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誤解はとけた?
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「エイディーよ、おぬしはどうしてそこまでアリシア嬢のことを知っておるのかの?」
険悪な空気の中、マーレン師が顎髭をしごきながら問うた。
「俺とアリーは幼馴染なんです。だから、アリーがもふもふした生き物をたくさん飼ってるのを知ってるし、何なら誕生日にプレゼントしたこともありますから」
ああ、二人は幼馴染だって言ってたっけ……
「それで、前に魔物を召喚する授業でテイムせずに送還したことを後悔して落ち込んでいた様子だったから話を聞いたら、本当はテイムしたかったのにクリステア嬢に対抗していつか聖獣を召喚して契約するんだ!って決めていたから泣く泣く送還したのに、その直後にマリエル嬢が聖獣の召喚を成功させたからショックだったんだって」
そういえば、アリシア様が送還する時に、声は聞こえなかったけれど、口の動きが魔物に「ごめんなさい」って呟いてたように見えたんだった。
あれは「テイムしなくてごめんなさい」ってことだったのかしら。
「自分は小さな魔物を召喚できただけなのに、貴族になって間もないマリエル嬢が聖獣とあっさり契約したもんだから、自分は聖獣の加護を受けるに値しない、すなわち王太子殿下の婚約者になる資格なんてないのではないか、そう考えたらクリステア嬢に対して暴言を吐いたとかで、なんて失礼なことをしたのかと落ち込んでたみたいで」
「……エイディー。貴方、後で覚えてらっしゃい」
アリシア様が俯いたまま低い声でぼそっと呟いた。こわっ!
「あのさあ、アリー。もういい加減謝っちまえって。クリステア嬢は殿下の婚約者になりたーい! とか考えてないようだってセイも言ってたぜ。アリーが勝手に対抗心燃やしてただけじゃん。それに本当はルビィ様や他の聖獣様たちのこともめっちゃ気になってるんだろ? 二人にツンケンしてないで、早く仲直りして撫でさせてもらえばいいじゃん。今更仲良くなんてーって意地はってないでさ」
「エイディー! 貴方もう黙ってちょうだい!」
バッとエイディー様を見上げたアリシア様のお顔は真っ赤で涙目だった。
エイディー様、貴方デリカシーなさすぎじゃありせんかね……?
これだから脳筋は……って言われても仕方ないやつですよ!
ていうか、セイ。貴方もエイディー様に何を言ってるの?
セイをチラッと見たら目を逸らされた。
私のことを勝手に噂したのはいけなかったって自覚はあるみたいね。
でも、今回に限っては二人ともグッジョブと言わざるを得ないかも……
「ふむ。なるほど、なるほど……。アリシア嬢は王太子殿下の婚約者候補の一人じゃったか。それで、婚約者候補筆頭と噂されとるクリステア嬢に嫉妬しておったと。でもって、聖獣契約を易々と成し遂げたマリエル嬢を見て嫉妬し、自信喪失もした。と、まあそういうことじゃな?」
「……っ! そ、そうですわ」
アリシア様はそう言って目を伏せ、スカートの裾をギュッと握った。
あああ、今にも涙がこぼれ落ちそう……!
「アリシア嬢よ。残念じゃがお前さんの嫉妬はお門違いじゃな。このクリステア嬢は婚約者候補になるまいと逃げ回っとるし、入学時に聖獣のお二方が陛下と妃殿下に釘を刺しとるぞい?」
「えっ⁉︎」
アリシア様が驚いた顔で私を見た。
ついでにエイディー様やロニー様もびっくりしたように私を見た。
え? そんなに意外なこと?
「あの、マーレンし……先生がおっしゃったように、私は王太子殿下の婚約者になるつもりはございません。生まれてすぐに魔力過多で領地に引き篭もることになった際、父からあらかじめ辞退すると陛下に告げていたそうですし……」
ええ、お父様は嬉々としてお断りしてますとも。なんなら今でものらりくらりと躱しているみたいだし。
「それに、王太子殿下の婚約者を目指すのでしたら聖獣契約はむしろ避けた方がよろしいかと思います。聖獣は契約を交わした主人にひどく執着しますから。下手をすると国を象徴する聖獣たるレオン様と敵対しかねません」
「「「えええっ⁉︎」」」
アリシア様、エイディー様、ロニー様が大声をあげて驚いた。
まあ身近に聖獣がいるわけじゃないからそんなこと知らないわよね……
「え、じゃ、じゃあ俺が聖獣契約や魔獣契約をするのもまずいのか⁉︎」
エイディー様が狼狽えながら質問してきた。
いやエイディー様は婚約者目指してませんよね⁉︎ それ以前の問題だけど!
