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トリなんたらの処遇をお兄様たちにおまかせした私たちは、エリスフィード家が在学中に貸切にしている部屋に移動した。
この部屋は私とお兄様しか使わないので、定期的な掃除をミリアの監督のもとバイトにお願いしている以外に人の出入りはない。
入学してすぐに一度だけ利用しただけだったので、ミリアの案内に従ってそれぞれの席に着いた。
「アリシア様、お茶会の前に不愉快な思いをさせて申し訳ございません」
楽しいお茶会の前に気持ちを切り替えようと思い、アリシア様に謝罪すると彼女は沈痛な面持ちで頭を振った。
「いいえ、今回のことは私が原因です。私の方こそ皆様に謝罪しなくては」
そう言ってアリシア様が頭を下げた。
「そんな、アリシア様は巻き込まれただけではありませんか。そもそも私がお茶会の誘いを断ったことが原因ですもの」
断ったのは両親で、どこの誰のお茶会を蹴ったとかは詳しく知らないんだけどね……
「ですが今回、ガドリー家のトリニアン様が動きを見せたのは私のせいですわ」
「え、そんなことは……」
「トリニアン様がおっしゃってましたわよね? 私とお茶会をすると聞いて解禁になったのかと思った、と……」
確かに言ってたわね、我が家と敵対してるグルージア家と、とわざわざ強調していたし。
「今朝、クリステア様からご招待いただきましたでしょう? そのことがランチタイムに食堂で噂されておりましたの」
そういえば、お誘いしたのは今朝の話なのにトリなんたらたちがその話題を出すのは早すぎるわよね。
「特別クラスの教室で私たちのやりとりを聞いていた誰かが情報を漏らしたのでしょう。誰かは大体見当がつきますけれど」
えっ? 私はさっぱりわからないけど⁉︎
「ああ、おそらく商会の子の誰かでしょうね。懇意にしている貴族の生徒に情報を流す約束でもしていたのでしょう」
マリエルちゃんがあーわかるわかる、といった様子で頷きながら言うとアリシア様がそれに応えるように頷き返す。
えっ! マリエルちゃんにはわかったんだ⁉︎
……私、そんなに鈍いのかな?
「敵対していたはずの私とお茶会を……と聞いて、社交とお互いの牽制が始まったのでは? と噂になっているようですの……その、私が王太子殿下の婚約者の座を諦めていないことは周知の事実ですから」
アリシア様がほんのり顔を赤らめ、気まずそうに言った。
え……可愛い! アリシア様可愛い!
なんであんなに口の悪いレイモンド王太子殿下がこんな可愛い子にモテてるのかさっぱりわからないよ!
私は王太子妃とか全くなりたくないので安心してほしい!
「あの……私は本当にレイモンド王太子殿下の婚約者候補になることはそれこそ生まれてすぐに辞退しておりますし、今でこそ魔力暴走が抑えられるようになりましたけれど、社交の方はさっぱりですし、王太子妃なんてとてもじゃないけれど務まりません」
「ですが……資格としては最有力と言っても過言じゃございませんでしょう?」
過言だよ! 私に王太子妃なんて務まるわけないじゃないの。
「私としてはその気は全くございませんし、そもそもその器ではないと自覚しております。アリシア様のようにそのために日々研鑽されている方のほうがふさわしいと思います」
「でも……私ではレイモンド王太子殿下の隣に立つには力量が足りません」
アリシア様はまっすぐ私を見て言った。
「なぁにつまんないことちんたら言い合ってるのよ? 力量? ワタシから見たらどっちもチンケな小娘でしかないんだからここでぐだぐだ譲り合っててもしかたないでしょ?」
「ルビィ! 黙って!」
ルビィがクッションを積み上げた席で気だるそうに言い放つのをマリエルちゃんが慌てて止めようとした。
「なによ。クリステアは婚約者候補とやらに興味なくて、アリーは逆になりたいんでしょう? クリステアが今後どうするかは知らないけれど、アリーは選ばれるよう努力するしかないし、クリステアはそれに協力してあげたらいい話なんじゃない?」
「ルビィったら、そんなに簡単なことじゃないのよ……」
マリエルちゃんが困ったようにルビィを見る。
「マリエルさん、ルビィの言う通りよ。私はその気はないのだし、アリシア様を応援するわ」
