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危険な私⁉︎

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「でもクリステアちゃんだし、ねぇ?」
「うむ。嬢ちゃんの魔力量はケタ違いだし、使う魔法はわしらの想像を超えとるから今更だのう」
ティリエさんとガルバノおじさまの諦めたような遠い目がなんだかつらい!
「そうそう、前にも海の中に壁を作った時もすごかったものねぇ」
「は? 海の中に⁉︎ 普通作る端から波で崩れてくだろ⁉︎ なんで作れんだよ? おかしいだろ⁉︎」
それは今作った壁同様、水圧や波に負けない強度を目指したからです。
実際に作れたんだからおかしくないですよ!

オーウェンさんのツッコミに納得いかず、むくれていると、私の様子に気づいたオーウェンさんが頭をガリガリと掻いた。
「あー……アデリア学園に入学したばかりだったか? ……てことは、学園内でこの規模の魔法はまだ使ってないよな?」
「え? ええと……」
どうだったかな?
ちょっとした魔法なら使ったけど、多分、大丈夫なはず……?
「あのな、将来魔法師団の幹部を目指すとかでもないんなら、大っぴらにでかい魔法をぶっ放すのは控えたほうがいい」
魔法師団? 剣などの武器を使った近接戦が主なのが騎士団で、魔法を使って遠距離戦が得意なのが魔法師団だっけ。
前にティリエさんから「魔法師団長も夢じゃない」とか言われたような……
「特に魔法師団に入りたいとは思っていませんけど……」
「それなら使う魔法はセーブして、自分が使える魔法は大したことない風を装え。じゃないと学園の卒業を待たずに魔法師団に引き入れられて嬢ちゃ……じゃねえ、クリステア嬢自身が兵器扱いされかねん」
「えぇ⁉︎」
壁作っただけで、何で兵器⁉︎

「こんだけ硬い壁を土魔法で瞬時に作れりゃ、戦地の塹壕や砦作りなんかに重宝する。岸からの距離にもよるだろうが海中からストーンウォール……例えば、先の尖った柱を船底から突き立てりゃ敵の船を沈め放題だし、騎馬にも有効だ。となれば、十分戦略の一つに使えるだろ?」
「……」
言われてみればその通りだわ。
たかが壁と思っていたけれど、使い方によっては、戦争に一石を投じることになりかねない。

「オーウェン、私は娘を戦地に送り込むつもりはない。そのような不穏なことを娘に吹き込むのはやめてもらおう」
お父様が私とオーウェンさんの間に立ち、黒銀くろがね真白ましろが私を庇うように両脇を固めた。
「我らが主を護るゆえ、心配には及ばぬ」
「そうだそうだ!」
オーウェンさんが私の保護者たちを見て大きなため息を吐いた。
「公爵。娘さんが大切なのはわかりますが、聖獣契約者というだけでも目立つ彼女が戦争において有用だとわかれば、聖獣様方による他国への抑止力だけでなく、いざとなれば彼女自身が戦力として数えられるのは当然でしょう。現在は平和なものだが、もし戦争になればドリスタン王国の貴族である以上、要請を拒否することは難しい。そのことをきちんと教えないのは危険だとこの現状を目の当たりにした貴方ならお分かりのはずでは?」

「む、しかしだな、クリステアはまだ子どもなのだし……」
「先ほどのマリエル嬢とルビィ殿のやりとりを見ていたでしょう? 保護者や我々大人、そしていくら聖獣様方が護ると言ってもどこかで綻びがないとも限らない。クリステア嬢もそれを自覚して慎重な行動をとらなきゃ皆が今日ここでなあなあにしたことを後悔することになりかねんと思いますよ?」
「う……」
オーウェンさんの厳しい言葉にお父様が怯んだ。普段なら領民相手にこんな態度を取らないお父様が弱気を見せるということは、お父様もオーウェンさんの主張が正しいとわかっているからだ。
「お父様、オーウェンさんの言う通りです」
「クリステア⁉︎」
私は膨大な魔力持ちの自覚を持ちながら、どこかで護られているという甘えがあるのだと思う。情けないことに。
実際、家族や黒銀くろがね真白ましろたちに助けられたことはこれまでたくさんあったもの。

私はお父様の隣に並んでオーウェンさんと向かいあった。
「オーウェンさん、助言ありがとうございます。聖獣契約者としてすでに目立っている以上、全てを隠し通すのは難しいですけれど、皆と相談しながら考えたいと思います」
「ああ、それがいいと思うぜ」
「お父様、それに黒銀くろがね真白ましろ。私なりに頑張るから、甘やかさず助言をお願いしますね」
「クリステア……」
ぺこりとお父様たちに頭を下げると、オーウェンさんがうんうんと頷いた。

「まあ、クリステア嬢が膨大な魔力持ちなのは知れ渡ってるわけだし『あまりに無茶を強いられたらぁ、私ぃ、魔力が暴走して味方に甚大な被害が及ぶかもぉ?』とか言っとけばいいんじゃね?」
オーウェンさんが両手を頬に当て、裏声で戯けて言うので、思わず「私、そんな話し方はいたしません!」と反論したら皆に大笑いされてしまった。ぐぬう。
真白ましろ黒銀くろがねだけは「こいつっとく?」と笑顔で言うので宥めるのが大変だった……

その後は改めて設置した的を使い、魔導具ステッキの試射が再開された。
先ほど、オーウェンさんがステッキをいじっていたのは、手元に飾りのように見えていたダイヤルで、魔法の出力を五段階まで変えられる仕様になっていた。
え、なにその変態的な仕様……
試射を繰り返した結果、通常は任意の相手を戦闘不能にさせられる一番目と二番目のダイヤルをメインに、三番目は広範囲に魔法を使いたい時用、最大出力の五番目とその手前の四番目のダイヤルは余程のことがない限り封印することになった。

さらに言えば、属性の違う魔石を組み合わせて威力を増すための別の隠しダイヤルもあったのだけど、魔石一個の最大出力よりやばい結果になりかねないそうでお父様が使用を禁じた。
マリエルちゃんも「絶対に使いません!」と断言したのでその魔法は日の目を見ることはなさそうだ。
「まったく、なぜそのような危険な機能までつけたのだ……」
お父様が眉間に手を当てながら言うと、なんとオーウェンさんはにこやかに「いやぁ、あれだけの魔石を使った魔導具で、どこまでの威力が出せるものか突き詰めるのって、ロマンじゃないですか?」と言い放った。
オーウェンさん、そんな貴方に私の魔法がおかしいって言われたくないんですが⁉︎
私は憤慨していたのに、周囲の男性陣は「まあ、わからんでもない」みたいな反応だったのが解せぬ!
セイですら似たような反応だったからびっくりした。
うう、前世の平和な日本暮らしの私たちにはわからない感覚だよ……とマリエルちゃんと二人してドン引きしたのだった。

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文庫版「転生令嬢は庶民の味に飢えている」四巻発売中でごさいます。
書き下ろし番外編は真っ白もふもふ聖獣なあの子が主役です!
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