンカチを取り出し、慰めるように半泣き状態のアリシア様に手渡した。

「魔力の圧?」
……って、何のこと?
「気づいてなかったの? んもう、鈍い子ねぇ。アナタの聖獣たちとレオン様とやらの魔力がぶつかり合って私たちに反動が来てたってのに! マリエルはワタシが魔力の圧にあてられないよう咄嗟に庇ったからいいけど、アリーは正面からモロにくらったから気絶しちゃったのよ?」
「ええ⁉︎」

そんなことになってたの⁉︎
「くりすてあはおれたちがまもってたからもんだいない」
「うむ。そもそも主はあの程度であれば大した影響はなかろうよ」
いや問題ない、じゃないでしょお⁉︎
ミリアはたまたまレオン様へお茶を用意するために茶器を取りに部屋を離れていたからよかったものの、アリシア様だけが大変なことになっちゃったじゃないの!
朱雀様は私の護衛役だったから、アリシア様を庇わなかったことに文句は言えないし!

「アリシア様、もうしわけございません!」
黒銀くろがね真白ましろ、そしてレオン様との魔力のぶつかり合いが原因でアリシア様が気絶してしまったのなら、二人の主人である私の責任だ。
「クリステア様のせいではございませんわ。ですが……クリステア様のご忠告してくださったように聖獣契約が逆に不利となることは間違いないのですわね……」

不利? ああ、レイモンド王太子殿下の婚約者候補の件ね。
「少なくとも有利に働くことはないかと存じます。契約した聖獣様がレオン様と親しくなれば別でしょうけれど……」
うちの子たちは無理だろうけど。
そう心の中でツッコミ入れたと同時に黒銀くろがね真白ましろがズイッと前へ出た。

「ふん、彼奴は我にとって因縁のある相手ゆえ馴れ合うつもりはない」
「おれもー。あいつのことはあんまりすきじゃない」
「……だそうです」
やっぱりねー! そうだろうと思った!

だけど黒銀くろがね! レオン様と因縁があるとか言わないように!
建国記で建国前にレオン様と戦ったと言われるフェンリルが黒銀くろがねだって、勘のいい人ならそれだけで気づかれかねないからね⁉︎

「……そうなのですか」
アリシア様の表情に影が落ちた。
「あの……? 何かご心配ごとでも?」
「えっ? いえ何も……あの、聖獣の皆様にお聞きしたいのですが……」
私の問いかけにすぐ否定したものの、やはり気がかりなことがあるみたいだ。

「あら、何かしら?」
ルビィが無反応な他の聖獣たちに代わって返事をすると、アリシア様は
「聖獣ではなく……小さな魔獣や小動物の場合もダメなのでしょうか?」
「え? 魔獣はともかく小動物も?」

「はい。先程の魔力の圧は不意打ちとはいえ、咄嗟に受け止められるものではございませんでしたわ。もし、弱い魔獣や小動物なら……」
アリシア様が持っていたハンカチをギュッと握りしめ、それがマリエルちゃんのものだったとはたと思い出したようで、慌てて広げて手でのばしていた。

「ああ、アリーのペットが死んじゃったりしないかってこと?」
「あ……あの、ええ。そうですわ。候補の一人でしかない私がそんなことを気に病んでもしかたないのですが……」
なるほど。アリシア様はもふもふ好きだから、ペットまで嫉妬の対象にならないか心配だよね。

……黒銀くろがね真白ましろは黒猫の姿になってほぼ無力化した輝夜かぐやですら排除したがってるからなぁ……
でも、朱雀様や白虎様は輝夜かぐやを疎ましがってはいないし、むしろ面白がっているから、個体差があるのかな?

「うーん、主人マリエル|の魔力に影響がないような弱っちいのだったらワタシは別に気にしないけど。問題は魔力の圧に耐性のない子たちね。さっきので気絶どころか息の根が止まる可能性がなきにしもあらずね」
「そ、そんな……」
アリシア様がルビィの言葉にショックを受けていた。
自分が大切にしているペットたちの命に関わるかもと聞かされたらそりゃあショックよね。

「あら、それは上手く慣らせば問題ありませんことよ?」
壁際で様子を見ているだけだった朱雀様がことも無げに言った。
「そ、それは本当でございますか⁉︎」
アリシア様がすがるような目で朱雀様を見つめた。
「ええ。ですが……例えば私の場合、まずわずかな魔力で格上である私に服従させるところから始めて、少しずつ魔力に慣れさせる必要がございます。一気に慣れさせたいところですが、それだとキュッと一瞬で儚くなってしまう個体がおりますので慎重にことを進めなければなりませんわね」

そういえば、魔物学の実習棟に見学に行くことになった時、朱雀様がそんなことしてたっけ。それで、朱雀様の羽根をいただいて、ポケットに忍ばせておけば、黒銀くろがね真白ましろたちに契約していることをほのめかマーキングされている私たちが近寄ってもパニックにならないようにしていただいたんだっけ。

「ですが、それでは私が行ったテイムが解除されてしまったということなのでは……?」
「そこは私の腕の見せどころと申しましょうか……あくまでも主従関係は元のまま。けれど、有事の際はいざという時は私に従うように教え込みますのよ? ですから、がない限り、問題ございませんわ」
朱雀様はそう言って嫣然と微笑むけれど、問題大アリだよ。

それって、普段はよく躾けられ言うことを聞くペットが、ある時朱雀様の命令で自分に牙を向ける可能性があるってことだよね⁉︎
怖すぎるんですけど⁉︎
アリシア様もその微笑みの真意がわかったのか、顔が引き攣っていた。
「そ、そうですの、ね……?」

「ええ。一度はレオン様に服従させることで、己の全てを王家に捧げますという証明にもなりますわよ?」
「私を……捧げる?……そ、そんな⁉︎ 私はまだ候補の一人でしかございませんし、そんな、私を捧げるなんて恐れ多くて……」
アリシア様は真っ赤な顔を両手で隠すようにして上目遣いで私の方を見た。

うわー! 可愛い!
さっきまで泣きべそをかいてたせいでうるうるとしたお目目に見上げられた。
うわあ! その顔を殿下に向ければイチコロだと思うんですけど⁉︎

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