「ええっ?」
「あの……クリステア様?」
驚くマリエルちゃんと戸惑うアリシア様を無視して私は宣言した。
「アリシア様が選ばれるよう、私も協力します! 今度お兄様にレイモンド王太子殿下の好きなものとか色々と情報を仕入れてきますね!」
「え……あの、クリステア様? それはさすがに……」
アリシア様がオロオロして私を止めようとした。
え? せっかくレイモンド王太子殿下の側近候補のお兄様がいるのだから情報収集くらいお手伝いしなきゃ。
「ええと……クリステアさん、落ち着きましょう? そ、そうだ! そろそろお茶会を始めましょう? ね?」
「え? あ、そういえばそうね」
マリエルちゃんの言葉に気を取り直して目配せすると、ポカンとした顔で様子を見ていたミリアがハッと気を取り直したように頷いてから、手早くお茶の用意を始めた。
「本日のお茶は我が領地産の紅茶にいたしました。軽食とお茶菓子はお好きなものをお取りくださいませ」
ミリアと朱雀様によってお茶と軽食などがサーブされた。
まあ、朱雀様はインベントリから3段トレーをトトトン、と出していっただけだけど。
何もないところからいきなり軽食やお菓子が盛り付けられた3段トレーが出てきたのでアリシア様が目を白黒させていた。
「イ、インベントリ……」
私やマリエルちゃんも使えるんだけど、ここまでおおっぴらには使わないので今のところインベントリ持ちであることは一部の関係者くらいしか知られていない。
この反応を見るにやっぱり珍しい能力みたいね。
「本日はきゅうりと卵、それと我が領地特産のベーコンをそれぞれ使ったサンドイッチ、お菓子は新作のショートブレットにシフォンケーキ、アップルパイにフルーツ寒天を作りましたの。お好きなものをどうぞ」
私がざっと説明すると、アリシア様がトレーに盛り付けられた品々を上から下まで何度も往復するように見ていた。
「あの……ショートブレッド以外、食べたことがないものばかりですの。どれからいただけばよいのかしら……」
戸惑う様子のアリシア様を見て、私たちにとって当たり前のこれらが当たり前じゃなかった事をようやく思い出したのだった。
---------------------------
いつもコメント&エールポチッとありがとうございます!
執筆の励みになっておりますー!( ´ ▽ ` )
この部屋は私とお兄様しか使わないので、定期的な掃除をミリアの監督のもとバイトにお願いしている以外に人の出入りはない。
入学してすぐに一度だけ利用しただけだったので、ミリアの案内に従ってそれぞれの席に着いた。
「アリシア様、お茶会の前に不愉快な思いをさせて申し訳ございません」
楽しいお茶会の前に気持ちを切り替えようと思い、アリシア様に謝罪すると彼女は沈痛な面持ちで頭を振った。
「いいえ、今回のことは私が原因です。私の方こそ皆様に謝罪しなくては」
そう言ってアリシア様が頭を下げた。
「そんな、アリシア様は巻き込まれただけではありませんか。そもそも私がお茶会の誘いを断ったことが原因ですもの」
断ったのは両親で、どこの誰のお茶会を蹴ったとかは詳しく知らないんだけどね……
「ですが今回、ガドリー家のトリニアン様が動きを見せたのは私のせいですわ」
「え、そんなことは……」
「トリニアン様がおっしゃってましたわよね? 私とお茶会をすると聞いて解禁になったのかと思った、と……」
確かに言ってたわね、我が家と敵対してるグルージア家と、とわざわざ強調していたし。
「今朝、クリステア様からご招待いただきましたでしょう? そのことがランチタイムに食堂で噂されておりましたの」
そういえば、お誘いしたのは今朝の話なのにトリなんたらたちがその話題を出すのは早すぎるわよね。
「特別クラスの教室で私たちのやりとりを聞いていた誰かが情報を漏らしたのでしょう。誰かは大体見当がつきますけれど」
えっ? 私はさっぱりわからないけど⁉︎
「ああ、おそらく商会の子の誰かでしょうね。懇意にしている貴族の生徒に情報を流す約束でもしていたのでしょう」
マリエルちゃんがあーわかるわかる、といった様子で頷きながら言うとアリシア様がそれに応えるように頷き返す。
えっ! マリエルちゃんにはわかったんだ⁉︎
……私、そんなに鈍いのかな?