「いえ、陛下の臣下たる騎士に聖獣契約者がいることは戦力として他国への抑止力となりますのでむしろ歓迎されるかと」
「そ、そっか。そうだよな!」
あからさまにほっとした様子のエイディー様。
そうだよね、エイディー様は大型の聖獣や魔獣に騎獣して戦うのが夢だもんね。
「そんな……私、今まで何のために……」
アリシア様は気が抜けたように呆けていた。
敵対心をメラメラ燃やしてた相手(私)が実は婚約者になるのを嫌がって逃げてたり、候補筆頭になる条件と思っていた聖獣契約がむしろ悪手だったとか、いきなり一気に知っちゃったらこうもなるか……
重い空気に落ち着かない私とマリエルちゃんがどうしたものかと目を合わせていると、ルビィがぴょこぴょことアリシア様に近づいた。
「……っ!」
ルビィがへたり込んだままのアリシア様のひざに前足を置くと、ビクッと怯えたように震えた。
「あのねぇ、この爺さんが言ったように貴女の嫉妬はお門違いなの。そのことはちゃんと理解したわね?」
「……はい」
アリシア様はしおれた花のようにしょんぼりして言った。
「じゃあ、貴女が今からすべきことはわかるわよね?」
「……ええ。クリステア様、マリエルさん。私の思い込みで嫌な思いをさせて申し訳ありませんでしたわ」
アリシア様はそのまま私とマリエルちゃんを見上げ、膝の前に手を揃えて頭を下げた。
ひえっ⁉︎ この国で土下座を見るのは二回目だよ⁉︎
貴族のお嬢様が土下座とか、普通に考えてありえないんだけど⁉︎
「ちょ、ちょちょっと! 顔を上げてくださいませ! 私、そんな風に謝られる様なことはされておりませんから!」
私とマリエルちゃんが慌ててアリシア様に駆け寄り、上体を起こすように支えると、アリシア様は涙をポロポロとこぼしていた。
「だって、私、クリステア様に酷いことを……」
「私、気にしておりませんわ。誤解がとけたのでしたら私はそれで。これからは私たちとも仲良くしてくださるのでしょう?」
私はハンカチを取り出してアリシア様の頬を伝う涙を拭った。
実際のところ、最初のサロン棟での暴言以外は目が合う度に「ふんっ!」とばかりにツンケンされたりした程度で、わかりやすい嫌がらせとかされたことないもんね。
成績で見返してやるー! みたいな気合いは感じられたけど、それも学生なら成績を争うとか当たり前の話だし。
嫌がらせってのはね、前世のOL時代にお局様からえぐーいのを受けたりしたこともあるからね、子どものシカトなんて、可愛いもんよ……ふっ。
「わ、私と仲良くなんて……」
「ク、クククラスメイトですからっ! 仲良くしてくださるとわ、私、嬉しいですっ!」
マリエルちゃんがどもりながらアリシア様に必死に訴えた。
「ええ、私も」
「クリステア様、マリエルさん……ありがとうございます。よろしくお願いしますわ」
再び涙がこぼれ落ちたので、私は涙を拭い、そのままハンカチを握らせた。
「ええ、よろし……」
「んふふ、偉いわよ、アリー! ちゃーんと謝れて、仲直りできたわね!」
よろしくと言いかけたところで、ルビィがアリシア様の膝に乗ってきた。
え、ルビィ、アリシア様のことアリーって……急に気安くない⁉︎
「ル、ルビィ様⁉︎」
アリシア様が驚いてパッと上半身をのけぞらせた。
「素直な良い子は大好きよ。ワタシのファンなら尚更ね! ご褒美にワタシのこと撫でさせてあげるわ」
ルビィがピッとシルクハットを持ち上げた瞬間にかき消えた。
ステッキも手元にないから、どっちもインベントリに収納したみたいね。
「……!」
アリシア様が驚いてルビィを見つめた。
「い、いいんですの……?」
「ええ。ファンサってやつよ!」
「ふ、ふぁんさ、ですか……?」
ウインクするルビィにアリシア様が首を傾げて復唱した。
マリエルちゃん、ルビィに何を教えてるの?
チラッと見たら、目を逸らされた。
マリエルちゃん……
「で、では失礼して……」
アリシア様がおずおずと手をルビィの頭に置かれ、するりと撫でた。
「わ……」
アリシア様の頬が緩み、目が輝いた。
私はこの瞬間、もふもふを愛でる会に会員が一人増えたなと確信したのだった。
---------------------------
先週少なめだったので今回は多めに!
そしてお待たせしました!
