転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
上 下
299 / 384
連載

お茶会にご招待

しおりを挟む
数日後、お茶会の準備を終え、サロン棟にエリスフィード家が在学中借り上げている部屋を使用する旨を連絡した私は、マリエルちゃんと連名でアリシア様へ招待状を書き上げた。

朝、特別クラスの教室でアリシア様に手渡すと「ありがとうございます。放課後を楽しみにしていますわ」と即座に色良い返事をしたので、これまでのアリシア様の態度を知っているクラスメイトたちがびっくりしていた。

まあ、あれだけツンケンしていたのに嬉しそうに笑顔で応えたんだから驚くよね。
周囲のざわめきにアリシア様が気分を害してやしないかと気になって見ると、少し困ったように苦笑していた。
私とマリエルちゃんは顔を見合わせ「私たちも楽しみにしていますね」と笑顔で声をかけて席に着いた。

アリシア様とは和解したのだから、周囲にはこれから周知したらよいのだ。
アリシア様がもふもふ好きの同士と知った以上、友達にならない理由もないからね!
ふふふ……と今日のお茶会が楽しくなるものと確信している私のもとにエイディー様がやってきた。
「おはよう。なあ、アリーとお茶会すんのか?」
「あら、おはようございます。エイディー様。ええ、今日の放課後サロン棟に招待しましたの」
「いいなあ。クリステア嬢の用意した茶菓子とか、絶対美味いに決まってんじゃん」
手を頭の後ろで組み、羨ましそうにチラッと私を見たところで、セイが待ったをかけた。
「エイディー、今日は女子会と言って女性だけで楽しむ会だそうだから誘いを期待しても無駄だぞ?」

セイが嗜めるように言うと、エイディー様が口を尖らせてガックリと俯いた。
「えー……ジョシカイってなんだよそれ……あ、そうだ! じゃあセイは参加しないんだよな? 今日寮に遊びに行ってもいいか?」
「は? なんでそうなる?」
「なんでって、俺たち親友だろ? 放課後と一緒に遊びたくね?」
不思議そうに答えるエイディー様にセイがぽかんとしたかと思うと、そっぽを向き「……好きにしろ」と一言。あ、耳が赤い。

「おう! あ、何か茶菓子の一つも用意しとけよな!」
「やかましい!」
ニカっと笑っておやつを要求するエイディー様にセイが突っ込みを入れるのを微笑ましく見ながら、今日お茶会に参加しない皆のために確保しておいた分にエイディー様のおやつ分を追加しようと決めた。

「はああ、尊い……朝からごちそうさまです……!」
マリエルちゃんが頬を紅潮させ、目を潤ませながら歓喜に打ち震えていた。
……つ、突っ込まないぞ!
朝からマリエルちゃんに氷魔法をお見舞いするわけにはいかないと、ひたすらスルースキルを磨く私なのだった。

そしてその放課後。
私とマリエルちゃんは午後の授業が免除の科目が多かったため早めに特別寮に戻り、サロン棟へ向かうことにした。

「いくら結界魔法で安全とはいえ、護衛は必要ではないか?」
「くりすてあのけいやくじゅうなんだし、おれもじょしかいにさんかしちゃだめ?」
女子会に護衛としてついていくと言って聞かない黒銀くろがね真白ましろに言い聞かせる。
「だめ。今日はアリシア様とゆったりくつろいでいただいて仲良くなろうって決めてるんだから。人化していようと本来の姿だろうと黒銀くろがね真白ましろがいたら気になってしまうかもしれないもの」

人の姿をした真白ましろはともかく黒銀くろがねは大人の男性の姿だから威圧感があるかもしれないし、真白ましろは真白で、私に敵対心剥き出しだった頃のアリシア様に良い印象を持っていないから日頃の毒舌がポロッと出たら気分を害してしまうかもしれない。

それなら聖獣の姿でいればいいかというと、アリシア様がもふもふ好きなことが判明している以上、彼女に二人のことをモフらせてあげたいのだが、不承不承とばかりに触らせる二人を見たアリシア様が傷付いたりしてもいけないからね。
もう少しお互いが慣れてからがいいと思う。

「まあまあ。護衛ならワタシがいるから安心なさいよ。いざとなったらマリエルにステッキを渡すから」
「ルビィ……サロン棟が半壊しかねない攻撃手段を気軽に押し付けるのはやめよう?」
黒銀くろがね真白ましろにウインクするルビィを抱きしめながらマリエルちゃんが先日の特訓の威力を思い出したようでブルッと震えて嗜める。

「そうですわよ。代わりに私が護衛兼給仕係としてミリア嬢と同行いたしますから安心なさいな。あ、セイ様。報酬のプリンの確保はお願いしますわね?」
「……報酬分は先ほど平らげたと思うが? まあ、俺の分を取っておいてやるから頼んだぞ」
「さすが主! ありがとうございますわ!」
朱雀様が黒銀くろがね真白ましろにフフン、とドヤ顔で告げ、セイにはにっこりと艶やかな笑みを向けてプリンをねだっていた。
確かにさっき食堂で空になったプリンカップが何個も綺麗に洗われていた気がする……

「……この忌々しい鳥が護衛につくのはまだいいとして、ルビィが参加するのはどうなんだ?」
黒銀くろがねが苦々しい表情で朱雀様を一瞥してからルビィをマリエルちゃんごと見下ろした。

「え、ええと、あの。ル、ルビィはですね……」
黒銀くろがねの圧にアタフタとしながら説明しようとするマリエルちゃんの腕からするりと抜け出したルビィがマリエルちゃんの肩に飛び乗り、前足をマリエルちゃんの頭に片方だけ乗せてやれやれと首を振った。

「やあね。ワタシは当然女子枠に決まってるでしょ? こーんなにキュートなワタシがいないと女子会が盛り上がらないじゃないの」
……キュート、イコール女子枠入りってわけじゃないんだけど。
お茶会では人化してマッチョなお兄さ……オネエさんになる気はないみたいだし、アリシア様の緊張をほぐす役としてもルビィがいるほうが良さそうなので敢えてツッコミは入れないでいる。

「……おまえがいいなら、おれだっていいにきまってる!」
……確かに真白ましろは聖獣姿はもちろんのこと、人の姿だって可愛らしいけど、女子枠と言うには無理があると思うよ?
「……やめておけ、真白ましろ。此奴はあの娘に忌避感を持っておらぬし、確かに護衛として側につかせるほうがよかろう」
「ぐぬぬ……」
さすがに女子枠に入るかどうかで張り合う気のない黒銀くろがねは早々に諦めたようで真白ましろを止めた。

「ごめんね、黒銀くろがね真白ましろ。アリシア様と仲良くなったら今度は皆でお茶会しましょうね。今日はエイディー様が寮に遊びにいらっしゃるようだからお相手して差し上げてね」
将来騎獣できる騎士を目指しているエイディー様のことだから、白虎様や黒銀くろがねに質問したいことが色々とあるに違いないからね。
私がそう言うと二人は渋々ながらも了承してくれた。

---------------------------
いつもコメント&エールポチッとありがとうございます!
執筆の励みになっております!

先週6/8にコミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」が更新され、最終回を迎えました!
クリステアらしい最終回にほっこりした原作者なのでした……!
長きにわたりご愛読いただき、ありがとうございました!

住吉先生の描く元気いっぱいのクリステアに私も元気をいただいておりました。
原作のWEB連載は続きますので、ミュシャ先生や住吉先生のクリステアたちを思い浮かべながら読んでいだだけますと幸いです!

コミックスは8月発売予定とのことですので、よろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 3,372

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。