「敵対していたはずの私とお茶会を……と聞いて、社交とお互いの牽制が始まったのでは? と噂になっているようですの……その、私が王太子殿下の婚約者の座を諦めていないことは周知の事実ですから」
アリシア様がほんのり顔を赤らめ、気まずそうに言った。
え……可愛い! アリシア様可愛い!
なんであんなに口の悪いレイモンド王太子殿下がこんな可愛い子にモテてるのかさっぱりわからないよ!
私は王太子妃とか全くなりたくないので安心してほしい!
「あの……私は本当にレイモンド王太子殿下の婚約者候補になることはそれこそ生まれてすぐに辞退しておりますし、今でこそ魔力暴走が抑えられるようになりましたけれど、社交の方はさっぱりですし、王太子妃なんてとてもじゃないけれど務まりません」
「ですが……資格としては最有力と言っても過言じゃございませんでしょう?」
過言だよ! 私に王太子妃なんて務まるわけないじゃないの。
「私としてはその気は全くございませんし、そもそもその器ではないと自覚しております。アリシア様のようにそのために日々研鑽されている方のほうがふさわしいと思います」
「でも……私ではレイモンド王太子殿下の隣に立つには力量が足りません」
アリシア様はまっすぐ私を見て言った。
「なぁにつまんないことちんたら言い合ってるのよ? 力量? ワタシから見たらどっちもチンケな小娘でしかないんだからここでぐだぐだ譲り合っててもしかたないでしょ?」
「ルビィ! 黙って!」
ルビィがクッションを積み上げた席で気だるそうに言い放つのをマリエルちゃんが慌てて止めようとした。
「なによ。クリステアは婚約者候補とやらに興味なくて、アリーは逆になりたいんでしょう? クリステアが今後どうするかは知らないけれど、アリーは選ばれるよう努力するしかないし、クリステアはそれに協力してあげたらいい話なんじゃない?」
「ルビィったら、そんなに簡単なことじゃないのよ……」
マリエルちゃんが困ったようにルビィを見る。
「マリエルさん、ルビィの言う通りよ。私はその気はないのだし、アリシア様を応援するわ」
「ええっ?」
「あの……クリステア様?」
驚くマリエルちゃんと戸惑うアリシア様を無視して私は宣言した。
「アリシア様が選ばれるよう、私も協力します! 今度お兄様にレイモンド王太子殿下の好きなものとか色々と情報を仕入れてきますね!」
「え……あの、クリステア様? それはさすがに……」
アリシア様がオロオロして私を止めようとした。
え? せっかくレイモンド王太子殿下の側近候補のお兄様がいるのだから情報収集くらいお手伝いしなきゃ。
「ええと……クリステアさん、落ち着きましょう? そ、そうだ! そろそろお茶会を始めましょう? ね?」
「え? あ、そういえばそうね」
マリエルちゃんの言葉に気を取り直して目配せすると、ポカンとした顔で様子を見ていたミリアがハッと気を取り直したように頷いてから、手早くお茶の用意を始めた。
「本日のお茶は我が領地産の紅茶にいたしました。軽食とお茶菓子はお好きなものをお取りくださいませ」
ミリアと朱雀様によってお茶と軽食などがサーブされた。
まあ、朱雀様はインベントリから3段トレーをトトトン、と出していっただけだけど。
何もないところからいきなり軽食やお菓子が盛り付けられた3段トレーが出てきたのでアリシア様が目を白黒させていた。
「イ、インベントリ……」
私やマリエルちゃんも使えるんだけど、ここまでおおっぴらには使わないので今のところインベントリ持ちであることは一部の関係者くらいしか知られていない。
この反応を見るにやっぱり珍しい能力みたいね。
「本日はきゅうりと卵、それと我が領地特産のベーコンをそれぞれ使ったサンドイッチ、お菓子は新作のショートブレットにシフォンケーキ、アップルパイにフルーツ寒天を作りましたの。お好きなものをどうぞ」
私がざっと説明すると、アリシア様がトレーに盛り付けられた品々を上から下まで何度も往復するように見ていた。
「あの……ショートブレッド以外、食べたことがないものばかりですの。どれからいただけばよいのかしら……」
戸惑う様子のアリシア様を見て、私たちにとって当たり前のこれらが当たり前じゃなかった事をようやく思い出したのだった。
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