コミカライズ版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」のWEB連載が四月二十日に再開しますので皆様お楽しみに!
私も楽しみです!(≧∇≦)
険悪な空気の中、マーレン師が顎髭をしごきながら問うた。
「俺とアリーは幼馴染なんです。だから、アリーがもふもふした生き物をたくさん飼ってるのを知ってるし、何なら誕生日にプレゼントしたこともありますから」
ああ、二人は幼馴染だって言ってたっけ……
「それで、前に魔物を召喚する授業でテイムせずに送還したことを後悔して落ち込んでいた様子だったから話を聞いたら、本当はテイムしたかったのにクリステア嬢に対抗していつか聖獣を召喚して契約するんだ!って決めていたから泣く泣く送還したのに、その直後にマリエル嬢が聖獣の召喚を成功させたからショックだったんだって」
そういえば、アリシア様が送還する時に、声は聞こえなかったけれど、口の動きが魔物に「ごめんなさい」って呟いてたように見えたんだった。
あれは「テイムしなくてごめんなさい」ってことだったのかしら。
「自分は小さな魔物を召喚できただけなのに、貴族になって間もないマリエル嬢が聖獣とあっさり契約したもんだから、自分は聖獣の加護を受けるに値しない、すなわち王太子殿下の婚約者になる資格なんてないのではないか、そう考えたらクリステア嬢に対して暴言を吐いたとかで、なんて失礼なことをしたのかと落ち込んでたみたいで」
「……エイディー。貴方、後で覚えてらっしゃい」
アリシア様が俯いたまま低い声でぼそっと呟いた。こわっ!
「あのさあ、アリー。もういい加減謝っちまえって。クリステア嬢は殿下の婚約者になりたーい! とか考えてないようだってセイも言ってたぜ。アリーが勝手に対抗心燃やしてただけじゃん。それに本当はルビィ様や他の聖獣様たちのこともめっちゃ気になってるんだろ? 二人にツンケンしてないで、早く仲直りして撫でさせてもらえばいいじゃん。今更仲良くなんてーって意地はってないでさ」
「エイディー! 貴方もう黙ってちょうだい!」
バッとエイディー様を見上げたアリシア様のお顔は真っ赤で涙目だった。
エイディー様、貴方デリカシーなさすぎじゃありせんかね……?
これだから脳筋は……って言われても仕方ないやつですよ!
ていうか、セイ。貴方もエイディー様に何を言ってるの?
セイをチラッと見たら目を逸らされた。
私のことを勝手に噂したのはいけなかったって自覚はあるみたいね。
でも、今回に限っては二人ともグッジョブと言わざるを得ないかも……
「ふむ。なるほど、なるほど……。アリシア嬢は王太子殿下の婚約者候補の一人じゃったか。それで、婚約者候補筆頭と噂されとるクリステア嬢に嫉妬しておったと。でもって、聖獣契約を易々と成し遂げたマリエル嬢を見て嫉妬し、自信喪失もした。と、まあそういうことじゃな?」
「……っ! そ、そうですわ」
アリシア様はそう言って目を伏せ、スカートの裾をギュッと握った。
あああ、今にも涙がこぼれ落ちそう……!
「アリシア嬢よ。残念じゃがお前さんの嫉妬はお門違いじゃな。このクリステア嬢は婚約者候補になるまいと逃げ回っとるし、入学時に聖獣のお二方が陛下と妃殿下に釘を刺しとるぞい?」
「えっ⁉︎」
アリシア様が驚いた顔で私を見た。
ついでにエイディー様やロニー様もびっくりしたように私を見た。
え? そんなに意外なこと?
「あの、マーレンし……先生がおっしゃったように、私は王太子殿下の婚約者になるつもりはございません。生まれてすぐに魔力過多で領地に引き篭もることになった際、父からあらかじめ辞退すると陛下に告げていたそうですし……」
ええ、お父様は嬉々としてお断りしてますとも。なんなら今でものらりくらりと躱しているみたいだし。
「それに、王太子殿下の婚約者を目指すのでしたら聖獣契約はむしろ避けた方がよろしいかと思います。聖獣は契約を交わした主人にひどく執着しますから。下手をすると国を象徴する聖獣たるレオン様と敵対しかねません」
「「「えええっ⁉︎」」」
アリシア様、エイディー様、ロニー様が大声をあげて驚いた。
まあ身近に聖獣がいるわけじゃないからそんなこと知らないわよね……
「え、じゃ、じゃあ俺が聖獣契約や魔獣契約をするのもまずいのか⁉︎」
エイディー様が狼狽えながら質問してきた。
いやエイディー様は婚約者目指してませんよね⁉︎ それ以前の問題だけど!
「いえ、陛下の臣下たる騎士に聖獣契約者がいることは戦力として他国への抑止力となりますのでむしろ歓迎されるかと」
「そ、そっか。そうだよな!」
あからさまにほっとした様子のエイディー様。
そうだよね、エイディー様は大型の聖獣や魔獣に騎獣して戦うのが夢だもんね。
「そんな……私、今まで何のために……」
アリシア様は気が抜けたように呆けていた。
敵対心をメラメラ燃やしてた相手(私)が実は婚約者になるのを嫌がって逃げてたり、候補筆頭になる条件と思っていた聖獣契約がむしろ悪手だったとか、いきなり一気に知っちゃったらこうもなるか……
重い空気に落ち着かない私とマリエルちゃんがどうしたものかと目を合わせていると、ルビィがぴょこぴょことアリシア様に近づいた。
「……っ!」
ルビィがへたり込んだままのアリシア様のひざに前足を置くと、ビクッと怯えたように震えた。
「あのねぇ、この爺さんが言ったように貴女の嫉妬はお門違いなの。そのことはちゃんと理解したわね?」
「……はい」
アリシア様はしおれた花のようにしょんぼりして言った。
「じゃあ、貴女が今からすべきことはわかるわよね?」
「……ええ。クリステア様、マリエルさん。私の思い込みで嫌な思いをさせて申し訳ありませんでしたわ」
アリシア様はそのまま私とマリエルちゃんを見上げ、膝の前に手を揃えて頭を下げた。
ひえっ⁉︎ この国で土下座を見るのは二回目だよ⁉︎
貴族のお嬢様が土下座とか、普通に考えてありえないんだけど⁉︎
「ちょ、ちょちょっと! 顔を上げてくださいませ! 私、そんな風に謝られる様なことはされておりませんから!」
私とマリエルちゃんが慌ててアリシア様に駆け寄り、上体を起こすように支えると、アリシア様は涙をポロポロとこぼしていた。
「だって、私、クリステア様に酷いことを……」
「私、気にしておりませんわ。誤解がとけたのでしたら私はそれで。これからは私たちとも仲良くしてくださるのでしょう?」
私はハンカチを取り出してアリシア様の頬を伝う涙を拭った。
実際のところ、最初のサロン棟での暴言以外は目が合う度に「ふんっ!」とばかりにツンケンされたりした程度で、わかりやすい嫌がらせとかされたことないもんね。
成績で見返してやるー! みたいな気合いは感じられたけど、それも学生なら成績を争うとか当たり前の話だし。
嫌がらせってのはね、前世のOL時代にお局様からえぐーいのを受けたりしたこともあるからね、子どものシカトなんて、可愛いもんよ……ふっ。
「わ、私と仲良くなんて……」
「ク、クククラスメイトですからっ! 仲良くしてくださるとわ、私、嬉しいですっ!」
マリエルちゃんがどもりながらアリシア様に必死に訴えた。
「ええ、私も」
「クリステア様、マリエルさん……ありがとうございます。よろしくお願いしますわ」
再び涙がこぼれ落ちたので、私は涙を拭い、そのままハンカチを握らせた。
「ええ、よろし……」
「んふふ、偉いわよ、アリー! ちゃーんと謝れて、仲直りできたわね!」
よろしくと言いかけたところで、ルビィがアリシア様の膝に乗ってきた。
え、ルビィ、アリシア様のことアリーって……急に気安くない⁉︎
「ル、ルビィ様⁉︎」
アリシア様が驚いてパッと上半身をのけぞらせた。
「素直な良い子は大好きよ。ワタシのファンなら尚更ね! ご褒美にワタシのこと撫でさせてあげるわ」
ルビィがピッとシルクハットを持ち上げた瞬間にかき消えた。
ステッキも手元にないから、どっちもインベントリに収納したみたいね。
「……!」
アリシア様が驚いてルビィを見つめた。
「い、いいんですの……?」
「ええ。ファンサってやつよ!」
「ふ、ふぁんさ、ですか……?」
ウインクするルビィにアリシア様が首を傾げて復唱した。
マリエルちゃん、ルビィに何を教えてるの?
チラッと見たら、目を逸らされた。
マリエルちゃん……
「で、では失礼して……」
アリシア様がおずおずと手をルビィの頭に置かれ、するりと撫でた。
「わ……」
アリシア様の頬が緩み、目が輝いた。
私はこの瞬間、もふもふを愛でる会に会員が一人増えたなと確信したのだった。
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先週少なめだったので今回は多めに!
そしてお待たせしました!
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私も楽しみです!(≧∇≦)
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